恐ろしや、学生




Day5 寄り道










「「お疲れ様でしたー!」」






部活が無事に終わり、威勢のある声が夕暮れのコートに響いた。既に日は暮れかけ薄暗い中低学年はせっせと後片付けをする。無論、あたしもそこに混じって一緒に片付けなんてしてみると、まるでまた高校生に戻れた気がして、あの頃は面倒くさくて仕方がなかったこんな行動が楽しくてたまらない。どうせ重い荷物のひとつもないあたしは、名前もよく分からない一年達とケラケラ笑いながら一仕事を終えることが出来た。




「なまえ先輩!お疲れ様でした!」

「先輩!また来て下さいね!」

「次はいつ来るんすか?」



一年の素振り練習の時に、ちょっと気が引けたがアドバイス、というに足らない小言のようなものを言っただけだったのだが。律儀に一年は皆、帰り際に別れの挨拶をくれた。最初は怖い怖いと怯えていたけど、案外良い子達ばかりで、また顔出しに来ても良いかなと思った。





「さ、帰るか。」





結局毬栗達には会えずじまいで、なんだか心残りだが、仕方無い。縁がなかったのだと重い腰をあげ、一度だけまたコートを見た。夕日に染まるコートは、やっぱり、綺麗だ。






「夜、何作ろうかな…あ、でも遅くなったから…明日土曜だし外で食べるのもありか…」




ぶつぶつ言いながら校門まで歩いていくと、集団がなにやらがやがや、騒いでいるのが見えた。学生の集団が恐ろしいあたしは早足でその横を、













「なまえ先輩、遅かったですね。」









野生のエンペラー不二周助( Level.1000 )

が、現れた。




















「「お疲れ様でしたー!!」」






はあ…なんでこんなところに…





あたしは、後輩たちにファミレスに連れて来られた。不二周助には勝てなかったし、今日はいつもならついてこない手塚国光も来るというので、わくてかして思わず着いて来てしまったのだ。


皆ジュースで乾杯。まだ未成年だしね。あたしも、まだ未成年だけど。ギリギリ。もうすぐ誕生日来て10代とさよならしなきゃいけないなんて認めてやらない。

テーブルをいくつもくっつけて宴会状態。店員さん、迷惑だろうな、なんて呑気に考えながら料理が来るのを待つ。あたしの両隣には菊丸英二と、何故か越前リョーマ。菊丸英二の隣に桃城武。正面には手塚国光。手塚ちゃんの前は譲らねえ!!!と意気込んだ結果だ。しかし、手塚国光の左隣には不二周助の姿。もう片方は空席だから、誰か座るのだろう。


それとも、す、座りたくないだけ…?
そ、それならあたしが…っ!!







そんなあたしの願いは虚しく、不二周助によってなきものとなった。くっそ不二周助め、あたしと手塚国光の仲をあくまで邪魔する気なんだな。いいだろう、その勝負受けて立とうじゃないか。





「ふ「あれ!もしかして、なまえ先輩?」




誰じゃああああああ!
あたしと不二周助の決闘を邪魔する不届き者はあああああ!




クワッと口を開け、睨み付けるようにあたしを呼ぶ声の方を向くと、そこには懐かしい顔が並んでいた。








「あ…」














え、どーしよ、すごーいきまずーい











「ひ、ヒサシブリダネ寿司屋クン!ゲンキダッタカイ?蟹のエリザベスハゲンキ?」





あたしは、また苦し紛れの物真似を披露してしまった。




「え、エリザベス?」




「あ、違う違う!ほら、寿司屋、ちゃんとやってる?お父さん、元気か?」



「あ、はい、お陰さまで。なまえ先輩は、なんだか更に女性らしくなりましたね。」



「女性だけどね」




「ぷっ」



「菊丸くん一緒にお散歩いかなあい?」



「ヒィエッ!遠慮するにゃ!」





河村隆だった。相変わらず愛想がいい少年だよな。よく食べにいった彼の店の寿司が、留学中何度か恋しくなることがあったくらいだ。今度食べにいこうかな。






「やあ、なまえ先輩、久しぶりですね」



「あ、眼鏡!」




河村隆の後ろから姿を現したのは乾貞治。相変わらずデカい身長そして眼鏡。そろそろ奥が見える眼鏡に替えてくれてもいいんじゃないか?



「まだ変な汁作ってんの?お前。」


「お陰さまで。最新作、試してみますか?」



「あ、大丈夫でーす遠慮しときまーす部員の為に貢献してくださーい」




やめてお願いバックを漁らないで変な汁を見せないで





「え、なまえ先輩も、あの餌食になったことあんの?」


「う、うん…あの悲劇は二度と忘れないよ…」



「俺も、あれ、苦手…」





越前リョーマよ、あれが平気なのは不二周助くらいだ。
思い出したくない記憶を胸の奥底に仕舞い、あたしは深くため息をついた。



「お、皆揃ってるな?」

「あ、大石先輩!あれ?マムシの奴はいないんすか?」


「ああ、用事があるらしくな、さっき帰ったよ。」




桃城武は、マムシさんのことが好きなのか?それほど魅力的なひとなのか?あたしはマムシさんを想像しては今日お目にかかれなかった事を後悔した。また絶対部活に顔出そう、そうしよう。





ん?てか、この声…













「なまえ先輩、お久しぶりです。」








聞いたことのある責任感に満ちたこの声、ま、まさか…

















「誰?」



振り向いたそこには、しらない坊主頭触角付きが笑顔でこちらを見ていた。
















Day5 終



青春学園編5
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