女の園の星

おまけ


(大学時代からの小林くんside)


え、苗字さん泣いてる?


大学のC棟と駐輪場の間の奥
普段ほとんど人がこないそこはひっそりと灰皿があって、大学内で静かに煙草を吸える数少ない場所だった。

誰もいないっておもってたのに、そこに苗字さんがいた。

思わずびっくりして建物に身を隠す。

そりゃ、泣いてるのなんか見たらびっくりするだろ。
バクバクとうるさい心臓を落ち着かせるように目を閉じて深呼吸をする。

チラリと苗字さんのほうをみれば
ベンチにすら腰掛けず、わざわざその前でうずくまって小さくなっている。
ひっ、ぐっと噛み殺すような音
お世辞でも可愛くない泣き方でそれがもう深刻さを物語っている。

おいおいまじかよ。

教育実習組で一緒だったとは言え、別に仲良くはない。
大丈夫?なんて言えるはずもないし、とくに励ましてやるほどお人好しでもない。彼女に興味もない。

まいったな、別のところで吸うか。

きっと男にフラレたとか、その類だろう

苗字さん優しそうだし、慣れてなさそうだから
断れなくて変な男とかに引っかかりそうだもんな。

見なかったことにして
あー、こっから近いとこだと、あそこか。まぁいいか、なんて喫煙所が何処だったか思い出す。別に吸わなきゃ吸わなくてもいいんだけど
変な所に遭遇してしまって、変に心臓がバクバクしてるから煙草でも吸って落ち着きたい。



同じ理学部の苗字さん。何回か、話したことがある。ただそれだけ
ぽやっとした雰囲気の真面目そうな子。そして成績優秀。
実際話してみたら意外としっかりしてる。
頼まれごとをされても嫌な顔せずににこやかに手伝ったりして
実習の資料づくりとか完成度たかかったのにすぐ終わってたから多分要領もいい。なのに大学で見かける彼女はずっと何かしら勉強してる所しか見たことがない。

「そこまでしなくてもよくない?」と実習前に彼女は問われてて
その時『え、でも、せっかく興味持ってくれたのにそれについて答えられなかったら私が嫌だし。生徒と一緒に調べる時間もなさそうだし』と答えて「まじめか!」とツッコまれていた。
それを横で聞いて真面目か。と俺も心の中でツッコんだ
だけど、生徒にとっては苗字さんみたいな先生の方がいいんだろうなって。素で生徒の為になりたい。みたいに思えんのすげーなってぼんやり思った。

緊張するって真っ青な顔して、ギュッて震える小さな手を握りしめてたわりには
実習が終われば評価が一番よかったし。
まぁ、本人も死ぬほど頑張った!て言ってたけど


教師になるつもりはないけど、とれるならとっとこうかな。くらいの軽い気持ちで教育実習を選択してるやつらの方が多いくらいで
実際免許が取れても採用試験に受かるのがまた難しい。だからこの中で一体何人教師になれるんだろう。

でも、苗字さんは教師になるんだろうなって

たぶん俺だけじゃなくて皆そう思っていた



なのに

「小林くん、採用試験受かってよかったな!」

「はい、ありがとうございます」

「いやー、小林先生か!頑張れよ」

お世話になった大学事務のキャリア支援担当者に報告をして、先生と言われてなんだかむず痒い。

「そかそかー、今期は教育学部以外で現役で教員受かったの少なかったからなぁ」

「何人受かったんですか」

「小林くん入れて二人だよ」

え、二人?少ないな…そっか。じゃあ、あと一人って苗字さんだよな?


「あと一人はほら、物理学科の」


「え」

「実家が四国みたいだから、そっちの高校の先生みたいだけどね」


え、


苗字さんは?


「あの……苗字さんは?生物学科の」

「あー、彼女は採用試験受けなかったんだよ。もったいないよねぇ。あんなに頑張ってたのに」

え、嘘だろ?

「まぁでも、残って研究するみたい。院に進むって教授達は喜んでたけどね」

院?先生じゃなくて?

「そう、ですか」



あの時

あんなに泣いてて

もしかして進路の事だったんだろうか


でも、あそこで声をかけてたとして
俺には何もできないだろ?

あんなところ見たから、ちょっと気になってるだけだ。
院に進むってことは、きっとやりたい事ができたって事だろう。

だったらそれでいいだろ。


俺には、関係のない話だ。







教師になってたまにふと苗字さんのことが過った。
きっと苗字さんだったら、もっと生徒に親身になってあげるのかな。とか
でもそんな事をしたらこちらの身が持たない。付かず離れず、適度な距離感で
過度に干渉しない。

彼女は教師にならなかったほうがよかったかもしれない。

優しい彼女が教師になれば、きっと鬱にでもなって辞めていたかも


そういう世界だからだ


きっとどこかで元気に笑ってるはずだ

もうあんな泣いてないといいけど



ガラにもなくぼやっとそんな事を思っては
仕事しごと。と月日は過ぎていって

もう彼女のことを思い出すこともなくなっていた







大学時代end



あとがき

きゃー!やっとくっつきましたー!
思っていたよりかなり長くなってしまいました(^_^;)気長にここまで読んでくださり本当にありがとうございます。
女の園の星。やってしまいました。はぁ、耐えられず。
小林くんの余裕ぶっこいてる風を崩してしまいました。笑
なるべくリアルに、と思って細かい表現を肉付けしていたら無駄にダラダラと長くなってしまい…さすがにそろそろ。と完結しました!
なるべく小林先生の雰囲気を壊したくなかったんですが、難しかったです。でも楽しかったです。
てか、結婚願望どころか恋愛願望すらないような男って気づいたらちゃっかり結婚してない?という友人の体験談を思い出してやっちゃいました。
リアルな大人の恋愛とは……と悩みましたが、大人ってそんなに大人じゃないよね。実際。とこんな形に落ち着きましたm(_ _)m

コメントもいただけてなんとか完結させられました!大変嬉しかったです(^^)今後も感想などいただけたら泣きながら踊って喜びますので、よろしければコメントお待ちしています。



今回意識して小林くんsideはのっけてませんでしたので
このあと↓は小林くんの心境の流れをさらさらーっとお茶漬けのようにライトに載せてます

ああ、ここはこういう感じだったのねぇ。とニヤニヤしていただければ幸いです。



(小林side)

あの苗字さんを卒業してぶりに見て

え、めちゃくちゃ綺麗になってない?とちょっとそわそわしつつ
結婚してるよな。いい子って感じの人だし。
今仕事なにしてるんだろ。とかちょっと気になって話かけたら
結婚してなさそうだし、彼氏もいないっぽいし
昔のぽやっとしたまんまの雰囲気も残ってて
え、かわいいじゃん。とか
同期のやつもちょっと苗字さんの事見てて。いや、ちょっと待って。って何故か焦って
自分はとくに恋愛する気もないくせにわざと苗字さんに声かけて

恋愛とかは面倒だけど
この歳でずっと同じ日々の繰り返しだから
ま、たまにはいつもと違う人と話したいな。
なんてそこまで深く考えずにぐいぐい仲良くなって
名前といるの楽しいし、居心地いいことに気づいて
気使わなくていいし、変にかっこつけなくていいし(これ重要)


でも、俺結婚願望なくて、苗字さんは結婚したいって言ってるしな。て思ってたのに

お互い酔ってて、近いし、いいにおいするし
名前かわいいし。我慢できない!
我慢できないくせに、大事にはしたいし。
自分なりにそれを表現しないとってギリギリ葛藤した後の

あの甘々エッチ

離れたくないし、エッチめっちゃ気持ちいいし、相性よすぎだし、なんかもう名前も部屋も居心地いいし
これ、結婚……。ってリアルに想像しちゃってずっとぼーっとして

ここで離したら他の男と結婚するんだよな?って

むちゃくちゃ戸惑いつつ、我慢できなかったのを反省したり
今なにしてんだろ、とか気になったり。身体目当てって思われたくないし。って焦って無駄にLINE送ってみたり
そういうのにまた戸惑って上の空なったり

自分なりの誠意を、と
雰囲気に飲まれないように夜じゃなくて昼にデートに誘った。そしたらやっぱり好きって思って

小林くんって呼ばれてショックうけて

名前呼ばれてやっぱ名前好き。
名前も俺のこと好きだよな?これ。って
落ち着いて話したいのに、昼間だとあんまり落ち着いて二人になれるとこがないな。てちょっと焦って、でも付き合うってことは結婚するってことだよな?ちょっといろいろ1回考えさせてくれ!てコンビニで一服したけど

全然考えまとまらなくて、でもちゃんと言わないとよくないよな?このあと、どっかで二人で話したい。とか思ってたら
え?家行っていいの?え、ちがえの?え、いや。行く。

名前かわいい。すきなんだけど


っていう流れでした!

いやー。妄想万歳ですねぇ。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました!!
またオマケで書きたいネタがあるので体力があったらアップします!


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