箱学3年とプール練習
日傘を指して、ストップウォッチを片手に彼女はジリジリと焼けるような暑さのプールサイドに立つ。
パシャリパシャリ、音が聞こえるここはプール。自転車競技部は筋肉強化のため水泳部の許可を頂き、プールで練習をしていた。
「あと三本!ペース上げて下さい!」
練習が終わり、部員達は疲れたと水の中から上がっていく。
「…暑い」
足を水に入れると冷たい温度に少し驚くが気持ちの良いものであった。
パシャリパシャリ。
「暑いなら、一緒に入る?」
「新開くん。私、制服だよ?」
「ああ、尚更大歓迎だ」
「?」
「何の話をしているのだ?」
「と、東堂くん…だよね?」
「いかにも!!というかどうしたんだね、急に」
「髪下ろしてるから雰囲気違うなぁって思って。うん、やっぱり格好いいねぇ」
「そ、そ、そうか!?はっはっはっ!やはりそうか!」
「東堂うるせェ。つか何の話してんのォ?」
「お、俺もそれを聞きに来たのであった!」
「日向ちゃんとプール入りたいって話」
「おお!それはいいな!」
「ハァ?でも日向チャン制服だし今入ったら…っ!新開、てめェ…」
「あれ?靖友分かっちゃった?」
「最低だなァ」
「ぬ?何の話かさっぱりだ」
「うーん…私もよく分からないなぁ」
「お前達、上がらないのか」
「あ、福富くん」
「日向、暑い中ご苦労。身体は平気か?」
「ありがとう、平気だよ。他の皆は上がったみたいだね。福富くんはまだ入ってるの?」
「ああ。気持ち良くてな」
「いいなぁ…気持ち良さそうだもん」
「じゃあ入っちゃおうよ」
「新開てめェは下心丸見え」
「そう言えば私、水着持ってないんだよね」
「なら俺が見立ててやろう!どうだ、今度買いに行かんかね」
「本当?嬉しいな」
そんな時ビュウッと強い風が吹き出した。日傘が風に煽られ飛んでいく。彼女はそれを捕まえようと手を伸ばした。
「きゃっ…!」
「日向チャン!?」
バシャーン
「ぷはっ…!えっ、足が、届かないっ、ん…!」
「捕まえた」
「!新開くん!」
「さ、俺にしっかり捕まって」
「う、うん」
まるで子犬でも抱えるかのように彼女は新開にぎゅっと抱かれる。
「(胸当たってるなぁ…うん、ヤバい。あと…)」
「俺も支えるぞ!日向ちゃん!」
「あ、ありがとう東堂くん」
「よーし!任せておけ…!!?」
「どうしたの?」
「おおおお俺は見ていないぞ!断じてピンク色の下着など見ていない!!」
「えっ…!?きゃ!!」
確かに彼女の胸元にはうっすらピンク色の下着が透けて見えていた。彼女は顔を真っ赤にし、隠れるように新開を更に強く抱き締める。
「言うなよ尽八。(ヤバい柔らかい)」
「お前は黙れよォ!!」
「…ジャージを取ってこよう」
「お、寿一宜しくな」
「宜しくじゃねェよ!てめェも行け!福ちゃんに行かせてンじゃねェぞォ!!」
「でもこんな魅力的な日向ちゃん離したくないなぁ」
「し、新開くんっ!」
「ドコ触ってンだボケナス!!早く行け!」
「分かった分かった。じゃあ靖友と固まってる尽八、日向ちゃん宜しく」
ポイッと彼女を渡す。
「なっ…!?っと…」
何とか受け止めるが透けている下着に目のやり場を失う。
「ああ荒北くん!足つかないの!離さないでお願い!」
「っ!!?バァカ!首に手回すな!!色々当たってんだヨ!!」
力を緩めると彼女はぎゅうっと荒北にしがみつく。おかげで胸は勿論、太股などの感触も鮮明に伝わり、荒北は顔を赤くし、暴言を吐きまくっていた。
「(死ぬ…!!この状況続いたら理性とか色々やべェ!!!)」
「ハッ!東堂尽八復活だ!さぁ、日向ちゃんこちらへ!」
東堂、いきなりの復活。
「?!てめェ日向チャン返せ!」
「(お姫様抱っこされてる…!)」
「嫌だね!隼人達が帰ってくるまで俺が預かろう。お前に預けていたら喰われてしまう」
「喰わねェよ!!」
「このような魅力的で男を誘惑する格好されたら誰だって食すに決まっておる!」
「てめェが一番危ねェよ!」
「なにぃ!!?」
ぎゃーぎゃー!!!
この話し合いは福富と新開が帰ってくるまで続いた。
「ジャージを着るといい」
「ありがとう…」
「ぶかぶかな感じエロいな」
「いい加減にしろてめェは」
「寒くはないか?大丈夫か?」
「大丈夫。久しぶりにプール入れて楽しかったし」
「日向はプールが好きか?」
「うん。長くは泳げないけど、」
「なら今度部活が休みの時に皆で行くか!!日向ちゃんの水着を買いにも行こう!!」
「ヒュウ!いいなそれ」
「わあ!楽しそう!」
「フク!良いだろう!」
「うむ、たまには良いか」
「靖友は?」
「ハ、ハァ?」
「荒北も行くだろう?」
「べ、別にィ」
「荒北くんも行こうよ!ね?ダメ?」
「っ、たく。しょーがねェなァ!行ってやってもいいけどォ?」
「ふふ、ありがとう」
「では決まりだな!!」
水着を買って、プールで遊ぼう。
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