え、い、イケメンじゃないか




Day7 その人












「お?」







今日は金曜日、ついに越前リョーマとの初授業を控えたあたしはいつものカフェにいた。なんとか今日授業する範囲のまとめを終えたあたしはいつも通り注文したコーヒーをちびちびと飲んでいた。店員さんは変わらずいつものひと。何歳なんだろうか、なんて考えていると、携帯電話が点滅した。





メールを確認すると、送信先は越前リョーマだった。まさか初日から休み、なんてことはあるまいと恐る恐るメールを開くと、以外な文脈が連なっていた。




送信 越前リョーマ
日時 2012.04.**.13:41
件名 悪いんだけど

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

3時に学校の前で待っててくんない?今日部活休みだから。どうせ俺んち来るとき学校の近く、通るでしょ?


---END---





「はあ?」




思わず店内で声をだしてしまった。学校って、別に家の前で会えばいいだろうが。とは思ってみたものの、この機会に手塚国光に会ったりあわよくば前回お目にかかれなかったマムシさんに会えたらいいと肯定的に考えたあたしは、越前リョーマに2つ返事でメールを返した。





「げ。」





時計を確認すれば既に14時を回った時刻。またしても優雅にカフェを出ることは叶わずバタバタと荷物を片付けカフェを後にした。今日もいつものお兄さんがまたどうぞ、と言ってくれた声が聞こえた。


















「早く、来すぎたかな?」







慌てて電車に飛び乗り先日来たばかりの学校の前に立ち、時計を見やれば14:48との表示。遅れるよりかはだいぶましだが、高校生が帰宅する時間に自分一人だけ私服で待っていると言うのはなかなか気の進む話ではなく、あたしは校門から少し離れたところの塀にもたれていることにした。





「はあ…早く来いよ少年…」






はあ、と溜め息ひとつ。時計を眺めたりキョロキョロと辺りを眺めていると、ふと塀をトコトコと歩く猫が視界に入ってきた。猫、なんて間近で見るの、久しぶりだな、とあたしはその猫に思いきって手を伸ばした。するとどうだろう、猫はごろごろとこちらに擦り寄って来るではないか。あたしは暫くその猫を撫でていた。



( でも、野生のわりに撫でられ慣れすぎじゃないか? )






まさか、飼い猫?
ひとりで唸っていると、背後から気配がした。





「ん?」









振り向くと、ひとりのクールそうなイケメンが、あたしと猫をじい、と凝視していた。






「あ、あのう…」






もしかして、この人んとこの猫なのだろうか。あたしは塀に上っていた猫を抱き抱えそのイケメンに向き直った。




「これ、もしかして…







え?」








あたしが、言葉をすべて伝え終える前にそのイケメンは顔を真っ赤にしてあたしの横を通りすぎた。なんだろう、あたしが何かしたのだろうか。考えながら地面に目をやると彼のものであろうバンダナが落ちていた。これは所謂落とし物。そそくさと立ち去ろうとする彼の背にあたしは大声で叫んだ







「すいませーん!バンダナ、落としてますよー!」











言うと彼は、目にも止まらぬ速さであたしの目の前に戻ってきた。あたしがバンダナを渡すと、彼は丁寧にお辞儀をした。なんだ、律儀な青年じゃあないか。





「これ、あなたの猫ですか?」



「いや、違います…」


「あれ?そうなんですか?さっきこっち見てたから、てっきりあなたの猫かと!」




「それは…」




「猫、お好きなんですか?」



「あ、はい…」

「そうなんですね!あ、じゃあ…」




あたしは自分が抱えていた猫を青年に手渡した。心なしか猫が青年に擦り寄った気がしたので、恐らくこの猫が人間慣れしているのはこのひとのおかげなのだろう。こんなにのら猫を可愛がる青年がいるなんて。イケメンだし猫好きだし、最高じゃないか。




「ここの、生徒さん、なんですよね?」



「あ、はい」





「お名前はな「お、マムシじゃねえか。」






は?」






聞き覚えのある声に振り向くと、桃城武と越前リョーマが立っていた。





「あ、桃城にリョーマ」


「お?なまえ先輩じゃないっすか、何でマムシなんかと一緒にいるんすか?」





「え?」




再び青年の方を見ると、青年の手に既に猫はいなかった。




「え、あ、あなたが、噂の…?」


「おい越前、どういうこった」




「え、俺すか…?」




「あ、あたしここのテニス部の卒業生で、男子テニス部のマネージャーだったんですけど、前回お邪魔した時にマムシさんだけいなかったので…」


「なまえ先輩、マムシって、あだ名あだ名。海堂先輩。」






「げ。」







みょうじなまえ、またやらかしました。ごめんなさい海堂くん…




「す、すいませ…「海堂薫、2年です。」




海堂薫は、こんな失礼なあたしにも律儀に挨拶をしてくれ、やはり律儀な青年だな、と感じた。そしてあたしの中でマムシ薫というリボンをつけたマムシのイメージは一変、イケメンな青年じゃないか。




「あ、あたしみょうじなまえです。よろしくね、海堂くん。」



「あ、はい…」





「あ、マムシのやつなまえ先輩相手に照れてんの!薫ちゃん可愛いー!」



「ああ?んだと桃城、今なんつった」


「あ?んだよ、やんのかこら」




桃城武が余計な事を言ったおかげで、二人は喧嘩まがいの事を始めた。その時の海堂薫の表情を見れば、何故マムシとあだ名がついたのか分かる気がした。そんな事より、止めなくていいのだろうか。



「リョーマよ、あれはいいのか?」


「いつもだから。」


「あ、そう。」





「そんな事より、行こ、俺行きたいとこあるんだよね」


「は?授業は?」




「そのあと」





「はああああ?」








桃城武たちの喧嘩を放って歩き出す越前リョーマ。心配にもなったが、あたしは越前リョーマについていくことにした。彼らはなんとかなるだろうし、あたしは今から越前リョーマに授業をしなければいけなかったからだ。






「早くしてよ、センセ」


「うっせーよ」





















「ん?あれ、リョーマ様じゃない?」



「あ、本当だ、横にいるひと誰なんだろう…」













Day7 その人 終


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