06






早めにお風呂に入って、身体の熱が冷めた頃二人でソファーに並んで座る。


「じゃあ、ナマエちゃんいくよ?」

『う、はいっ……』

そっと耳たぶに紫さんの指が触れて
未経験の痛みに備えて流石に身体が緊張する。

丁寧にあらかじめつけた印のところに充てがわれて
身体に力が入ってると、余計に痛そうなのでなんとかリラックスしたいけど
どの程度の痛みか想像がつかなすぎて変に力が入る。
きゅっと目をつぶる。

「教えたほうがいい?」

『う、うー、どうしましょう。もう行けるんですか?』

「うん。いつでも」

『えと、じゃあ紫さんのタイミングでっ、ひっ!』


急に来た耳元の音に思わず目を見開く。


まさか、まさか

「もうあいたよ、ナマエちゃん」

『紫さん?え、ちょ!』

なんつーことを!

「痛かった?」

『いや、痛くないですけど、びっくりしました……』

痛みよりも心臓に悪かった気がする。
完全に間抜け面をしている私をみて紫さんは楽しそうに笑ってる。

「ん、まっすぐいけたよ」

『ありがとうございます』

優しく耳を確認して紫さんの手が離れた。
なんか耳めっちゃ熱い。

「じゃあ反対ね」

紫さんが立ち上がって、反対側に座りなおす。

『今度はちゃんと教えてください』

「まかせて」

どの口が?と思うけど、実際思っていたより痛みがなかったのでよしとするか。と
紫さんにされるがまま大人しく反対の耳も差し出す。

『お願いします』

「うん」

耳元に紫さんの指が触れる。
指の動きが止まって、そろそろかな?と少し身構えるけど
なかなか来ないそれに、あ、今度は焦らすパターンですか。と少し呆れていると

「なんかもったいない」

『え?』

今更?もう片方開けちゃったのに?どういうこと?
とりあえず耳にピアッサーが挟まれたままなのでチラッと目線だけ紫さんの方にやるけどいまいち表情がみえない。
紫さんなら、話してる途中で開けかねない。

『紫さん?』

「だって、ちょっと身構えてるナマエちゃん可愛いんだもん」

『え?』

だもんって、いい年したおっさんでしょ。かわいいすぎかよっ!

「うー、あけたらこの時間終わっちゃうよ」

紫さんがいうなら、軟骨くらいなら全然差し出すけど
とりあえず今ははやく開けてほしい。

『あけないとお揃いできないです』

「はーい。じゃあいきます」

『はいっ』


パチンッ


『い、いけました?』

「うん、こっちもバッチリ」

『はぁー、ありがとうございました!』

想像していたより痛みがなくて、こんなことなら大学のときに開けとけばよかった。とも思ったけど
紫さんに開けてもらえて嬉しい気持ちのほうが勝った。

ニヤニヤするのが抑えきれなくて、口元が緩んだまま化粧ポーチに入れている手鏡で確認する。
ゴールドの小さめなボールがおさまった耳たぶに『おー』と思わず声が出た。

『うれしいです!』

「うん!よかった」

そういえば学生の時に、開けるときより開けたあとの消毒が面倒い。と聞いたことがあるので
今から暖かくなるから気をつけないとなーなんて思いながら

『消毒って、結構ちゃんとしないとですか?』

「んー、まぁ夏じゃないからある程度してたら大丈夫じゃない?とりあえずは1ヶ月くらいはしたほうがいいかな?」

『なるほど』

1ヶ月……ちょうど紫さんがアメリカに行っちゃうまでにはお揃いのに変えれたらいいな。
ぼーっと考えていたら、紫さんの腕が私の身体に回されてギュッと抱き締められた。

「ちゃんと消毒できる?」

『できますよ、紫さん私のことなんだと思ってます?一応医療人ですよ?』

「ナマエちゃん自分のことわりと適当にすませるでしょ」

『う……』

そこは図星だけれど、化膿してピアスホールができなかったら困るからそこはちゃんとしないと。とは思ってる。
てか紫さんにそんなふうにズボラってバレてたんだ。

「毎日できる?」

『がんばります』

顔を私の首筋に埋めながら揶揄うようにじゃなくて、どこか落ち着いた声でそう問われてよっぽどズボラだと思われてるのかと少し反省したけど

「俺がしようか?消毒」

『へ?』

ドクドクと心臓の音が急に聞こえた。

「毎日」

『それは……』

顔は埋めたままスルッと紫さんの指が私の指に絡まる。

「平日も、ここに帰っておいでよ」


ナマエちゃんに会いたい


聞いたことのないくらいの呟くようにそう言われて
寂しいのは紫さんもなんだって伝わってきて
少し視界が滲んだ。


『じゃあ、お願いします』

「うん。まかせて」


顔を上げた紫さんと目が合って、ゆっくりキスを交わした。











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