気付けば明日は卒業式。俺は明日、この高校を卒業し地方の大学へ進学する。これは俺の決めた道であり誰にも変えられない。テニスは続けようと思う。今度はライバルとして、これまでの仲間と戦っていけたら本望だと素直に思えるからだ。
「柳、ちょっと先生のとこ行ってから帰りたいんだけど」
「ああ、それなら俺も一緒に行こう」
「おっけー」
クリスマスイヴ、俺の告白を受けたみょうじは一日だけ待って欲しいと言った。その理由がなんなのか、俺には直ぐに分かった。彼女は翌日朝一番に弦一郎の家に出向いたそうだ。そして今までの事、自分の気持ちを全て打ち明けたらしい。そしてこれからも、幼馴染みであり親友であると改めて、互いに誓ったとその日のうちにみょうじから連絡が来た。電話番号もアドレスもみょうじは昔のままだった。連絡を受けた直後学校近くのカフェに出向くと、みょうじが前日のパーカーにジーンズ姿ではなくしっかり着飾った姿で店の前に立っていた。そうして俺を見つけるや否や彼女はこう言った
「あたしの胸の穴を埋めて下さい」
と。だから俺も同じように笑みを浮かべ
「俺がお前の胸の穴を埋めてやろう」
と彼女を抱き締めながらあの時と同じ言葉を口にした。この抱き締める感覚が、永遠であると、俺は信じている。
「てかさ、」
「なんだ」
「柳どこの大学行くの?あたし毎回聞きそびれてる気がするんだけど」
良くしてもらった教師への一通りの挨拶も済ませ職員室を後にした俺たちは再び空き教室へと戻ってきた。俺がみょうじに、胸の穴を埋めてやると初めて言ったあの教室。目の前にはみょうじが失恋した廊下があの時のまま変わらず静かにそこに広がっていた。窓際の席に腰を下ろし暗くなっていく校庭に目をやっていると、みょうじがぽつりと呟いた
「お前は、どこの大学に行くんだ?」
「あたし?知ってるじゃん。〇〇大の社会学部メディア学科。」
「そこの社会学部に、行政科があるだろう」
「それが?」
「今年の〇〇大の推薦の合格者は二人、その一人が、俺だ」
俺がそう言って立ち上がると、彼女は立ち上がることをせず席についたまま唖然と俺を見上げた。余程衝撃的だったのか暫く彼女は口をぱくぱくと開閉させながら口に出来る言葉を探しているのがどうにも可愛く見栄、そのまま彼女の頭をくしゃくしゃっと撫でた
「きも」
相変わらず立ち上がろうとしない彼女をそのままにもう入ることもない空き教室に背を向け廊下まで出ると、突然後ろにどんっと衝撃が走った。それがみょうじが俺を後ろから抱き締めているという事だと気付くのにそう時間は掛からなかった。
「きも、とは何だ」
「でも嬉しいよ、また4年一緒にいられるって事でしょ?」
「ああ、そうだ」
あわよくば、その先もずっと。という言葉はまだ言わないでおく。確実ではない未来に期待を寄せ絶望などしたくはない。だから互いの未来の方向が、互いの思いがしっかりとした道を辿ることが確かなものとなった時、こんなちっぽけな言葉ではなくしっかりと言葉を紡いで告白したい。
だから今はただ
「なまえ」
「ん?」
「約束しよう、お前の胸に、穴が開かないよう俺が守ると。」
今はまだ愛しているとお前に言える自信は無い。だから胸を張ってその言葉を言えるようになるくらい、強くなると彼女に誓おう。もう彼女が、悲しまないように
「うん。期待してるよ、蓮二」
おわり
――――
最近更新がものすごく遅れていた理由はこれでした。閲覧ありがとう御座いました。なたねです。最後が少し気に入らないおわり方になってしまったのですが、なんとか持ってこれました。高校とかそんな時期の男女って強くないと思うんです。ひとりで選択をしなくちゃいけない時も、仲間が皆敵に見えることも、親友が恨めしくなることだってあると思うんです。だから自信なんてないけど、自信が持てるその日まで、ってことで。
衝動で書いてしまったので読みにくいところもあるかとは思います。少しずつ修正を加えていけたらなと思ってはおりますが、ここまでご閲覧、本当にありがとう御座いました。
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お前の胸の穴を埋めてやろう