最悪だ最悪だ最悪だ






「大失態だ…」

「まあ、そう気を落とすな」

「やなちん…!(神)」

「ところでどう見たら幸村が女に見えたんだ、なまえ」

「あたしの傷を抉るような真似はしないで真田弦一郎の皮をかぶったおっさん」




あたしが見た美女は男でした。
男?男?
あたし達は相談室のソファに腰掛け向かい合って弁当をつついていた。美女…じゃなかった美男?はあたしの目の前に座っている。

何度見ても男性という点に変わりはない。確かに、スラックス履いてるし、肩幅も女性に比べたらだいぶ広い。それになにより



「確かに貧乳だと思ったんだよねあた「早死にをお望みかい?みょうじさん?」

「すみませんでした」


しかも相手を間違った。この美男物凄く怖い。てかドSの気を感じる。あっちゃんとは違う、こう、なんというか…


「魔王みたいな…?」

「君はさっきからぶつぶつと、俺に悪口ばかり言っているのかな?」


「いいえ滅相も御座いません大人しくしてます」


「蓮二、ふたりは知り合いなのか?」

「いや、違うと思うが…」


激しく怯えながらの食事というもの程満たされないものは無い、と誰かが言っていたような気がするが、まさしくその通りだとあたしは今身を以て感じている。喉を通る物質になんの味も感じられないからだ。それどころか確かに喉を通っているのに、食べた気がまるでしない。



「ところで蓮二、どうしてこの子を連れてきたの?ここに誰か連れてきたの初めてだろ?」

「ヒッ」

「どうしてみょうじさんが怯えるんだい?」

「ああ、いや。一緒に昼食を取ろうと言われたんだ」

「で?おっけーしたんだ」

「ああ。」


いや、頼んだのあっちゃんだしその時やなちん無視したよね?したよね?とは申し訳なくて言えない。


「まあ、弦一郎も知り合いみたいだしね。俺だけ知らないなんて不公平だ」

「なんかそれは違うような「なに?」

「いえなんでもございませんお目にかかれて光栄です幸村先輩」

「ふは、同級生なのに先輩だなんて、変な子だね」



目が、目が笑っていないんだよ幸村先輩…なんて、到底言える筈もなく。あたしは黙って食事に集中することにした。これ以上逆らったら死ぬ、死ぬんだとあたしの本能が叫んでいるような気がしたからだ。



しかし、なんだか変な光景だった。と、ふと考えた。目の前で部活だなんだクラスがどうだと話しているやつらは皆、テニス部で、男子で、学校一モテる集団の一部なわけで。あたしは外部から突然入学してきたあほで。そんなあたしらが出会って間もない(というかさっき出会った奴もいる)のにこうして昼を一緒に取っているというのはなんだか。



( 世の美女に申し訳ない… )




「時に精市」

「なんだい?」


「この前の、あいつはどうなった?」

「あいつ?ああ、D組の菊池さん?」

「ああ、うちのクラスの奴が一緒に帰っていたと噂していたんだが」

一緒に帰る?
あたしはその言葉を取り逃がさなかった。しかもD組の菊池さんといえばバドミントン部のスレンダー美人!(勝手に作った美人図鑑に登録済み。ちなみに1番はあっちゃん)


「え、幸村大先輩彼女さんとかいらっしゃる系ですか?」

「その全然なってない人間以下の喋り方やめたら話してやらない事も無いよ?」

「ゆ、幸村精市様は彼女様とか、その、奥方様とか、いらっしゃるんですか?」

「戦国時代に生まれて矢にでも打たれて死ねば良かったのに」



本当、根っから出る言葉が邪悪過ぎる。と心の中で毒吐くもとても恐ろしくて口に出来ないチキンハートな私をお許しください。


「で、どうなんだ?」

「別に、何もないよ?付き合ってくれみたいな事何回か言われたけど、興味無いな。俺、男の前でだけ性格変わるのほんっとうに虫酸が走るんだよね」


それは興味ないとかじゃなくて嫌いという次元なのでは…?幸村大先輩。


「女と噂が絶えぬとは、たるんどる証拠だ」


と、黙々と重箱みたいな弁当箱にぎっしりつまったオカズを食べていたおっさん(真田)が言った。


「何、おっさんは女の子と一緒に帰ったこととかないわけ?きも。どうせ童貞なんでしょ?」

「たたたたた、たるんどる!!おなごがど、童貞などと!たわけが!!しかもおっさんではない!!」



あたしが一言言うと、ムキになったおっさん真田の鉄槌が飛んできた。しかし、一度経験した事、学習能力の無いあたしではない。あたしは咄嗟に顔面を後ろに引きそれを回避した


「ふん、おっさん動体視力鈍ったんじゃない?」


そしてべっと舌を出すと今度こそ拳骨を食らってしまった。くそう、全然容赦が無い…


「にしても、弦一郎の鉄槌を避けるなんて、凄い事だよみょうじさん」

「あたた…ん?そうなのかね?」

「恐らく、みょうじがサッカー部だからだろう」

「え、みょうじさん、あの怪物集団の一味なんだ?」


「か、怪物…?」




あたしがおっさん真田の鉄槌を避けた理由がサッカー部だからだと言うやなちん。そしてそのサッカー部を怪物集団だという幸村大先輩。

あたし⇒サッカー部
サッカー部⇒怪物

∵あたし=怪物


「なんでやねん!!!」


しまった慣れない突っ込みなんてしてしまった関西弁で。ごめんなさい関西の人達、わたしをいじめないでください


「いや、あの運動量は…」


と、珍しく言葉を濁す幸村大先輩。うん、と頷くやなちん。あたしは別に運動量が多いなんて一度も思った事はない。


「女にしてはなかなかの運動量だが、まだまだだな」

「何?弦一郎、越前リョーマの真似?きもいからやめてくれるかな」

「な、だ、断じてそんな事は無い!」


強気のおっさん。
でも童貞か、きもいな


「てか童貞、」

「き、さま…まだ言うか…」

「話蒸し返すけど女の子と帰った事もないなんて人生損してるよね」


あたしは先ほどからこれが言いたくてうじうじしていた。



「な、ならば蓮二も…「やなちんならあたしとあっちゃんと一緒に帰るよ?たまに」


「へえ、蓮二、いつの間に」

「いや、精市、これは…」


「みょうじさん、今度は俺とも一緒に帰らない?」

「ふぁんの御姉様方にぶちのめされたくないです」

「そんなことないよ、大丈夫」


「え、でもこわ「いいよね?」


「光栄です幸村大先輩」



か、敵わない…
そしてまんまと言いくるめられ機会があったら、とあいまいな返事だけしながら全て食べ終わった弁当箱の片付けに集中するフリをした。ちなみに一緒に帰る気はない。あたしは是非美しいお姉さんと登下校を共にしたい。



「あ、しまった」


片付けを終え、時計の針を確認すると授業開始10分前だった。なんやかんや、時間の流れとは早いものだと思う。

「どうしたんだい?みょうじさん」

「次の時間移動教室なんだった。やば、あっちゃんの事言っとかなきゃ…あたし先に戻るね、じゃ、あとでねやなちん。またいつか、幸村大先輩、どうて…真田」



あたしはそいつらの返事も待たずに持ってきた弁当箱を抱え相談室を飛び出した。
あとであっちゃんに聞いてもらおう。そうしよう。










「蓮二」

「なんだ?」

「みょうじさん、サッカー部だっけ?」

「そうだが…」

「ふーん」


デモクリトスの休息2
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