ペダル | ナノ
小野田坂道くん

「よし、全部買った」


箱学自転車競技部マネージャーの彼女は箱根から離れたところに買い出しに来ていた。近くの店がただ今改装中ということで、遠くまでやって来たらしい。部員の皆には随分止められたが何とか頼んでやっと思いで外に出ることが出来たのだ。何とも過保護と言うか…。


「早く帰らなきゃ、!」


店を出た時、タイミング良くドンッと何かとぶつかり買い物袋が手から離れ、地面に落ちてしまう。そのため中の物がバラバラ溢れる。



「はわわわ!!すすすすみません!!大丈夫ですか!?怪我とかしてませんか!?」
「だ、大丈夫です。こちらこそごめんなさい…、お怪我はありませんか?」
「い、いや!僕は全然大丈夫です!本当にごめんなさい!」
「そ、そんな!私の不注意でもありますし、謝らないで下さい…!」
「うぅ、すみません」
「いえ…、あっ!」
「ど、どうしました?」
「こ、これ貴方のですよね…!?」
「は、はい。僕のガチャポンです…あ…、」
「すみません!!私がぶつかったせいで壊してしまいました…」
「えっ!い、いいんです!元々は僕がぶつかってしまったんですから!」
「い、いえ!そういうわけにはいきません…」
「ほ、本当に大丈夫ですよ…?」
「弁償します!!」
「えっ」



「私、箱根学園3年の日向陰野です」
「ぼ、僕は総北高校1年の小野田坂道です…!あのっ!僕の方が年下なので敬語じゃなくても、あの、大丈夫です!」
「あっ、じゃあそうしようかな。小野田くん、総北なんだねぇ」
「は、はい!!」
「しかも坂道かぁ…!良い名前だね。自転車やってるの君にはピッタリだ」
「えっ…!僕、自転車やってるって言いましたっけ…?」
「その自転車、ロード用じゃない。サドルも適正な高さだし。それに手や足を見れば分かるよ。私、一応自転車競技部のマネージャーなんだぁ」
「そうなんですか!?す、すごいですね!」
「そんなことないよ。それより小野田くんの自転車格好いいね!」
「かっ…!?あっ、えっと!こここれは借りた物でして…!!」
「でも、とてもよく手入れされてる」
「そ、そんな…」
「自転車、好き?」
「えっ…?」
「楽しい?」
「は、はい。楽しいです。大好きです」
「そっかぁ。羨ましいな」
「羨ましい、ですか?」
「あっ…私ね、体が弱くて長く運動出来ないの。みんなと一緒にレースに出たい。あの中でも一緒に走りたいって思うけど、無理だから…」
「あっ…、」
「ふふ、ごめんね。初対面なのにこんな話」
「い、いえ…!僕も何も言えなくて…」
「小野田くんを困らせるつもりはなかったのに、困らせちゃった…」
「あ、あの!!」
「ん?」
「僕っ!何も言えませんし、何も出来ませんけど、陰野さんのかわりにたくさん漕ぐことは出来ます!」
「小野田くん、」
「たくさんたくさん回して、たくさんたくさん登ります!!だから見ていて下さい!!」
「!」
「あっ、えっと!敵同士で可笑しな話ですけどっ…えっとえっと…」
「小野田くん」
「ひゃ、ひゃい!!」
「見せてね、君の走り」
「えっ…」
「楽しみにしてる」
「!!はい!!」
「じゃあ行こっか」
「はい!!」
「ふふ、(クライマー、だったんだ)」



「小野田くん、アニメ好きなんだね」
「あっ、はい…!」
「そっかぁ。これ、私も好きなんだ」
「!アニメ好きなんですか!!?」
「うん、好きだよ」
「ほほほほ本当ですかー!?う、嬉しいです!アニメ好きな方に今まで出会えなくて…!」
「そうなの?じゃあ私が第一号貰っちゃおうかな」
「ふぇ!?」
「あ、ダメ?」
「そんなまさか!嬉しいです!!!」
「ふふ、みんなには内緒ね」
「は、はい!!内緒です!」
「とりあえず回すね」
「何かすみません…弁償なんて」
「いいのいいの。私が悪いんだし。じゃあ回します!」
「はい!!」


ガチャ


「あれ、これ金色だ」
「えぇぇぇぇ!!?そ、それはレア物ですよ!!」
「さっきのじゃないけどいいかな?」
「逆にいいんですか!?」
「勿論。小野田くんのためにやったんだもん」
「(な、何ていい人…!)」
「はい、どうぞ」
「ああありがとうございます!!」
「いいえ」
「…あっ、こんな時間だ!すみません!!僕、今日練習があるのでそろそろ…」
「あっ、私もそろそろ帰らないと。今日は本当にごめんね。あとありがとう」
「こ、こちらこそ!」
「またお話しようね」
「是非!!!」
「自転車も、見せてね」
「はい!!」
「うん。じゃあまた」



「陰野さん…素敵な人だったなぁ…」
「小野田くん、可愛い子だったなぁ」



その頃の箱学

「遅い!遅いぞ日向ちゃん!?一体どこにいるのだ!!」
「俺、迎えに行ってくる」
「うっせェなァ!!心配しすぎだっての!」
「荒北こそ先ほどからチョロチョロ探し回っていたではないか!!」
「なっ…!何でてめェが知ったんだヨ!」
「俺、迎えに行ってくる」
「お前はそれしか言えねェのかヨ新開!!」
「だが本当に心配だ。あああ、変な男に絡まれてはいないだろうか…」
「止めろォ!マジで心配になるからそういうこと言うンじゃねェ!」
「いやでも靖友、日向ちゃんの可愛さならありえそうだ…」
「ちっ、しょうがねェなァ」
「よし、行こう」
「む?そう言えばフクはどうした?」
「福ちゃんならさっき出ていったけど…」
「先越されたな」

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