だるいだるい、毎日の始まり






皆様こんにちは。わたしの名前はみょうじなまえ。今学期、いや今年よりめでたく神奈川県にあります立海大付属高校に入学しまして、今日がその登校一日目になります。

立海、といえばテニス野球剣道と部活が盛んな上に県内伐っての進学校。所謂文部両道な素晴らしい高校です。

元々、お金の無い普通の中学に通っていたぺーぺーな私がこの立海を選んだ理由はただひとつ。


サッカーをするため



であります。
女子でサッカーなんて珍しい？え？マネージャー？いやいや、勿論プレイヤーです。小学校からずっとサッカー部にいたのですが、女子サッカー部が県立市立の高校には殆ど存在せず、この立海は県内唯一の女子サッカー部がある高校なのです。しかも全国でも有名。

というわけで、両親と毎日のように戦い土下座し、部活の無い日はバイトをすることを条件にこの高校の入学を勝ち取りました。


しかしながらこの立海大付属。エスカレーター式に上がってきている奴等が殆どらしく、果たして馴染めるのだろうか。なんていう不安があるのもまた然り。しかも半ば一貫校みたいな学校だから高校にもなると入学式も省略。どうしたものか、とも考えるが



まあ、なんとかなるだろ！



とかなんとか。あたしは元気に校門をくぐった









「ん？」


のは、いいものの。学校に来たはいいものの。どうやら張り切り過ぎたらしい。8時30分までの登校なのに只今時刻7時24分。やらかした。やらかした。サッカーボールを片手に。



口内にひとが、いない。



「うわあ、これじゃあクラス探すフリして可愛い女の子見つけてあ！同じクラスですねー！とか言えないじゃんかクソ」



あたしはどうしようにも、成す術が無く。しかし他に宛も知り合いも無く。仕方無しに下駄箱前に張り出されたクラス割りから自分の名前を探し当てた


「ええ…みょうじ、みょうじっと…あ。あったB組だ下駄箱近いじゃんラッキー！」



あたしはどうやら1年B組に割り当てられたらしい。他にひとも見当たらないし、とあたしはひとりちょこちょこと自分の下駄箱を探しだし買えと言われて渋々買ったださい上履きに履き替えてから教室へと足を進めることにした。

本来なら、ここで教室に誰がいるのかどんなひとがいるのか、馴染めるだろうかとびくびくしながら教室に入るものなのだろうが、生憎今のあたしにそんな感情は不必要なわけで。



「おっはよーございます！」




なんて、大声で誰もいない教室に思いきり挨拶をし、た。

筈だった







「…おはよう…」








しまった最悪だ最低だ世紀末だこの世の終わりだあの世への幕開けだ。



やばい。


ひとがいた。しかも、これから一年間一緒に過ごすであろうクラスメイトに、のっけから恐ろしいくらいすがすがしい挨拶をしてしまった


「え？」



いや、と。あたしは時計を確認した。買ったばかりのカシオの時計。シンプルでお気に入り。安かったし。そしてその時計が差すのは7時33分。朝。いや、間違ってはいない。




「あ、あ、あさ、早いンデスネ！」



なんとかこの空気を乗り越えようと言葉を発したのはいいものの、今度は思いきり裏返ってしまった。最悪だ。あたしの高校生活は変人で決定だ。


「あ、ああ。そうだな。お前も、朝早いんだな」



ぎゃああああ！ほら！ほら！やばい、物凄く引かれてる。引かれてるよあたし。どうするの？


考えても仕方がない。あたしはてきとうに笑みを浮かべて一度教室を出た。そうだ、席順を確認するという名目でいい。あたしは教室前に張り出され席順の紙に目をやった。

そうして見つけたなまえなまえの名前。席はなかなか良い位置。窓側から2番目の列の後ろから3番目。皆と仲良くなるには絶好の位置。


さきほどの青年がどこに座っていたかなんて忘れたあたしはまた元気よく教室へと足を踏み入れ席を探した。


「窓側から、2番目…後ろから………ん？」







「となり、みたいだな」





もう誰かあたしの事を殺して下さい。お願いします。本当に、許して下さい。

あたしの席は見事に先程空気が気まずくなったばかりの青年の隣。まだクラスにあたしとこいつしかいないのに、隣。物凄く控えめにあたしはそこに腰を下ろした。



「あ、あの、どうも…」


言葉が見つからない。
見つからないのだ
見るからに静かそうだし


「ああ、」

「あの、お名前は…」

「え？」

「え？あ、すいません…初対面なんですからあたしから名乗るべきですよねすいませんごめんなさい出直します」


え？とか言われちゃったよ。どうしよう更に気まずいよ。



「あ、いや、すまない。違うんだ、俺の事、もしかして初めて見るのか？」


え？まさかの自意識過剰？



「ああ、まあ…そうですね…」

「もしかして外部入学か？」

「あ、何故それを…」



この青年を知らないだけで外部入学？こいつなんなんだ？どんだけやばいやつなんだ？


「まあ、いい。俺は柳蓮二だ」


「や、柳くんですね。あたしはみょうじなまえです宜しくお願いしますいじめないでください」

「あ、いや、いじめないだろ、大丈夫だ。それに、敬語、やめたらどうだ？」


「いやいやいや滅相も御座いません」



口数が少ないこの青年の声は、あたしの耳にはなかなか心地よく、ははは、と苦笑浮かべながら柳さんの顔を見た



( あ、目、ほっそ… )



遠くから見ていて気づかなかったが、この柳という青年、なかなか素敵な顔立ちをしている。というか目が細い。無い。でも、あたしが目細いのを好きだってのもありまして、整っている。ように見える

あ、しまった。いかんいかん。




「宜しくな、みょうじ」



なんて、微笑まれてしまった。気がした。



「あ、うん。よ、宜しく？」



なんとなーく。なんとなーく。やっていけるかもしれない。なんて、淡い期待を抱いてしまった朝7時45分。

これからどんな会話をしようかとひとりぶつぶつ考え事をしていた時、教室後方の扉が開いた





「おはよーあ、柳くんと同じクラスなんだ。…と、もしかして、外部入学の子？」



ななななな、なな。




「う、美しいおねーさあああん！！！あっしとお友だちになってくださああああい！！！」



黒髪ショートカットの、美人(巨乳)だった







あたしの高校生活、勝った

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スミスは笑った