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愛と呼ぶには程遠い



◇ここから原作、アニメ沿いです。
アニメ派の方にネタバレは無いようにしています。

原作とアニメを観ながら書いていますが
細かい日時のズレなど、ちょっと書きやすいように妄想で補っています。ご了承ください!
部屋の配置とか、メイドの仕事とかこの辺も適当です(いまさら)寛大な心で読んでいただけると助かります。

一応アニメ2期のアピスを見届けてから最終話付近はアップさせてもらいたいので(流れは決めてるんですが、アニメみて変にテンションぶち上がったら内容変えるかもしれないので)途中で一旦執筆ペースが止まると思われます。その間はアピスと名前ちゃんの日常をちょこちょこ上げていくつもりです。よろしくお願いします。









二人分の体温が混ざって溶けたベッドは暑いくらいで、抜け出した先の朝の部屋は肌寒いはずなのに少しもそれを感じない。
まだ薄っすらとボヤけたような明るさの空に今日もまた一日始まるのだ。とゆっくりと脳を起こす。

ベッドの上に座ったまま椅子の背にかけていた靴下を取る。薄いニットの靴下を太ももまで通してから二本のリボンを手に取る。

「名前」

『おはよう、アピス』

もぞもぞと、後ろからシーツが擦れる音がする。アピスの寝起きの少し掠れた声が色っぽくてその声で名前を呼ばれた事に嬉しくなる。
リボンを手にしたままゆっくりと身体を彼の方に向ける。


もう、想いを伝えてから長い月日がたって5年過ぎたあたりから数える事すらしなくなった。そのくらいの時間を共にして"アピス"と彼の事を呼ぶのにもだいぶ慣れた。
こうやって彼のベッドで目覚めるのは週に1回あるかないかだけど

それにもだいぶ慣れたのに

いつまでも鮮明に彼を好きだと思う。


「ん」

『んー?はい』

寝ていた彼がゆっくりと上半身を起こして手を伸ばす。それを見て手にしていたリボンを二本とも彼に渡して、身体を彼に寄せる。下着の白くて薄いシャツを太ももまで捲り上げる。


『アピスこれ好きだね』


揶揄うように言ったのに、寝ぼけているのか何も返事が返ってこない。
アピスは意外にムッツリだよね、と太ももに伸びる彼の手を見つめる。彼は膝上の靴下がずり落ちないようにと太ももで結ぶ為のリボンを大きい手でゆっくりと結ぶ。
両方のリボンを結び終わると、するりと指先で太ももの素肌と靴下の間を撫でられてゾワゾワと甘く胸が痺れる。

一緒に寝たいと抱き締めてきても、二年くらいは性的接触をアピスは断固拒否していた。なのに今じゃもう一緒にいられるときは遠慮なしに触れてくる。
それには未だにドキドキするけど、でもそれだけ私に甘えてるのだと思うと嬉しくてたまらない。

『ありがとう』

「ああ」

満足したのかゆっくりと手が戻っていって、私はベッドから降りてメイド服に袖を通す。あちこちあるボタンを一つずつ止めて、エプロンのリボンを結ぶ。榛色の刺繍が入ったグレーのリボンで髪を結い上げて、キャップをつける。
その様をぼーっとしながらアピスが眺めているけれどこの状態にももう慣れた。


こうして私達の一日ははじまる。







「ボッス王もいよいよって感じよねぇ……どうなるのかしら」

「国王はダイダ様じゃないかしら」

「でも変わらずボッジ様を王にってお考えらしいわよ」

「えー、ボッジ様最近城外を裸で出歩いてるらしいわよ」

「なにそれ!酷いわね」

「でもダイダ様も当たりきつい時あるからねぇ」

「たしかに」


使用人の控え室で繰り広げられる会話が嫌でも耳に入って来る。
王になるのがダイダ様でも、ボッジ様でも誠心誠意お仕えすることに変わりはない。ただこの国の安定が続いてほしい。何年か安定していたのに、このまま国が不安定になればアピスの仕事が増えてしまうかもしれない。それは、嫌だな。
てきぱきと手を動かして控え室を後にした。




「おい」

『はい、ダイダ様』

「戻るぞ」

『はい、お疲れ様でございます』

目の前をダイダ様がツカツカと過ぎて、後ろにいるべビン様に手を差し出して鍛錬終わりのタオルを受け取る。

『ベビン様もお疲れ様でした』

「ああ」

三人でそのまま城内を歩く。べビン様が自室に行くのに廊下が別れるのでペコリと会釈をしてダイダ様の後をついていく。べビン様の自室にタオルと着替えを準備済みだ。後はダイダ様の着替えとタオルを洗濯にまわして、軽食をお部屋にお持ちする。
ちらりと後ろからダイダ様の様子をうかがう。今日は機嫌がよさそうだ。最近剣術の調子がいいらしくおかげで機嫌がいい。わりとダイダ様は自分の機嫌で使用人に対する態度も変わるから機嫌がいいにこしたことはない。と安堵する。

本当……べビン様も大変だな。


「名前」

『はい、いかがされましたか』

「この後はもうあがっていい」

『かしこまりました。軽食はいかがされますか?』

「……じゃあそれだけ頼む」

「承知いたしました。すぐに準備いたします」


礼をしてダイダ様の部屋から出る。鏡とやらと話すのだろうか。
ダイダ様の側仕えになってもうだいぶ経つ。基本的に細かい事でも呼ばれたらすぐ行けるように側仕えは隣の部屋で待機していることが多い。いつからかダイダ様が鏡とやらとお話をしていると知った。最近は会話を知られたくないのか最低限の仕事が終わればもう部屋に来なくていいとまで言われる。
一度見かけたその鏡は、なんだかゾワリと薄暗い空気を纏っていて少しだけ怖かったけれど。鏡とか、わりと怖い話とか念が篭もる系の代表格だよなぁ。と私が気にしても仕方がないのでそれ以降視界に入れないようにしている。
べビン様は気にしてらっしゃるみたいだけど、別にダイダ様の体調が悪くなる様子もないし、なりより「お父上から頂いたものだ」と言っていたので心配のしようもないだろう。同年代の所謂友達もいらっしゃらないし、お兄様であるボッジ様とは今では一緒にいるところを見かけないから、あの鏡は唯一の友みたいなものなのかもしれないし。


とりあえず、この国が平和なら私は何でもいい。







『ダイダ様どちらに』

「名前。お前に面白いものをみせてやる。ついてくるか?」

『……はい』

外から威勢のいい声が聞こえたと思ったらダイダ様が木刀を持って部屋から出てきた。胸を張って歩くダイダ様に続いて階段を降りて廊下を歩く。中庭に視線をやるとドーマス様のお姿を見つけて、お目当てはアレかと推測する。
ズンズンと歩くダイダ様を後ろから見守る。剣術指導?中みたいなので、中庭には入らずに廊下の影で待機する。ダイダ様の機嫌が悪くなりませんように。と祈りながら小さくため息を吐いた。

はじまったダイダ様とドーマス様の撃ち合いに興奮したドーマス様の顔が見えて、これは本格的にダイダ様の機嫌が心配になる。さすがソードマスターと言ったもので、地に手をついたダイダ様が悔しそうに声を荒げている。

ああ、べビン様来てくれないかな。

目線を下にやって、このあとのダイダ様の予定と自分の予定を照らし合わせて今日中のご機嫌取りは難しそうだ。と結論づけた。

ざわざわと周りの騒がしさに意識を戻して顔を上げる。いつの間にか増えている観客に何事だと意識をダイダ様に戻す。

ボッジ様と試合ですって?

これは初めての事じゃない?と少し心配になる。子供同士の撃ち合いなどたかが知れてるだろうけれど、ダイダ様は本気で顔面に振り下ろすタイプだからなぁ。




始まった試合に、ダイダ様の攻撃を全て華麗に交わすボッジ様を凄いといつの間にか拳を握ってその様を見てしまっていた。
ざわざわと聞こえる兵士の「卑怯だ」の声に何が卑怯なのかとわけがわからない。勝てればいいのだし、守りたいものを守れることが重要だろうと。思ったけれど
あまりに軽いボッジ様の一振りに、たしかにあれでは守るのは難しいかもと。でも別に卑怯なわけでは……と思っていたら

ドーマス様が手話でボッジ様に伝えた言葉に衝撃を受けて、耐えられなくてギュッと自分の腕を握って目線を二人から外した。

聞こえてくる肉体に木刀がぶつかる音と、ボッジ様の漏れでる声に胸がひねり潰されるように痛い。ググッと腕を握る力が強くなる。腕が痛いけどこうでもしないと、意識がボッジ様に行ってしまう。

お願いだから早く止めて。

もう耐えられない


ドガンッー!!!

その音に驚いて思わず視線をそちらに向ける。

『アピス……さま』

地面に突き刺さった槍と、愛しい人の姿にホッとする。出てしまった名に慌てて様をつける。誰に聞かれているかわからないから城内は怖いところだ。

「それまでっ!ダイダ様の勝利!」

ドーマス様の言葉で我にかえってドッと倒れたボッジ様に駆け寄る。誰が見てもわかるくらいの酷い傷で身体が震えそうになる。痛そう。くらいじゃ収まらないその様子に早くお医者様を呼ばなければと頭の中でこの時間お医者様はどこにいらっしゃったっけと必死に思い出す。

「おい」

頭の上から降ってきたダイダ様の言葉に顔を上げる。

「いくぞ」

『ぁ……』

ボッジ様を見て、近くの兵士が医者を呼べ!と走り回っているのを見て私がいなくても大丈夫かと確認する。

「名前」

『はいっ、ダイダ様』

強めに呼ばれた名にすばやく立ち上がって、慌ててしゃがんだからスカートに付いてしまった砂を軽く払う。歩き出したダイダ様の後ろを姿勢を正してついていく。ダイダ様の機嫌はよさそうだけれど、なんだか後味が悪い結果で。
でも後継者争いと思えば、まだマシなのかな。もっと酷いところは本当に殺し合いとかあるだろうし。アピスが止めてくれてよかった。じゃなきゃボッジ様は……恐くなって考えるのを辞める。うん。アピスかっこよかった。必死に無理矢理切り替えて、前を向いた。


皆が幸せに平和になんて、無理な話なんだろうか
今のままがいいなんて、そんなことあるはずないのはわかっているのに


見てみぬふりだけがうまくなっていく








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