ペダル | ナノ
箱学3年と大事な子


本日、快晴なり。

眩しい青空の下、自転車競技部は今日も今日とて激しい練習を行っていた。アスファルトがじりじり焼け焦げるかのように熱いのを感じる。それでも練習を続けるのが王者である。



「次は登りです。熱い中ですが、ペースを下げずに走って下さい。スプリンターの皆さんは特に」
「では行くぞ。体調が優れなければすぐに休め、日向」
「ありがとう、福富くん」


主将福富の一声で部員達は登りに入った。練習メニューはこれで最後だ。長い道だが、頑張ってほしい。決して言わない頑張ってを心の片隅で思ってしまうことに少し罪悪感。

彼女は部員達が帰って来た時用にドリンクやタオルを用意し、余った時間で各々の癖や直すべき点をノートに書き込む。


そんな中、全く知らない声が彼女にかけられた。


「ねぇ、君は箱学の自転車競技部知ってる?」
「えっ?あ、はい。知ってますけど…」
「今どこにいるの?」
「練習中ですので、ここにはいません」


数名、男がいた。
自転車競技部について尋ねるものだから、恐らく彼らも同じ部なのだろう。
いないと伝えると、マジかよーと困ったように彼女を見る。彼女を見たって何も変わらない。彼女も困ったように笑った。


「君は自転車部の部員か何か?」
「えっと…私はマネージャーでして、」
「えぇ、マジ?可愛いね、名前何て言うの?」
「陰野です…」
「へぇ!ねぇ、マネージャーならレギュラーのこと知ってるよね?」
「えっ…そ、それは勿論知ってますけど…」


彼らはきっと偵察だ。
王者である箱学には偵察に来る学校がいることはよくあること。だが、ここまでグイグイと、しかもマネージャーである彼女に迫ることなどない。


「君さぁ、あれでしょ?めっちゃ信頼されてるマネ!」
「そうそう!東堂とか新開はまだしも、福富や荒北にまで好かれてるって」
「情報収集とか得意でノートに部員の弱点とか書いてあるんでしょ?」


彼女は彼らが言いたいことがよく分かった。まさかマネージャーについても調べてあるとは思いもよらなかった。勿論こちらも調べてはある。彼らについて。


「ノートちょっと見せてくれない?」


やはりか。
彼らの目的はこれなのだ。最初に部員達はどこだと聞いたが、それは違う。初めから彼女が目当てであった。女なら簡単だろうと言う理由だ。優しい彼女と言えど腹が立つ。


「…ノートが見たいんですか?えぇ、お好きになさって下さい」
「マジ!?じゃあ早速、」
「ただ見ても何も変わらないと思います」
「…は?」


この際だから言わせてもらおう。彼女はごくりと喉を鳴らした。


「いくら弱点を見たって、情報を集めたって、箱学に勝つことは出来ません」
「何だと…?」
「私達は王者です。見たいなら見れば良い。そんなこと何にもなりません」
「こいつ…!女だからって調子乗りやがって!!」
「確かに1人1人強いがな!それぞれの役目が終わったらいくら王者でもお荷物なんだよ!!」


彼女は感じたことないくらいの怒りを感じた。箱学を、自分達を馬鹿にされたみたいで、すごく悔しかった。


「箱学にお荷物なんていません。全員がエースなんです」
「強がってんじゃねぇよ!」
「どこよりも練習しています。王者と呼ばれるのは練習あってこそ。こうやって偵察する時間があるなら練習します。貴方達と違って」
「っ、てめぇ」


迫ってくる彼らに彼女は後退りをする。炎天下の中、彼女の体は徐々に辛くなってきている。水分を摂る隙も与えてはくれず、彼女はくらりと眩んだ。

逃げてしまおうか、とも考えたがそのような体力などない。しかも腕を掴まれてしまった。


「は、なして…」
「マネージャーが偉そうに言うなよ!」
「ああ!箱学の部員はエースだけど、お前がお荷物ってわけ?」
「っ」
「マネージャーが仲間に入れたとか思ってんの?マネージャーなんか雑用だけの便利な道具なんだよ」
「止めて…っは、」
「お前は便利な道具としか思われてないの!!分かる?」
「く、るし…」
「はぁ?苦しい?何言ってんの?」
「助け、て」
「助けに来るわけねぇだろ!!邪魔なマネージャーごときのために!!!」



苦しい、助けて。

彼女が助けを求め、彼らが来ないはずなどない。



「何をしている」
「こ、こいつ福富…!?」
「日向ちゃん!?大丈夫か?これを飲むといい」
「うん。ゆっくり息吸って、吐いて」
「レギュラー揃ってやがる…!?」
「てめェら何なのォ?早く散らねェと喰っちまうぞ」
「くそっ…!行くぞ!」



「何だ?あやつらは」
「俺も知らねェヨ」
「日向、平気か?」
「ご、ごめんなさい…、迷惑かけて、」
「何を言うのだ!!」
「おめさんが迷惑なんて思うわけねぇだろ」
「…うん、ありがとう」
「日向」
「ん、何?福富くん」
「お前をお荷物だと思ったことは一度もない」
「雑用だともなァ」
「うむ!日向ちゃんは大切な存在なのだ!」
「大事な大事なマネージャーだからな。好きだよ日向ちゃん」
「新開!!どさくさに紛れてナァニ言ってンのォ!?」


じわり、涙浮かぶ。


「ななな…!?どうしたのだ!?どこか痛いのか!?」
「な、泣いてンじゃねーヨ!!?」
「その顔も可愛いぜ」
「バキュンじゃねェ!!!」
「ふふふ、ごめんなさい。嬉しくて…」
「日向、俺達とお前は同じ時間を歩んで来た。お前の力があったから、ここまで来ることが出来た」
「福富くん…」
「これからもよろしく頼む」
「…勿論、よろしくね」




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