歪んだ恋心の気づき方


◇マネージャー(片思い)×片桐
◇切甘?
◇片桐がちょっと酷いやつ




『片桐のことが、好き、なんだけど』
「は?」


大会も終わってしまって
部活も引退となった。あとは卒業の進路に向けて急いで準備をしなければならない。
そんな時期に予想だにしてなかったことが起こっている。

なんだこれは、夢か?高谷あたりが仕組んだドッキリか?

「なんかの、冗談か?」
『……冗談でこんなこと言う奴だと思ってたの?』
「いや、すまん」

頭がついていかない。
目の前で顔を真っ赤にしてそう言うのはカバディ部3年マネージャーの苗字だ。
苗字のこんな姿見たことが無くて動揺する。

苗字はよく動くし、よく声を出す。部活中もその真っ直ぐな通る声で俺達を支えてくれていた。
真面目を絵に書いたような人物で
雰囲気も少し硬い。無愛想ではないが、感情もそこまで顔に出さない。でも融通はきくし、臨機応変に何でも対応できる。
結構優秀だと思うし、頭の回転がはやいのかこっちが一言えば十を把握してくれるような奴だ。
自分がプレーするわけでもないのに、真面目に献身的に部を支えるその姿は尊敬すらできる。

で、そんな苗字が俺を好きだって?
なんでた?
全く気付かなかった。そんなそぶり、あったか?

そういうふうに、見たことも無かった。
たしかに苗字を可愛いと表する男子がいることは知っていたし、実際彼氏がいるのか。とクラスの奴に聞かれたこともあった
ただ俺達からしたら仲間であり、苗字は性の匂いがしない。全く女として見たことがなかった。
だから、こんな苗字の姿見たことがない。

『…あ、その』

好きって、これって俺と付き合いたいってことか?
いや、だって苗字だぞ?いままで意識したことすらないのに

そんな急に

「……無理だろ」

頭の中で考えていた言葉が、スルッと口からこぼれた。
無意識に呟いたソレは思ったよりも響いて

一瞬だけ苗字の顔が絶望に歪んだ

『わかってたから、うん。引退したし一応区切りつけたくて伝えただけだから』
「あ、いや」

苗字が俯きながら早口でそう言う。
傷つけたいわけじゃない。もちろん、苗字は大事な仲間だし。支えてもらったと俺も思ってる。

スッと息を吸って苗字が顔を上げた。

『ありがとう。じゃあ、いくね?』

苗字が綺麗に笑った。
それをみて、ガッと心臓を鷲掴みされた様で
ゆっくりと去っていく苗字の背中を俺はただ動けずに見つめていた。


入学してから毎日の様に会っていたのに
部活も引退して、クラスも違えば
びっくりするほど会うことはなかった。

たまに廊下で六弦と話しているところをみかける。その時「おお!片桐!」と馬鹿でかい声で話かけてくる六弦の横で
苗字は俺と目が合うとふわっと笑う。
その笑顔は、部活の時は見せなかった優しい笑顔で
あの時なんかなかったかのように俺に話しかけて
その笑顔のまま六弦と話を続ける。

こいつ、俺のこと好きなんじゃないのかよ。
わけのわからない、気持ちがグツグツと煮えるように俺の身体を支配する。
こんなことは初めてで気持ちが悪い。

傷つけたいわけじゃなかったのに
もっと傷つけよ。って思っている自分に気付いて自分が恐くなった。

この気持ちはなんだ。





「なぁ」
『どうしたの?片桐』
「…苗字って俺の事好きなんだよな?」
『え………うん』
「それで、俺とどうしたいんだ」
『え』

放課後苗字を捕まえた。
なるべく、表情が出ないように苗字に問いかける。

『なんで、そんなこと聞くの』
「いや、苗字のそういうの想像つかなすぎて」

苗字の表情が歪む。


ああ、やばい。この顔だ

もっと歪め

「で、苗字は俺とどうしたいんだ?」
『どうって……』

いままで繕ってたあの笑顔を出す暇は与えない

「だから、付き合いたいとか」
『っ!』
「ん?」
『付き合いたい。片桐と』
「へー」

温度のない返事をすれば
苗字が下唇を噛む、目尻が少し赤くなる


やばい

「で?付き合って俺と何したい」
『え……』
「苗字と付き合うの想像できないから、言えよ」

苗字の眉が下がって、目元が潤んでる


やばすぎる


『あ、一緒に話したり』
「ふーん、今も話してるだろ」


絶望に染まった瞳が俺から逸らされる


『片桐に好きって、思われたい』

震えた声でそういう苗字に
ぐちゅぐちゅと心臓をすり潰されたみたいに胸が痛い

「そっか、あとは?」
『あと?』
「俺としたいこと」

ポロッと苗字の瞳から涙が溢れる

『片桐に、触れたいし、触れられたい』


ああ、最高だ


「具体的には?」
『ひどい……』
「教えてくれないとわからない。俺は」

触れるか、触れないか
そのくらいの優しい手つきで溢れた苗字の涙を指先で拭う

『キス、したい』
「ああ、あとは?」
『ぎゅって、されたい』
「そうか」

ぎゅううっと握られた苗字の手が震えてる

『……』
「それだけか?」
『……』

苗字の口が緩く開いて、何かを言いたそうにしてはその口をまた閉じる。

「なに?」

『片桐と、えっちしたい』


ポロポロと苗字の瞳から涙がこぼれて、
俺の指先を振り払うように苗字が乱暴に目を擦る

『もういいっ?満足した?』

ぐちゃぐちゃな顔で
自分の欲望を無理矢理曝け出されて
ひどく傷ついている苗字が最高に愛おしい


『ツッ!なにっ』

ガッと苗字の両頬に手をやって、無理矢理苗字に俺と目を合わさせる

「苗字、お前かわいいな」

『は!?んっ!!』


齧り付いた苗字の唇は
思っていたより柔らかくて冷たい。

「おれ、苗字のこと好きだ」


『……は?』


ポカンと間抜けな顔を晒している苗字にまたキスをした

ぶわっと苗字の顔が赤くなって
ああ、やっぱこの顔が1番可愛いなって思った。




「悪かった」
『最低すぎるっ!』
「ごめん、苗字かわいすぎて」
『ば、ばかじゃないの!?片桐はそんな人じゃないと思ってたのに!』
「俺のこと嫌いになったか?」
『ッ!それは……ずるい』
「俺は苗字好きだ」
『私も……片桐好き』





(あとがき)


片桐くん、めっちゃかっこいい。
なのに、こんな歪ませてすみません。不器用すぎて、自分の気持ちとか衝撃的なことが無いと気付かなさそうだなって。
めっちゃ甘々にしたかったのに、気付いたらこんな歪んだ癖持ちになっちゃった片桐くんでした。
でもこの後はきっともう二度と傷つけない。って誓ってラブラブで過ごしてくれることでしょう(適当)

ここまで読んでいただいてありがとう御座います!





×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -