お前のプレー、誰かに似てる
Day10 テニス
「ほんとにテニスすんの?」
「当然。」
あたしたちは、先日彼と始めて出会ったテニスコートにいた。
越前リョーマはラケットを二本、ボールをいくつか、どこからか準備してきたらしい。あたしにラケットとボールを手渡すとすぐにコートに立った。
「あたし、服が完全に動く用じゃないんだけど。」
「関係無いよ。しかもそれ、凄く動きやすそうに見えるけど?」
そう、あたしは今日服が決まらず結局相当ラフな格好で来てしまったのだ。ロンTにショートパンツ。スニーカー。正直全然動ける。普段から女性らしいふわふわした服装よりもアクティブに動きやすい格好を好むあたしは、なにか行事でもない限り、今日のような格好で出掛ける。
「はあ…1ゲームだけだかんな」
「そうこなくちゃ」
成す術なし。あたしは諦めて越前リョーマと逆のコートに立った。テニスをするのは部活をやめて以来。本当に、1年以上コートには立たなかった。正直に言えば、立ちたくなかったのだが。
「ワンゲームマッチ、サーブはなまえ先輩からでいいよ」
「はいはい、…はあああ…男子に勝てるわけないでしょうが…」
「早く早く」
はいはい。
あたしはため息ひとつ、ボールを空高くあげた。あたしのサーブはいつも、トスを物凄く高くあげる癖があった。それは今も変わらない。微妙にサーブのタイミングを外すところから、あたしのテニスは始まる。
「よい、しょっ」
降りてきたボールは、若干遅めに打つ。スパンッ、と懐かしい音を立ててボールが相手コートに飛んでいくのが見えた。
( はあ、だいぶ遅くなったなあ… )
自分のサーブを見ながらため息をついた。
「は?」
しかし、あたしのボールは越前リョーマの横をすり抜けてバウンドした。越前リョーマは、じい、とそのボールを眺めてはにい、と笑った
「へえ、なかなかやるじゃん」
「ダメダメ、もうあたしも終わりだよ。正直、あんたならあのくらい、すぐ返せるだろ」
「まあね。じゃ、次は俺」
そう言って越前リョーマは、高くボールを投げた。越前リョーマのサーブはあたしの足元にバウンドし、顔面めがけて跳ね上がってきた。これが、ツイストサーブ、
「…った、やるねえ、リョーマ様」
「さっきのやつらのこと、引きずらないでくれる?」
落ちたボールを拾いながらくすり、と思わず笑みを浮かべてしまったあたしにすかさず越前リョーマが反論した。やはり、彼女かなにかなのだろうか。あたしは楽しくて仕方がない気分になってきた。彼女らの事じゃない、テニスに、だ。
「それ、彼女だから、って、こと?」
あたしの高いトスから出るサーブがとんでいく。次は越前リョーマも読めたのだろう。瞬時に半歩下がって対応してくる。学習能力のあるやつだとは思うが、残念
「あたしも、彼氏ほしいいいっ!」
あたしのボレーでボールが、越前リョーマのコートにぽとりと落下した。半歩下がれば当然、対応も半歩遅れる。あたしはにかっと越前リョーマに笑いかけた。
「はあ…違うって…」
越前リョーマは深く溜め息をついた後、ラケットを左手に持ち変えるのが目に飛び込んできた。軽くステップを踏み、ボールをあたしに向かって差し出すように見せる、それは、
「越前、何次郎…?」
「俺、ああいう女子高生苦手、なんだよね」
あたしの考えはすぐにどこかへと消え去った。先程までのサーブやレシーブの数倍のスピードでボールがあたしのコートに向かってくるのに、あたしは必死で反応しなければいけなかったからだ。
「はあ…」
「、は…っ」
あたし達は、デュースのまま何度も何度もラリーを繰り返した。そして再び、越前リョーマのマッチポイントになった。お互いに体力は限界。これ以上の試合は、難しそうだった。
( この一球で、決まる…! )
越前リョーマが、また高くトスをあげるのが見えた
ゴオオオオオオオンッ
ゴオオオオオオオンッ
「ヒィイッ」
「…はあ…」
ボールが、あたしに飛んでくることはなかった。かわりに、コートのすぐ横にある鐘がうるさいほどの音を立てて鳴ったのだ。誰かが鐘をならしたらしい。越前リョーマを見ると、 そいつは諦めたらしくもうボールをトスする姿勢ではなかった。
「親父、邪魔、すんなよ」
「え、お父さん…?」
鐘が鳴り終えたそこには、ひとりの男性が立ってこちらを見ていた。見覚えのある、そのひとが。
Day10 テニス
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