入部しました
「女子サッカー部に」
「あんた、最近変よ?」
さなちん(と言ったらぶん殴られたので真田)と運命の出会いを果たし、何発か殴り合ってからというもの、あたしはため息⇒意味不明な会話をループしていた。
それは念願の女子サッカー部に入部したあとも変わらず。今日の昼休み前最後の授業数学Aも、例外ではなかった。
理由?理由なんて、そんなものただひとつ。
「なんでさなちんはおっさんになってしまったの?取り憑かれたの?おっさんの霊なの?なんなの?」
「いや、どっちかってーと、今はあんたが取り憑かれてるみたいよ…」
後ろの席からあっちゃんが冷たい視線を送ってくる。いや、そんな目をしないでおくれよ。なんて思いながら隣の席のやなちん(なんかこの呼び方嫌らしい。)に目をやると、
( し、真剣そのもの…?! )
正直中学までずーっと部活に明け暮れていたあたしは、特に理数系が大の苦手。数学なんて、吐きそうになる。なんだっけ?集合?いやいや、分かりません。
「はあ…」
「何デカい溜め息ついてんのよ、もう少しで終わりなんだから」
「さなちん…」
「あんたねえ…あ、そういえばなまえ、次の授業の時先生に宜しくね」
「ん?何を?」
「は、あんた、ほんっとに取り憑かれたの?朝言ったじゃない、あたし今日部活の昼練で、昼終わった後の次の時間少し遅れてくから先生に伝えといてって」
「…え、うそん」
聞いて、ない。そんなの、聞いてない。てかそしたらあたし誰とご飯食べればいいわけ?友達イナイヨ
あたしはすがるような目であっちゃんを見た、が。効き目は無いと見た。
「いや、無駄。柳くんと食べればいいじゃん」
「え」
「あんた、柳くんも友達でしょ」
「出来れば美女と昼食を共に「柳くん、お昼いつもどこで食べる?良かったらこのみょうじなまえと一緒に食べてくれない?」
あっちゃんはドSだ。
あたしは気付いている。この子はドドドドSだ。
やなちんとご飯…何喋れば良いか分かんない分かんない。あたしがちら、と横目でやなちんを見ると、やなちんはなんの返事も無しに懸命に黒板の文字をきれいな字でノートに写していた。
無視もひでえな、おい
「いや、大丈夫大丈夫あたしそのへんでふらふら食べるし!美女ゲットにつながる機会だし!でも安心して、あっちゃんがいちば「うっさいわよあんた」
とは言ったものの。
「じゃあ今日はここまでだー」
鐘の音と共に終わりを告げた授業。一斉に立ち上がり思い思いに弁当を抱え移動するクラスメイト。溜め息が漏れるのは仕方がない事だと、思う。
「じゃ、あとでね」
といって、あっちゃんもばたばたとジャージに着替え教室を出ていってしまった。そして取り残されたあたし。
「どれ、じゃああたしも美女探しに」
諦めて弁当を抱え席を立った。
「なまえ、一緒に食べないのか?美女が見つからない確率、86%」
黒板の字を写し終えたのか、ぱたんと言う本を閉じる音と共にやなちんの声が横から聞こえてあたしはばっと凄い勢いで隣の席に目をやった。
ななな、なんですって?
「え、今なんと」
「いや、だから、一緒に食べないのかと、聞いたのだが」
「いいんですか…?ミラクル柳先輩(神)」
「物凄く尊敬されてるな、俺」
さっきは無視したくせに、やなちんはしっかりと聞いていたらしい。鞄の中から緑色の包みを取り出しがた、と椅子から立ち上がった。立ち上がったやなちんは、デカイ。いやほそっこいくせに、デカイ。
「てかやなちん」
「そのやなちんというものはどうにかならないのか?」
どこかに行くらしいやなちんの後を着いていきながらあたりをキョロキョロ見回す。なんだかなんだか、非常に視線が刺さるのよお母さん。
「じゃあ?やなやな?」
「センスの欠片も無いんだな、みょうじ…」
うわあ、なんだろう。今激しく冷たい目をされたような気がする。目とかもともとないくせに物凄く冷たい目をされた気がする。
「いやいや、まあいいとして。やなちん。なんか物凄く激しくさっきから視線が痛いんだけどさ、あたしモテんのかな?」
「……」
あ、また物凄く冷たい目をした。冷たい。凍てつくような目だ、と、思う(あくまで予想)
「なに?どーしたの!」
と言って、やなちんの肩をぐいっと引っ張った瞬間、周囲からきゃっと悲鳴が上がった。え?は?は?は?あたしはびっくりして思わずその手を引っ込めるどころか力を入れてしまった。
「みょうじ、少しばかり、痛いのだが…」
「あ、ごめんごめん。女の子達の可愛らしい悲鳴を聞いてしまったので思わず」
と言って、手を離した時、あたしはあっちゃんから聞いていた言葉を思い出した。
―テニス部には、ファンクラブもあるのよ、あんた、気を付けなさいね
しまった。やらかした、と思った時にはもう遅かった。
「じゃ、あっちだ」
やなちんと一緒にお昼食べるとか思われたら美女と仲良なれないじゃないかあああああ
てか、あたしがモテてるわけじゃないんだよね?そうなんだよね?そうなのよね?
「あ、美女…美女…」
「…どうしたんだ?みょうじ…」
困ったような顔をしながらどこかの教室のドアを開けるやなちんに、なんだか段々殺意みたいなのが芽生えてきたよ。くっそ、やっぱり美女探ししときゃよかったかもしれない…
こんな細目とご飯食べるくらいなら…
「ここだ。ここでは唯一、ゆっくり食事が出来るんだ」
と言って紹介された個室。どうやら相談室みたいなところのようなのだけど。なんで勝手に使えるんだ?
という疑問は後にして
「やなちん!あたしやっぱり!」
教室戻るっす!
と、勇気を振り絞って言おうとやなちんの方に顔を向けると、
美
人
が
座
っ
て
い
た
「ん?なんだ?みょうじ…「ウツクシイお姉さああああん!みょうじなまえと素敵なランチタイムを過ごしませんかあああああ?」
奥の席に、美人が。美人が。
それだけで帰る理由は無くなった。美人美人美人美人。
あたしはやなちんを全無視してそのウツクシイお姉さんの元へと駆け寄った。若干貧乳かもしれないけど関係無い。同じ学年なのだろうか、彼氏とかいるのだろうか。
「お姉さん、お名前を「幸村、買ってきたぞ飲み物…って、なんだ柳…と、なまえか?」
ウツクシイお姉さんとあたしの仲を引き裂くように、おっさんが現れた
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デモクリトスの休息1