※原作沿いあり、安定のほぼ捏造。時系列ガン無視注意
途中視点が混ざります。








「おめでとー!さっすがナマエ」

パチパチって拍手されて、目隠しして長い足を組んで椅子に座っている五条先生をみる。

「ナマエのおかげで、保守派から最悪だった高専の評価あがったよ!」

『そうですか……それはよかったです』

「おかげで助かった!いやぁ、ナマエがどんどんボロボロなってってるのみて流石にとめようかなって思ったときもあったけど、とめなくてよかったー!」

『はぁ……』

別に五条先生を助けたいわけじゃないしって思いつつ、私が呪術高専東京校のポジティブキャンペーンしてきたのに先生のおかげでプラマイゼロになったんだけど……むしろマイナスなんだが?と思いつつ
まぁ、でも逆に"あの"東京校で真面目に頑張ってると何故か私の評判が保守派の中で上がっているらしかった。
金次くんと綺羅羅が帰ってきやすいように、なんとか呪術師界での高専東京校2年の立ち位置が最悪にならないように立ち回ってきたけど自分がしてることが正しいか全くわからない。

だって

3年生になっても金次くんからは音沙汰もなくて


全然メッセージも返してくれなくて


伝えたいことがあったはずなのに、どんどん煮詰まっていってもう底に深く焦げ付いてしまっている。


あの拒絶を受けて、あまりしつこくしたらもっと嫌われちゃうかもって
メンタルズタズタで一回だけ送ったメッセージが見事に未読スルーで止まっている。
死ぬほどあの画面を何回も見直して、いつみても変わることはなくてもう今では開くことすらなくなった。金次くんとのlineのトークは、思っていたよりあんまりやり取りがなくて
だってもともと夜は寮で一緒で、だからわざわざメッセージを送り合うこともなかったから
なのに一番上にピン止めしてた自分に飽きれて
ずっと、それを外せなかった自分が情けなくて


それがやっと、金次くんとのトークは見えなくなった





それなのに金次くんの痕跡なんて
そのへんにいっぱい転がってて
私は未だにその全てを手放せずにいる。

右手でブレスレットを覆って、指先で水色に触れる。少しひんやりとした天然石の感触を無意識に確かめては


片時も忘れられずにいる




「いやぁ……本当に、愛だねぇ」

五条先生の軽い声にすうっと心が冷えて

「アオハルだねぇ」



金次くんがあんな事になって、たいして五条先生は何も動いてくれなかったくせにって
自分じゃ何も出来ない子供な私は他人のせいにして、でもあの百鬼夜行の主犯が五条先生の同期だったとチラリと耳に挟んで
"最強"でも何か思い悩むことはあるのかなと少しだけ、五条先生に勝手に心の中で八つ当たりしていたことを申し訳なく思った。
でもまぁ、言うほど五条先生のこと何も知らないから、私は先生の考えてる事とか全くわからないけれど


そもそも他人のことも
自分のことすらもよくわかってなくて


金次くんのことも、なにもわかってなかった




『ちがいますよ』



五条先生が、なんで金次くんと私の関係性を知っているのかは謎で
最初は適当にわからないふりをしていたけれど
あまりにも当たり前のように


私が金次くんのことを好きだと、知っているみたいに話してくるから


『私のこの"好き"は、愛なんかじゃないです』


もう誤魔化すのすら、馬鹿馬鹿しく思えてしまう


金次くんへの好意は


愛なんかじゃない

青春なんかじゃない


そんな、綺麗な感情じゃない



裏表みたいに
くるくる変わる、ぐちゃぐちゃに


思考が煮詰まるほどに時間が過ぎてしまった



五条先生がこちらの言葉を待っているのがわかる

ちいさく息を吸って
このぐちゃぐちゃな感情を言葉に変換する。


『すごく、お腹の底から私のモノにしたいんです』


そう



全然綺麗じゃない、醜い塊みたいな

歪んでいて狂っている





『私のものに、ならないならいっそ殺したいくらいなんです』



私をこんなふうにして、簡単に離れられると思わないで欲しかった

きっと金次くんは簡単に離れられるって思っていたんだ。だから私に"嫌い"だなんて言葉を吐き捨てて離れていったんだ。


「秤自身が帰ってくる気がないんだ」
なにを言っても、そう言われる私の気持ちはもうボロボロで
金次くんのためじゃなくて、自分の為にやってるのなんかわかってる。私が金次くんに戻ってきて欲しいって思ってるだけだから



もう



本当に、心底

腹が立って、殺したいくらいに"好き"だ


今この瞬間。私の知らないところで、私じゃない女の人にあの優しい声で名前を呼んで、あの大っきな手で抱き寄せて
キスして、「すき」だなんて囁いて馬鹿みたいに腰振って気持ちよくなってるんだろうなんて


少しでも過るだけで、吐き気がして身体全部をズタズタに引き裂かれるみたいに指の先まで痛くて


絶対許さない


それならこの手で、私は金次くんを殺したい




『だから、今は殺す準備してるんです。金次くん絶対大人しく死んでくれないから』


あーあ、やばいこと言っちゃったなって自分のことなのに他人事みたいに思う。

金次くんに嫌われちゃったって捨てられちゃったって、めそめそ泣いて
金次くんが好きって、会いたい迎えに来てってギュッてしてキスしてお願いって
思う自分もたしかにいるんだ。一生って、ずっとって約束したのにって、だから会いに来てキスしてって
これ以上嫌われたくないからここで大人しく待っときたいって

でも

ふざけんなってあの時泣いて喚き散らしてやればよかったって。思う自分もいて
だって私が"つまんなくて"、そういう人間だって金次くんは知ってたくせに、そんな私に付き合おうっていってこんなに沼みたいにずぶずぶ好きにさせておいて、簡単に



そう、簡単に金次くんは去っていったから


なんでもないみたいに



わたしのことなんて



わたしはこんなに金次くんの事でいまもまだいっぱいなのに



馬鹿みたいに
ずっと大事に、何日も、消えちゃっても
キスマークがいっぱいあった胸元を
毎日鏡で見るたびになぞって、左の肩の噛み跡もあんなに痛かったのに綺麗さっぱりなくなっちゃって

寮の部屋に置きっぱなしのパーカーの金次くんの匂いだってもう消えちゃった
ずっと泣きながらギュッてしてたから、でもそれでも1ヶ月くらいは微かに残ってたのに今じゃもうあれを着てじゃないと眠れなくて

大阪の地下街だってもう迷わないでいけるようになって。だってここは金次くんと通った。とか、こっちの道を通ったらあのホテルの前の道にでるんだ。とか馬鹿みたいにいつも思い出すから

ずっとどこでも、いつでもあなたの影を追っていて


あの時もらった"好き"に縋りついて
忘れたら楽だって痛いくらいにわかってるのに、自分をわざと傷つけるみたいに……あの時の幸せを少しずつ削って死にそうな"今"を辛うじて生きていて


全部のことに、ああ金次くんはって


馬鹿みたいに想っている


わたしだけが、ずっとあなたに捕らえられている




本当に、許さない



じゃあ今すぐ金次くんの所に行って、一発頬でも殴ってやって気持ち全部ぶちまけてしまえばいいのに


最後に聞いたあの冷ややかな声で、また拒絶されてしまったら
そう思うだけで立っていられなくなるくらいに恐くて

結局わたしは何も出来なくて


裏表みたいに
くるくる変わる、ぐちゃぐちゃに



歪で、恐がって情けなくて

金次くんに愛されたいとめそめそずっと泣いている


ほんとうに嫌になる





「ナマエはさぁ、愛って綺麗なものだっておもってるんだ」


五条先生の一言に自分が歪んだ壊れた醜いものだって認識を浮き彫りにされたみたいな気になって


『だって、金次くんが幸せならそれでいいとか微塵も思えないんです』



無償の、愛


美しい綺麗な、崇高な愛で

できれば金次くんを想っていたかった



綺麗なものだけを

金次くんにあげたかった



「なにいってんのナマエ」


五条先生の強い声に


「愛ほど歪んだ呪いはないよ」



グッて込み上げそうになる熱を必死に押さえ込んで


『そう、ですかね』


目の奥が熱くて、声が震える


「そーだよ。ナマエはいい子だからさそうやって綺麗に金次のことを想ってあげたいんだろうけど」


だってこんなの、歪で醜くて


「愛に正解も間違いもないよ」


さいていなのに



「いや!まぁ、ヤバイことには変わりないけどねー殺したいとかッ。さすが優等生!ナマエみたいなタイプが一番マジで恐いよね」


一転してかっるーい声でおちゃらける五条先生に

『わかってます。自分のヤバさは』

ふぅって一つ息を吐いて返事をする。


「ん、でもナマエは大丈夫だよ」


ポンポンって、立ち上がった五条先生に頭を撫でられて
そのおっきい手はあたたかくて

今にも溢れそうなものを下唇を噛んで耐えて


『先生それセクハラですよ』

「えッ!!」

「女の子は頭ぽんぽん好きなんじゃないのッ!」なんてのたまう五条先生にジト目で返して

『先生も一応大人なんですね。はじめてなんか大人だと認識しました』

「え、ナマエひどくない?」



フッて軽くなった口元で


『ありがとうございます』


「ん、ナマエは笑ってるほうが可愛いよ」


「あ!これもセクハラか!?」なんていう先生に笑っちゃって
たまには、五条先生も優しい事いうじゃんなんて


もうちょっとだけ


金次くんを好きでいてもいいかなって


少しだけ自分を許せたのに









"五条悟が封印された"


ほんとなにやってんの




そして
大切な尊敬していた人の死を、一覧だなんて温度のない書面で知って

己の小ささと無力さを知る



ああもう、この世界はクソみたいな事ばっかりだ



だいじなものが、ぼろぼろ崩れていく


一番大事なものを

もう決めないといけない時が来ているのがわかった
















「おいパンダ」

「なんだ秤」

無事に秤に死滅回遊への協力を取り付けて、さあ行くかと立ち上がると

「ナマエは参加させんな。それがもう一つの条件だ」

「えッ」


険しい顔でそう言い放った秤に冷や汗が出る。まじかよー、なんでだよー
だってもうここ来る前にナマエに電話しちまったし
伏黒も虎杖も戸惑いがちに俺と秤を伺っている。

「なんでだよ、ナマエがいたほうが心強いだろう?」

「あ?あんな奴いらねーよ邪魔なだけだ」


なんでこんな拗れてんだよ。
『わたし、秤くんに嫌われてるから……どうだろう』秤に取次いでくれってナマエに言ったら、ぽそりって何でもないみたいにナマエがそう電話越しに言ったのを思い出して
この二人停学前までは普通に仲悪くなかったのに
やっぱナマエは"保守派側"だからか?

なんて言い訳すっかなーて思考を回す


「ナマエって?」

虎杖が馬鹿みたいな声でまっすぐ会話にぶち込んできて、流石根明だなって感心する。まぁ、空気読むとか、気使うとか
人間はめんどくせーよな。俺パンダだしもういいわ


「高専の3年だよ。ミョウジナマエ。今は京都にいるから真希が会いに行ってる」

「え!もう一人いんのか。その人も停学中?女?」

「いや、ナマエは停学中じゃない。ちなみに女だ」

「そーなん?でも交流会の時いなかったくね?」

「ああそれは」


「オイ。あいつの説明はいいんだよ」

秤の怒りを含んだ低い声が響く


「3年一人になっちまうから籍は東京校にあるけど、実質京都校で活動してんだよ。だから交流会は不参加だったんだ」

「へぇー」

こそっと早口で虎杖に話の続きをしてから秤に向き合い直す


「戦力は多いに越したことない。ナマエは必要だろ」

「あ?あいつそんな戦力になるほど強くねぇだろ」

「いやいや、一級だぞ。十分すぎるだろ」


「は?」



秤が見たことないくらいに目を見開いて、徐々にググッと眉間にシワが寄る

「は?あいつが一級?間違いだろ。あいつで一級なら俺はそんなん特級だわ」

「知らなかったのか?少し前だぞ?綺羅羅も?」

チラリと綺羅羅をみれば、ふいってわざとらしく顔を背ける。

「綺羅羅オマエ知ってたんか!?」

「だって金ちゃんナマエの話したらブチ切れるじゃん」

「は?ブチ切れてねーだろべつにッ!」

いや、キレてるキレてるって思いながら小さくため息を吐く。


「おい、パンダ。一級だろーが関係ねぇよ。あいつは呼ぶな絶対だ」

どーすんだこれ


「他人の望みを汲み取って、自分を形成してきたような人間なんかいらねぇよ。邪魔なだけだ」


おーい。言い過ぎ秤

もう俺白目向いちゃいそうだわ





「で、ナマエ先輩はどーすんだ?」

こそっと虎杖がそう聞いてきて、いやもう俺ほんとに白目向きそうだわ。パンダって白目向けんのかな?やったことねーわ

「電話した感じだと協力するって言ってたんだけど」


チラリと秤に目線をやれば綺羅羅と話し込んでいる。賭け試合の運営の話を詰めているらしかった。
虎杖に視線を戻して

「ナマエさんは秤さんとはちがうコロニーに入ってもらったらいいだけなんじゃないですか?その人も本人の意志で協力してくれるって言ってるんですよね?」

バサッと淡々という伏黒に

「そう、だよな?」

そもそもナマエの行動を秤が制限すんのも変な話だよなって思って
あんまりにも秤がキレるからアレだったけど、ナマエに協力してもらう事自体は別に秤には関係ないはずだ。

「んー」

「虎杖?」

虎杖が考え込むみたいに唸ってるから何だなんだと声をかける。

「いや、でもまぁ秤先輩の言ってることもちょっとわかるかもって……まぁ実際俺もそうならないとわかんねぇけど」

「は?」

わかるってなにを、虎杖はだってナマエと会ったことすらないのにって
秤はああ言われたナマエはたしかにお人好しなところはあるし自分のっていうより他人の為に動いてるとこはあるけど
真希なんか「あの人が一番狂ってる」なんて言うし「呪術師やるような人間じゃねーよ。ほんとは。なのに普通の顔して呪術師やってんのが狂ってる」なんて言わせる人物だ。急に一級目指すって言い出して、なかなか東京にいないのに、たまに見るたびにぼろぼろになってて、なのに何でもないみたいに柔らかくいつも通りに笑うんだ。
そんな姿をみていてたから……さすがに秤のあの言い方は言い過ぎだって思う

なのに

なんで虎杖が



「だって俺だってもし好きなオンナがって思ったらキツイもん」


「は」


「強さとかさ……認めてるだろうけど、気持ちとしてついていかないよなぁ」


"好き"?


「だって、いなくなってほしくねぇじゃん」




虎杖の一言が固まった空気にポツリと落とされて


「いやいや虎杖……え」

「え?」



「オイッ!」


秤の声にビクリと俺と伏黒の肩が跳ねる。
え?虎杖おいおい、さっきの会話でどうやったら好きなオンナにたどりつ






え?


いやま、え?




え??



「おい、いくぞパンダ」



ええー???











そんで、なんでこうなるッ


「おいパンダッ!!」

怒鳴るように声を荒げた秤が俺めがけて走ってくる。片腕なのにバランスとるの上手いなー……じゃなくて


「なんでナマエがここにいんだよッ!」

ゲッ!て思いながら秤の後ろを見れば西宮が箒を握って立っている。
西宮ちゃぁあん!なんでナマエの事話すかなぁ!
てかそもそも秤とナマエは違うコロニーに入れてくれって真希にも言ったよな?
え?……え??

「ナマエちゃんの姿が見えないの。秤くんが無事か確認したいからパンダくん探して合流するって言ってて……てっきり一緒にいると思ってたのに」

「パンダッ、ナマエ見てねぇのか!?」


おいおい



どうなってんだよ


「俺は見てない」


「くそッ」

「秤くん!?」


ダッて秤が駆け出して、慌てて俺もあとを追いかけた。














右の足、太ももから下全部の感覚がない


ぶわぶわしてる


足首を動かしてみるけど、感覚が全然なくて案の定目視で確認すると一応少しだけ鈍く動いたけど感覚とリンクしなくて普段通りに動かすのは無理だとすぐにわかる。
太腿に刺さった刃物を引っこ抜いて、それすら痛くなくてため息が出る。
多分麻痺系の薬が入ったんだろう。
血も出てるから、これほっといたらヤバいよね?て思いながら
でも所謂毒じゃなくてよかったって横に立ちすくむ影を見上げる。

トドメは刺した

立ったまま固まって、目に光がなくなっているその影から視線を外して

この場を離れたいけど少しだけ疲れたって一瞬だけ気が緩む。呪霊相手より、呪詛師相手の方がしんどいなってゲッソリする。でもクソみたいなヒトでよかった。殺しても何とも思わないなって一つ息を吐く。
海、堤防沿い。潮の匂いにむせそうになりながら、さっき近くで爆発があったなって考えて

止血して、パンダくん探して……


金次くんに会わないと


この期に及んでまだ少し会うのが怖いだなんて

でもこんなことしている間に、金次くんが死んじゃったらどうしよう
会えなくなっちゃったら


きっともう生きていられない

だから行かないとってグッて腕に力を入れて
幸い左足は感覚があるから立たないとって思うのに、うまく立ち上がれない。


「ナマエッ!!!」



何度もなんども


ずっと頭の中で繰り返してた

大好きなあなたの声


その声が、私を呼んでる


うそ、ほんとに?
幻聴じゃないよねってバッて顔を上げると


『きんじ、く』


少し向こう、距離はあるけど金次くんがそこにいるって
心が震えて


泣いちゃいそうで、泣いちゃ駄目だって


でも次の瞬間金次くんの顔が怒りに染まって

ドクリと嫌な感じに心臓が音を立てて
あんなに、あったらほっぺた殴って
ギャンギャンに言いたいことぶつけてやるって思ってたのに

バッてこっちに駆け出す金次くんに心臓がキュってするけど、金次くん左腕無くない!?って一瞬で冷たくなって
金次くんが私にどんな感情を向けてるかとか、そんなのどうでもよくなるくらいに

無事か確認したくて、必死に腕にちからをいれて金次くんの所に1秒でもはやく行きたくて



「オラッ!!」

勢いのままに飛び上がった金次くんがドガッてすごいスピードで
私の前に立ちはだかるよう固まっていたヒトだったものを蹴り飛ばして

「勝手に死んだら殺すぞ!ナマエッ!!」

死体がそのままにボチャンッてふっとんで海に落ちていって





え?


あ、え……私が殺られそうって金次くんおもって
それでも大変物騒なことを言われた気がするって、ああでも私も金次くんのこと言えないなぁ。なんて


「ナマエッ!!」


『はいッ』


思わず返事をして



勢いのまま飛び蹴りした金次くんは、
お互いに手を伸ばしてもまだ届かないくらいの距離
そんな半端な距離なのに


金次くんがギュッて拳を握っておっきく息を吸って






「結婚すっぞ」




『ぇ』


おっきな声でそう言って

ザッザッて、一歩……二歩縮まるきょり

金次くんは強張った顔のまま


え、なんて?


え……え?


だって、え



わたし、今ぼろぼろで血でてるし
足も力が入らなくて立てなくて
服も髪も顔も埃まみれで
金次くんだって左腕ないし

そんな状況で


え、てか金次くん髪めっちゃ。ピンクなんだけど可愛いなにあれ

そんな逃避を許さない強い瞳に

息を呑んで


なんでいま?

ほんとに?


だって、1年近く会ってなくて

連絡すら返してくれなかったくせに



簡単に



私を置いていったくせに


意味、わかんない



金次くんから視線は離せないけど
後を追ってきたパンダくんが、あんぐりと口を開けているのがわかる
そりゃそうだよ、だって今?このタイミングで??

100人中100人がそう思うよ



むちゃくちゃだよ。金次くん




「おい」


金次くんが私の前でしゃがみこんで



「返事」



真顔で、ちょっと怒ったみたいな顔で




そんな




そんなの




意味分かんないよ




『ぅん』





それでも嬉しいだなんて、ぽろぽろ涙出ちゃって

本当に一番意味分かんないのは私自身だ。


『きんじくん』


涙とまんないまま



「ん?」




金次くんを見上げて




『キスして』




いつでも

どこでも


一生だから


ずっと、だから


「まかせろ」


優しく笑った金次くんと、私の唇があわさった。







「怪我したのか?」

金次くんがグッて眉をひそめて私の足に視線が行く。制服だから太腿はスカートで隠れているけど、べったり血にスカートが濡れているから流石にわかったらしい。

『ん、痛くないから大丈夫だとおもう』

「は?んなわけねーだろ馬鹿かオマエ」

痛くない理由を伏せてそう告げたのに、結構強めに返されてグッて唇を閉じる。
なんかすごい怒ってるじゃん。わけわかんないよ。もうこっちはいっぱいいっぱいなのに

「足?」

『うん、右のふとも、も』

言うやいなやスカートをガバッて捲られて負傷部位を確認される。
露わになった太腿。右は傷口がまあまあ痛そうで……感覚ないけど見ちゃったら痛い気がするな。って思わず眉に力が入る。

「オマエなんでこんなん履いてんだよ」

ガバッて捲ったときより強めに乱暴にスカートを戻された。
ああ、ガーターベルトのことか

『なんでって……これくれたの金次くんだよ?』

ストッキングは流石に薄いからニーハイソックスにしたけど、他の下着は一式金次くんがくれた例のえち可愛い下着だ。
だって、もし何かあって死ぬなら

この下着をつけたまま死にたい。


そういう、乙女心を金次くんはわかんないんだろうか

だから危険な任務はいつもこの下着でいってて


「は?オマエ……」

突然金次くんがぐりんと後ろを向いて、すぐ金次くんの後ろにいたパンダくんがバッと顔を逸らす。あと一人の人は私と金次くんを見下ろすように立っていて
ジッと金次くんと目があったと思ったら鬱陶しそうな顔をして私達二人から顔を背けた。

「こんな……は?見られたか?」

『え?』

「だれか、これ。スカート捲れたら見えるだろこんなん」


まぁ、そりゃあ見えるかもしれないけど


『さぁ?』

「は?……まじでオマエ」


そんなのいちいち気にして戦ってられないでしょ
それに今はそんなことより、さっきの金次くんの言葉を処理する方でいっぱいいっぱいで


「はぁ……んで、立てんのか?」

『ぁ、えっと……それが』

「あ?」



ガバリと突然に


『金次くんッ!待って!!おろして!』

「あ?立てねぇくせに、ギャーギャー言うな」

だって金次くん左腕ないのに
私を右肩に俵みたいにガサッて、私の頭が後側、お尻が前側になる感じに雑に担いで
左腕がないからバランスを上手く取れないでよろける金次くんに心配になって必死に降ろしてって訴えるのに全然聞いてくれない。
数歩すすんで、感覚を掴んだ金次くんがそのままスタスタと歩きだして
体幹つよい、身体の使い方上手すぎって馬鹿みたいにキュンキュンときめいた私は正真正銘の馬鹿だと自分でも思う。

チラッて視線を上げれば

ちっこいパンダくんが真顔で後ろをついてきてて
え、パンダくんちっさ……かわいい。って現実逃避できたのも一瞬で

恥ずかしさが尋常じゃない


だってだって

ていうか
え、え??結婚?え、ケッコンっていったよね?て頭ぐるぐるして

金次くんってわたしのこと好きなの?


なんていまさら頭が爆発しそうで

もう一人の顔綺麗で、可愛いギャルがしてそうな角みたいな髪型の人と目があってすぐに逸らす。
顔真っ赤になってるのが自分でわかる。もう恥ずかしくて泣きそうになる


『金次くん、ほんとに……桃ちゃん待っとくから。大丈夫だよ』

「あ?なんで西宮だよ」

なんでってだって桃ちゃんに乗せてもらうのが現実的じゃん。
パンダくんちっこいし、あと一人の人は誰かわからないし……年齢不詳だし。あ、1年生かな?もしかして器の子?それならあの人に肩貸して貰おうかなって思ったのに

「オマエは俺のだろーが」

『へ』

「あ?ちげーのか」


『ぁ、ぅ……ちがう、くない』

「だろ?」


う、死ぬ

恥ずかしくて、嬉しすぎて死ぬ


ほんとに意味分かんない


どうなってるの?










「はい、これで終わり」

『ありがとうございます』

「予想通り麻痺系っぽいね、毒っていう毒じゃないから解毒しなくても大丈夫そうだけど……持続時間もわからないし、とりあえず安静にね」

『はい。ありがとうございます』

あのまま金次くんに担がれて硝子さんのところに連れてこられて治療をしてもらった。でもやっぱり麻痺は残ってて、解毒って面倒くさそうだもんね。
でもとりあえず早急に戦闘にはならなさそうだから、少しゆっくりさせてもらおうって思って
チラリと目線を上げる

「はい、これでよし」

『ッス』

金次くんの腕がもどって、本当にいつみても反転術式は不思議だなって思う。
グーパーしてる金次くんに、無事に戻ってよかったってホッとして

「じゃあゆっくりしときな」

『ぁ、はい!』

硝子さんが部屋を出ていって
私と金次くんの二人だけになる

途端に顔が熱くて、心臓がばくばくして

ちょっとまって心の準備が!って落ち着かない


「ナマエ」

『はい』

金次くんに名前を呼ばれて顔を上げる。

「ん、これ書け」

金次くんのがポケットから雑に紙を取り出して、私に手渡してきたから
なんだろうって折りたたまれていたそれをひらいて

飛び込んできた文字に頭ぐらぐらして


『ぃ、いま?』


「あ?いまだろ」

『ここで?』

「ここで」


婚姻届だなんて、いつどこで貰ってきたの?ってぐるぐるして
え、ええ?

「あ?結婚するっつったよな?」

『ぇ……あ、いった。けど』

でもだって


金次くんむちゃくちゃすぎるって頭いっぱいいっぱいで

「ならほら」

そう促されて頭沸騰しそうなままに、震える手でペンをもつけど


『あ、の……金次くん。私まだ17歳で』

「あ?」

『え』

誕生日がきてないから17歳である。こういうのって未成年でも大丈夫なんだろうか

「オンナは16で結婚できるんじゃねーの?」

『ぁ』

わかんない。保護者の同意とかいらないのかな?え……証人ってなんだろう
婚姻届に書かれた欄に目を通して


ていうか





え?


『ほ、本当に結婚するの?』


「あ?」


『え』

「すんだろ?」


えっと、そういうことじゃなくて

だって



『金次くんって私のこと好きなの?』


「は?」


金次くんの眉間に皺が寄って、怒ってるってわかるけど
でもだって……

『嫌いって言った』


くせにって語尾はなんとか声に出さないように留めて。


「そ、れは……」

一瞬で怒気がしぼんだ金次くんになんだかこっちが呆気にとられる。


「あれはそう言うつもりじゃ、いや……」

言い淀む金次くんが、ゆっくり呼吸をして



「わるかった」


グッて落ち着いた一言

『ん』


すごく、悲しかったこととか傷ついた事とかぼろぼろ思い出しちゃって
胸が痛い。


「あれは、ナマエを傷つけたくて一番傷つくってわかっててわざとぶつけた」



そんな


「本当にわるかった」

じゃああの言葉は


『きらいじゃないの?私のこと』


胸がぐちゅぐちゅする


「嫌いになれるわけねーだろ」


ぼろぼろ、溢れちゃう


「傷つけてわるかった」

頬をおっきくて暖かい手で覆われて、溢れる涙を親指で拭ってくれた。


『ほんとに、傷ついた』

「ん」

『悲しかったんだから』

「ああ、ごめん」

『ギュッてして』

「ん」

金次くんがギュッて腕を回して抱きしめる。あったかくて、金次くんの匂いがして


『金次くん、すき』


「ん、知ってる」


そうだ、金次くんは知ってるんだった


「知ってんのに、勝手に腹が立って……ナマエを傷つけたくてたまらなくなった。ほんと、格好悪くて最低だろ?」

ググッて強くなる腕の力に
少し掠れた金次くんの声に、胸が締め付けられたみたいで

「ナマエは俺のこと大好きなのにな」

耳元、低い声


ああもう、すき


「ナマエ」


ゆっくりした声なのに、微かに強張ってる



「好きだ」


金次くんの背中に回していた手に力が入って


「好きだナマエ」

『ん』

目の奥があつくて、うまく呼吸が出来ない


「大好きだ」


『ぅん、うん』

頷くみたいな返事しかできなくて
ギュウッて強く抱きしめられて

それから腕の力が抜けて、ゆっくり身体が離れる。


「ナマエはいつも全部で俺が好きだって言ってるもんな」

左の手首のブレスレットを撫でられて
心臓がドキドキする。その手がゆっくりあがって

耳たぶを挟んで甘く撫でる


「ピアス、俺のだろ?これ」


息を呑む

『そう、だよ』


金次くんに渡そうって思ってたピアスを
捨てることも見えないところにしまう事もできなくて
これのためにピアスホールを開けて

私らしくない、少しゴツめの存在感のあるゴールドのピアス


「あけたのか?」

『うん』

「痛かった?」

『いたく、なかったよ』

チュッチュッて耳にキスされて、身体がブワって熱くなる。

「誰?」

『ぇ』

「加茂?乙骨?」

え?何の話?って
甘々な空気だったのに、少しだけ強い口調で名を挙げる金次くんに戸惑いが生まれて

「まさか東堂じゃねーよな」

『え?』

「これ、あけたの」

耳朶を指先で撫でられて

「俺があけたかった」

ゾワッて身体が痺れる

「ナマエの身体に穴あけんの俺がよかった」

ギュッてされて首元に顔を埋めながら、そんな事を言われて


頭ぐらぐらしちゃう


『病院、だよ』

「あ?」

『皮膚科であけたんだよ』

「は」

ガバッて顔を上げた金次くんがアホ面さらしてて、面白くて笑っちゃう。


「んだよ……男に開けさせたんかとおもったわ」

ちょっと拗ねたみたいにそういうのが可愛くて

「俺が開けるっつった時恐いからヤダって言ってたくせに」

『あの時は、』

金次くんとずっと一緒にいる覚悟もなかったから
適当なところで諦めるつもりだったから

金次くんに、ピアスなんか開けてもらったら絶対忘れられなくなっちゃうって思って
でもピアスなんかなくたって、忘れられなかったのに

だったら金次くんに開けてもらえばよかったな

「お揃いでもいーぜ」なんてあの時軽い感じで言っていた金次くんにドキドキしながら嬉しかったけど誤魔化したんだ。なんともったいない事を
惜しいことしたなって今になって思うけど

それにあの時は
結婚相手がお堅い家柄の人だったら
ピアス開けてるのを嫌がるかもって……少し過ぎって
実際うちの祖母はピアスなんか、身体に穴開けて!とか言う人間だから。嫁いだ先の価値観がそうだったらよくないかなって
だからピアス開けるのはナシだなって昔からぼんやり思ってた事だった。


でも開けちゃったなって胸がいっぱいで
耳たぶを撫でる金次くんにジンジンして

もう関係ないもんねって口元緩んでニヤニヤしちゃう


「これ、つけていい?」

『え』

「俺にくれるんだろ?」

耳の裏側をゆっくり、優しく撫でられて
久しぶりの熱にじわじわと蝕まれて身体が言うことを聞かない。

『いい、よ』

ああもう、とろんてしちゃう

「さんきゅ」


『んぅ』


パクッて食べられるみたいにキスされて

「なんか足んねーわ」

『ぇ』

唇を離した金次くんが、ごそってポケットから出してキュポッて小さく音を立てて蓋が外れる。
それが唇をなぞってフワリと甘い香りにつつまれて

『ぁ』

そのまま啄むみたいなキスをもらって
柔らかく、二度三度。離れてはまたくっついて


「やっぱナマエって感じだな」


バニラマカダミアを纏ってキスをする

頬を引き寄せられて深くキスをして
すぐとろとろになって



『金次くん、すき』

蕩けてみつめあって

「ああ、俺もナマエが好きだ」



全部ゆるして
全部混ざり合って溶けて、甘くひとつになる










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