お人好し、うざ




あれから暫くの間、といっても1週間くらい、なまえとは会話を交わすことをしなかった。校内で会っても双方が顔を反らし見て見ぬふり。加えて最近は、



「あ、部長、今日も来るっスよ」

「本当に、死んではくれないのかな?ね、弦一郎」

「な、何故俺に話を寄越す」

「弦一郎も同じくらいうざいから、なんて思ってないよ?」

「あーあ、副部長カワイソ。でも部長、マジでなんか、部長のこと狙ってるって感じっスよね」


「チッ」


女子部の奴等が頻繁に男子コートに顔を出すようになっていた。合同練習がしたいだとか、打ち合いがしたいだとか理由は様々だったけどうざいのに変わりはない。確実になまえと関係があるのは一目瞭然だったけれど、証拠が無いというか。俺にもなまえにも被害が無いんじゃどうにも出来ないのが現状。

俺のストレスは極限まで高まっていた。



「あ、幸村くん!」

「どうしたんだい?男子部は大会近いから打ち合いも合同練習もミーティングもしないんだけどな」


校内では可愛くておしとやかで有名だと自称の女子テニス部部長。名前なんか知らない。大体こんなブスのどこが可愛いのか気が知れない。俺はコート内に入ってきた彼女達を見るや否やにっこりと微笑んだ。早く消えてくれ。この作った笑顔さえも消える前に。


「そっか、大会、頑張ってね!女子部も応援に行くから!」

「いらないよ。そんなことより精々、女子も県大会落ちとかして立海の名前に泥を塗らないよう頑張ってね」

「っ、…そ、うね」


その部長は一瞬顔を歪ませるも、直ぐに小さく笑みを浮かべた。何がおかしいのかと、じいとその部長を見ていた時、これ見よがしに一緒に来ていた部員らしき女子達が話始めた


「てかてか、今日クラスで聞いたんだけど!F組のなまえとC組の立川付き合ったらしいじゃん?」

「な…っ、」


なまえが?
他の男と?


「そうそう、立川盛大に告ってたもんねー花束とか、お姫様かって」

「てか立川はなまえのどこがいいんだろうね?」

「顔とか別に普通だしね」

「普通かー?それ以下だろ」


言いながらけらけら下品に笑う女子達をブン殴ってやりたいという気持ちが心に沸き上がるのが分かった。それでもしなかったのは、すぐそこにうちのレギュラーが見えたから。


「あ、幸村くん」

「なんだい」


ああ、もう笑っていられない
そんな俺を見た女子部の部長は、心底楽しそうに笑みを浮かべた



「幸村くんてさ、もしかして自惚れてたんじゃない?」

「な、んだって…?」


「なまえがさ、彼氏出来ないって、もしかしたら、自分の事好きなんじゃないかって」

「そんなこと、っ…」



無い、とは言えなかった。
そうだ、確かにそうなんだ。俺は、なまえに彼氏なんて出来るわけがないと思っていた。2年までずっと仲良くしてて、俺の前でだけ話す話もあったし楽しそうにしていたし、心のどこかで、俺が好きなんだと錯覚していた、のかもしれない。いや確実に、していた



「男子テニス部さんには格好いいひと沢山いるし?モテモテだし?羨ましいわね、そんな事が考えられるなんて」

「なっ、にが言いたい…」

「どうせ今だってあたしたちがあんたの事好きだからここに何度も来てるんだと思ってるんでしょ?自惚れないで。あたしたち女子部は、男子テニス部なんか大嫌いよ。」


「なっ…」


彼女のひとことで、部内が凍り付いた


「傲慢で、強いからって校内の施設は独り占め。あんた達の応援に来るブスなファンのせいであたしらの部活は妨害され続行不可もしばしば。おまけに自分が大好きで世界は自分達のものだと思ってる。学校の顔に泥?センスもくそもない技出して派手にテニスして、テニスの本質を忘れたあんたたちが、よっぽど泥なんじゃないかしら?」


「テメエ…!!」

「赤也!やめろ…」



「ふん、精々なまえを取られた悲しみで県大会如きで負ければいいわ」



それだけ言うと、女子部員達と一緒にコートを去っていった。堂々と、おかしそうに笑みを浮かべながら。彼女達が去っていったコートは静まりかえっていて、誰も声をあげようとはしなかった



「くっそ、なんなんだあいつらはっっ…!!」


赤也が持っていたラケットを地面に叩き落とした。気持ちは分かる。あんな風に言われたんだ。でも、俺達は言い返せない。それは誰もが口にしないというだけで、間違ってはいないから。



「精市」


ふと、柳が俺の傍によってきた



「ん?どうした」

「なまえが、…いや、これは言うなと言われていたのだが…」


「なんだい?」


「応援には行けないが、勝ったら教えろと、幸村が出たなら、どんな試合をしてどんな風に勝ったのか、どんな様子だったのかしっかり教えろと。言われていた」

「え、?」


「もう話す事も無いかもしれないからせめて、教えてくれと、この間俺に言ってきた。それと、これからの試合、全て勝て、と」


「そんな、なまえが?」


「ああ。そしてあいつは、生きる世界が結局は、違うから。自分は、同じ道を選んではいけないと言っていた。どういう意味なのか、分かるか?」


分かるか、と諭すように言われた。分かる、頭では分かっている。だもしても俺は、さっきの女子部の言葉が忘れられなかった。俺が、いいように、美化しているだけかもしれない。



「あんな男みたいな口調のなまえが、随分、可愛らしい事を言うものだね。俺は関わるなと言われた。それに、もう彼氏がいるじゃないか」


「なら諦めろ」



蓮二は、いつものように淡々と、その薄い目を開けて俺に言った。いつもと変わらない筈。それなのに、何かどこか、そうではないような、気がした。

そうだ、諦める?

誰がそんなこと。


「諦めろって?誰が、そんな事するのかな。俺が、誰だと思っているんだい?」




俺は、走った
お人好しには、言い聞かせる必要が、ありそうだ







お題 取り柄って物は数あれど





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