青春だねえ



Day 2 学校





「あー…英語とか無理。無理。」




大学の講義が終わるや否や、あたしはよく行く学校の近くのカフェに駆け込んで所謂「教材」という怪物に向き合うことにした。が、


わからない…




正直留学はしていたが日常会話で文法なんて使わないしテストには出て来ないような、教科書にも載ってないような俗語、てかスラングばかりだったから、今さら美しい英語、なんてまさか出来るわけもなく。溜め息まじりいつもこの時間にバイトをしている素敵なお兄さんが淹れてくれたコーヒーを飲む。昔から難しい本とか嫌いだったあたしは、寝ないようにと好きじゃないコーヒーをわざわざ飲んでいたんだけど、もうくせになってしまったらしく、カフェや勉強する時にはコーヒーを頼むようになった。



(いや、本当は甘いものが大好きなんだけどね。)





そんなどうでもいいような事を考えていたら、あっというまに一時間が経ってしまった。





「げ、やっべ…」






私は飲み残したコーヒーを一気に飲み干し、がたがたと散らかしていたテーブルを片付けると店を出た。いつもの声でお兄さんがまたいらしてくださーい、というのが聞こえた。














「…1年ぶり…」





時間ギリギリ、なんとか間に合ったと安堵の息を漏らしながら見上げた学校、




青春学園は、



変わらず沢山の生徒と共にそこにあった。





「はあ…もう知り合いとか殆どいないんだよねー…」




そう、あたしみょうじ#name1#はここ、青春学園の卒業生。高校卒業して、そのまま大学に行かずにイギリスに行ったから、卒業して以来。あたしが高校生だった時の知り合いは、もうあの時1年だった人たちくらいだが、生憎後輩に知り合いは少なく、部活の知り合いくらいだった。



「皆、変わったんだろうな…」




懐かしい筈の学校なのに、あたしはんだか不法侵入をしているような、そんな気分になった。行き慣れていたその土地だったけど、あたしはなかなか一歩を踏み出せずにいた。







「あれ?」







どうしようかと一人、唸りながら考え込むあたしの耳に、聞き覚えのある柔らかい声が聞こえてきた。中性的な、それでいてしっかりと責任感のあるその声、





「なまえ、先輩?」












「あ、不二周助」




不二周助。一年ぶりに見たその姿は成長してはいるものの昔のまま。その再会にあたしは思わず







「え、ちょ、ヒトチガイデース、アタシチョットケンガクニキタダケナノヨー」






物凄く無理に知らないフリをした。






「変わって、ないですねなまえ先輩」




ふふ、と笑みを浮かべる不二周助は悔しいが相変わらずイケメンだった。しかもあたしより美しい。なんだか嬉しいような悔しいような後輩の成長にあたしは苦笑いを浮かべた。




「そういや、まだテニスしてんの?」


「当たり前じゃないですか、僕からテニス取ったらなにも残らないですよ」


「気持ち悪い嘘やめてくれるかな?英語もベラベラ運動神経抜群の癖によく言うよね昔から。」


「先輩も、相変わらず卑屈ですね」



「素直と言いなさい素直と。」




「そういえば、何しに来たんですか?こんなところに。」




そうだ、相変わらずうざい後輩に絡みに来たわけじゃなかった。しかし不二周助と少し話したお陰で先程よりこの青春学園があたしを歓迎しているような気がした。あたしが、気が楽になったってことなのかね。



「あ、そうだ!あたし今から竜崎センセのとこ行かなきゃいけないんだった!すまないね不二ちゃん。また会おうじゃないか!」


「あ、はい。また後で」




またにっこりと微笑んで、不二周助はテニスコートの方へ歩いていった。なんだろう、微笑むってかほくそ笑む?恐ろしい後輩がいたもんだ。

しかしそんな事、今いちいち考えている暇はない。あたしは一歩を踏み出したのをきっかけにバタバタと走って職員室に向かった。











「失礼しまーす…」



見慣れた職員室、その一番奥にそのひとは立って校庭を、恐らくテニスコートを、見つめていた。その横には、なんだか覚えのある後ろ姿が同じく外を眺めていた。あたしがゆっくりその人たちに近づくと、気づいたひとりが嬉しそうに笑みを浮かべたのがわかった。






「なまえ!久しぶりじゃないか、元気だったかい?留学から帰ってきたと聞いたもんでね、忙しいだろうに。悪いねえ。」



相変わらず屈託のない笑顔であたしを迎えてくれる竜崎せんせ。なにも変わってない。でも高校通ってた時は怖い怖いって怯えてたっけな。なんて。



「いやいや、どうせ暇ですから。友達も少ないですし」


「こらこら、大学はこれからなんだろう?お前なら沢山出来るさ。」



ですかね?


「そういや、そっちの方は…」


「おやおや、忘れたのかい?あんなに構ってたのに」


「ぬ?」


ふと竜崎せんせの横に立っている男性の後ろ姿を見る。あたしよりいくつか上の、新しく入ったコーチ?なのかな。なんにせよじい、とその人を眺めていたらその人がゆっくりこちらに向き直った。




「なまえ先輩、お久しぶりです。」



















「て、手塚ちゃん…?!」





あたしに頭を下げながら丁寧に挨拶したのは、あたしが3年の時、うざいくらいつっかかっていた後輩、手塚国光だった。

身長は伸び更に男性らしくついた筋肉、顔立ち、あたしがからかいながら笑っていたあの手塚国光は、まるで、成人男性のように成長していた。おっさんみたいだ。

全体的に、大きな変化はないものの、なんだか、別人に会っている気分になるのは仕方がない。こいつもまた、いけめんになったってわけだ。




「なんだ、卒業した後連絡はとらなかったのかい?」

「あ、はい、手塚ちゃんが私を全無視だったので泣く泣く旅たち今に至ります。」

「卒業式が終わるや否や部に顔も出さずに帰ったのは、先輩だった筈ですが。」



「え、なんでお前まで不二キャラ入ってんの?この部はもはや不二の支配下なの?」




恐ろしい不二周助の勢力。
一人でぶつぶつ呟いていると、ぱちん、と竜崎せんせが手を叩いた。



「よし、じゃあ、そういうことだ。なまえ、今日はあたしが用事あってね。手塚と一緒に部を見てくれないかい?部員と久しぶりに話をしてもいいだろうし、今年のうちは、強いよ〜なまえ!」

いや、何がそういうことなのか全く分からない。部員とって、知ってる奴少ないし大体後輩怖いし、高校生怖いし。無理無理。
全力で首を横に振りながら拒否反応を見せるあたしを見かねた手塚が、ぱっとあたしの手首をつかんだ。




「では、いってきます。」







いってこねええええええ!!














あたしの叫びは虚しくも廊下に響いた。





Day2 学校 終


青春学園編2
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