さ、一緒に
「お疲れっしたー!」
部活も早めに終わらせた俺はそそくさとコートを後にした。皆が声を掛けてくれたり、女子部のことを引きずっているんじゃないか、なんて言い合っているのが聞こえたけれど、おあいにくさま。
今の俺にそんな余裕はないんだよね。
「行くのか?」
制服に着替え、部室を後にしようとする蓮二がひとことだけ。俺にそう言った。レギュラー達は皆、出て行って戻ってきた俺に何か言うことはしなかった。
「ああ、行くよ。」
「来るのか?」
「それは、分からないな」
それでも俺は待つ。待つと、決めたんだ。なんだって、格好悪いじゃないか。俺が守ってもらっている、だなんて。
格好良いナイト、とはいかないけれど。あの子に意思があるなら、俺は。
「あ、」
公園に向かう途中、閉店間際のケーキ屋の前を通ったら、なんだか可愛いシュークリームが店頭販売されていた。
「あと3つしか無いんですが、いかがですか?」
じっと、そのシュークリームを見ていたら、そんな事を可愛いお姉さんが微笑み掛けるから。その仕草が少しだけ、なまえを見せたから。
「じゃあ、3つください」
「少し早く来すぎたかな?」
さて。長期戦になりそうだな。なんて思いながら、8時を指す公園の大時計に目を向けた。まだなまえの姿は無い。俺は袋にはいった3つのシュークリームを見ながらため息をついた。
そういえば、なまえが来たらどうしよう。なんてことが今更
頭をよぎった。そういえばここに来いと言ったのはいいもののそのあと何をどうしたらいいか、全く考えていなかった。
( あの時は、なまえと話すのに必死だったから )
まあ、なんとか。
なるようになるだろうと、柄にもなく少しだけ緊張している自分を落ち着かせるように大きく息を吸い込んだ。
「…幸村」
俺の耳に、少し低めの落ち着いた声が響いたのは、大時計が10時を差した頃。今が冬だったら寒くて死んでしまっていたかもしれない事を思うと、春という季節に感謝せずにはいられなかった。
「なまえ、来てくれたんだ」
「んだよ、お前、体弱いくせに」
「わかってる」
「大会近くて遅くまで練習してるくせに」
「そうだね」
「今年も、全国制覇、しなきゃいけないのに」
「ああ、そうだね」
一歩ずつ、近づいてくるなまえが、あまりにも可愛くて。きっとこんなに可愛かっただなんて気付きもしなかったんだ。こんなに、なまえが愛しいだなんて、
「あたしが守ってやんなきゃ、駄目じゃねえかよ」
なんて言いながら、少しだけ後悔したようにうつ向くから、それ見よがしにと抱き締めた。温かいその体は、きっと。走ってここまで来た証拠。
それも、いとおしくて
「何があったか、聞かねえのか」
「いいよ、その内聞く。そんな事より、シュークリームでも食べない?わざわざ、買っておいてあげたんだけど」
「あたしに多くくれるなら食べてやる」
「はいはい、」
立川とどうなったとか、話はしたのか、そもそもどうしてこんなことになったのか、というかなまえは俺のことをどう思っているのか、俺たちの関係はなんなのか。どうしてここにきたのか。
聞きたい事はたくさんたくさん、やまほどあったけれど。
今はシュークリームでも食べながら昔話でも。
お題 甘い菓子で奴を待つ
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