ペダル | ナノ
福富くんと始まりの部室

※ねつ造してます。
福富side




俺は強い。
この言葉を俺はよく言う。過信しているわけではない。自らの実力を理解したうえでのことだ。

高校1年の春、俺は箱根学園に入学した。自転車競技部が有名な高校で、自転車競技部になってレギュラーとなりインターハイで優勝をする。それが俺のすべきことだ。

しかし強豪だけあってか、1年がレギュラーになるのは難しいらしい。実力があっても、なれないのが現実だった。それでも俺は練習に明け暮れた。




そして、出会った。
俺を、俺達を支え、一緒に成長をした彼女と。

それは練習を終え、自主練習をしていた時。水道で汗を流していると、部室に明かりが灯っていた。


「(誰かまだ残っているのか?)」


先輩は帰った。同学年の新開や東堂ではないと思うが…一体誰が。電気を消し忘れたのだろうか。気になったもので、部室を見に行くことにした。

扉を開くと、小さな背中が机に向かって何かを書いている様子が目に写る。音に気が付いてか、その人物はこちらを振り向いた。


「っ!ふ、福富くん…?」


彼女は確かマネージャーの陰野日向だったか。この厳しい部活の中、よく働いてくれていると偉そうだがそう思う。しかし、彼女の瞳は赤く、少し潤んでいた。泣いていたのか?


「ど、どうしたの?何か忘れ物とか…」
「残って練習をしていたんだが、部室に明かりがついていたもので見に来た」
「わ、わざわざ見に来てくれたの?ごめんなさい…、日誌を書いてて、」


ちらりと陰野が書いていた日誌を見てみる。それに俺は驚いた。日誌にはびっしりと細かく文字が書いてあった。誰も見ない日誌なのに、こんなに何を…?
必死に隠そうとするもので、彼女の手から半ば無理矢理だがそれを奪う。


「あっ、あの、えっと…!」
「…これは」


焦っている様子で少し申し訳ないが、読ませてもらう。

一文字一文字、じっくり読む。何を書いているのかと思えば、俺達のことだ。自転車に乗っている時、どんな癖があり、どこを直すべきか、どんなメニューをすれば適切か、などが書かれていた。

驚くべきことは、彼女の洞察力と知識だ。書いてあることはどれも正しい。自分の欠点がよく分かる。すごい、彼女はすごい。


「あのっ、それは私が勝手に思ったことで…!何と言うか、生意気なこと色々書いちゃって…!」
「他には」
「えっ…」
「他にはないか?俺や他の皆のこと」


俺がそう言うと、彼女は控えめに鞄からノートを取りだし、俺に渡してくれた。それを素早く取ると、目を通していく。

すごい。全てが適切だ。恐らく自分でも気が付いていないことがある。しかも改善するために何をしたらいいかまで。


「すごいな…、全て適切だ。俺も気が付かなかった」
「あっ…良かった。私はこんなことくらいしか出来ないから…」


そう少し寂しそうに笑う。その顔があまりにも切なくて、胸の辺りがキュッとなった。何だ、これは。


「どうした。何故、寂しそうに笑う。良かったら、話を聞くぞ」


陰野は驚いたように目を見開いた後、ポツリポツリとゆっくり話をしてくれた。


「私は自転車が大好き。ペダルを回せば回すだけ、どんどん加速していくあの感覚が」


彼女の話に耳を傾ける。

快晴の下、汗を流し競い合うレースは何より体を熱くする。私も一緒に走りたい。この足でペダルを強く踏み、あの中に入りたい。でも私は女。勿論、男の子の中に入り、走れるわけはない。それでも自転車に関わっていたかった私はマネージャーとして一番近くで走る彼らを見ていられる場所を選んだ。箱根学園は強いね。強くて、速くて見ているだけでワクワクする。やっぱり自転車って楽しい。そう思ったの…、

一言一言、言葉を逃さないように聞いた。彼女は本当に自転車が好きなんだ。伝わる。彼女の強い意思が。

だが、なら何故泣いていたんだ?


「私、生まれつき体が弱くてね、長時間運動が出来ないの。長く続けると心臓がドキドキして、苦しくて、呼吸が出来なくなる」
「それは、知らなかった…」
「黙ってたから。今日、先輩達にも話してみたの」


でも、と彼女は目を伏せる。ジャージの裾を悔しそうに握っていた。


「箱根学園にはそんなお荷物はいらないって言われちゃった…。私は私なりに役に立とうと動いてたつもりだったんだけどなぁ、」


再びじわりと涙が溜まるのを俺は見た。何だかよく分からないが俺が悔しくなった。彼女の努力を知り、見たからこそ怒りが出てきたのかもしれない。


「ごめんね、こんな話。福富くん、練習の最中だったのに」


今まで俺は先輩と同じように彼女をただのマネージャーとして雑用として扱っていた。今となりとても後悔をした。何故、もっとちゃんと見てやれなかったのか、彼女の気持ちを知ってやれやかったのか。

陰野、今からでも遅くないだろうか。


「これからも、気付いたところを教えてはくれないだろうか…」
「…えっ?」
「お前は仲間だ。その洞察力、知識、実力共に俺は必要だ。これは俺からのお願いだ」


陰野は大きな瞳から大粒の涙を溢した。う、うむ…結局泣かせてしまったのか俺は。
だが、その泣き顔は悲しそうなものではなく、嬉しそうなものだった、と思う。


「ありがとう」


にこりと笑った顔を俺は一生忘れない。彼女には笑顔の方が何倍も似合う。


「欲張りだけど、その言葉が一番欲しかったのかも。それだけで私、嬉しい」
「本心だ。改めて、福富寿一だ。よろしく、日向」
「えっ、今名前…」
「…何だ、」
「ふふ、何でもない!」


あの時、自主練習をしていなくて、彼女を見つけられなかったら、今頃どうなっていたのだろう。今では俺達にとって欠かせない大きな存在となっている日向。彼女がいない部活なんて考えられない。




「日向ちゃん。今日の俺はどうであった!美形か?美形であったか?」
「ふふふ、うん。美形でとっても速かった」
「はっはっは!そうであろう!?うむ!では記念に1枚。巻ちゃんに送ろう。日向ちゃんの可愛さを自慢しよう!」
「オイ東堂、てめェ俺のタオル間違えて使って…っていねェし」
「ああ、東堂くんってばまた間違えちゃったの?良かったら私の使って荒北くん。2枚あるから。あっ、洗ってあるよ」
「ハ、ハァ!?日向チャン、何言ってンのか分かってるゥ?男にタオルとか貸しちゃダメだヨ」
「じゃあ俺が使うぜ。いいだろ?な、日向ちゃん」
「う、うん。勿論いいんだけど、」
「んー、日向ちゃんのいい匂いがする。あ、ヤバイなこれは」
「新開ィィィィィ!!!」
「えっ、あ、2人共落ち着いて!」
「…大変ですね、日向さん。あ、これは僕が持って行きますよ」
「ありがとう泉田くん。いつもご迷惑かけます…」
「迷惑なんてとんでもない。好きでやってますから」
「本当に優しいなぁ、」
「日向さん、俺はー?」
「ま、真波くん!こら、急に抱き締めないでって言ったでしょう?」
「ごめんなさーい!」
「勿論、真波くんもすごく優しいよ。本当に」
「やった!じゃあチュー…」
「真波ィィ!調子乗んなバァカ!!」


騒がしいが、楽しい。
考えたことなかった部活の様子だが、嫌いではない。


「福富くーん!」
「…!何だ?」
「これからみんなでどこか行こうって話してるんだけど、一緒に行かない?」
「…ああ、今行く」
「早く寿一。俺は腹が減って仕方がない」
「それはいっつもだろ!福ちゃんを焦らすな!」
「それでな巻ちゃん!ん?巻ちゃん?!き、切られた…」
「東堂さん、少し静かにしてもらえませんか」
「俺は日向さんの隣〜!」
「福富くん、早く早く!」



訂正しよう。

嫌いではない、大好きだ。

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