ペダル | ナノ
今泉くんと壁ドン



キツイ練習を終え、軽くシャワーを浴びた一同は食堂に集まって夕食を食べていた。シャワーを浴びたせいか、ほわほわ湯気がたっていて、いい匂いもした。密集しているせいか、何となく暑苦しい。だが、女の子の彼女がいるだけで、その場の雰囲気が違うものだ。

総北はマネージャーがいないもので、食堂の方からの食事が用意されている。一方の箱学はマネージャーの彼女がいるもので食事は彼女担当となっている。彼女の手作りだ。


「あ、新開くん。野菜も食べなきゃダメだよ」
「うーん。日向ちゃんが食べさせてくれるなら食べようかな。あーんしてくれ」
「は、隼人!野菜くらい食べられなくてどうする!日向ちゃん、どれも美味しいぞ!嫁に欲しい!だから是非っ、!」
「黙れヨ!日向チャン、気にせず作業していいから。…飯、上手いヨ」
「?うん、ありがとう。荒北くん。東堂くんも」
「日向さん料理お上手なんですね。流石です」
「ありがとう、泉田くん。でも言い過ぎだよ〜!」
「アップルパイの匂い…」
「福富くん好きだからデザートに用意したんだぁ」
「ありがとう、日向」
「ふふ、いえいえ。あっ!真波くん食べながら寝ちゃダメだから!」
「う〜、むにゃ…」
「真波てめェ抱きつくンじゃねーヨ!!」
「日向ちゃん、あーんして」
「隼人しつこいぞ!そんなにしてほしいなら俺がしてやろうではないか!!」


騒がしい。非常に騒がしい。箱根学園のテーブルは練習中の彼らとは随分と違い子供っぽくて煩いくらいだ。王者と呼ばれても高校生。総北の1年生はポカンとしていた。




夕食を終え、今泉は廊下を歩いていた。小野田と鳴子は随分と彼女になついているみたいだが、自分はどうだろうか。
彼女から自転車についてアドバイスを貰いたいと思っているのは事実。大きな瞳で、その桜色の唇で、自分のことを伝えてもらいたい。でも、ライバル校と言うこともあってなのか、気に入らない。

イライラし、頭を掻きむしる。すると先の方から彼女が歩いてくるのが見えた。お風呂に入ったのかほんのり濡れていた。


「こんばんは、今泉くん」


今泉を見つけると、軽く頭を下げて、その場を通り過ぎようとする。その細い腕をガシリと掴んだ。彼女はえっと驚いたように振り向く。


「ど、どうしたの…?」
「…俺の」
「えっ…?」


次の瞬間、背中に鈍い痛みが彼女に走った。壁に迫られ、両腕で挟まれた彼女には逃げ場がなくなっていた。ギリッと睨まれ彼女は言葉を詰まらせる。


「俺の弱点はどこだ。今日、俺の走りを見て、どこが悪かった」


放たれるプレッシャーに彼女は声が出ない。彼が何を思って、こんなことするのか分からなかった。何故こんなに嫌悪感を出されていて、何故こんなに焦っているのか。


「マネージャーのくせに何でそんなこと分かるんだよ!自転車に乗ってない奴に何で…!」


じわり、彼女の目に涙が浮かんだ。両腕に挟まれている彼女の顔は心底傷付いた顔だった。過去の自分を煙たがっていた先輩の言葉と今泉の言葉が重なる。自転車が大好きなのに必要とされない怖さを思い出す。


苦しい







「ナァニしてんのォ?」
「あ、荒北くん…」


荒北がそこにいた。
小さな黒目をギロリと光らせ、くあっと大きな口を開ける。初めは彼女が見えていなかったみたいで、怠そうに立っていたが、彼女の姿を見ると、たちまち形相を変えた。壁に迫られている彼女を奪うと、強く今泉を睨んだ。俺達のマネージャーに手を出すなと。


「総北の1年がウチの日向チャンに何か用?」


その声色はふつふつ怒りが沸き出るようなものだった。彼女の肩を抱き、隠すように抱き締める。


「あんまちょっかいかけてンじゃねーぞ。1年坊主がなめた口聞いて、」
「ち、違うの荒北くん!私が…そのっ…話しかけちゃって…!」


今にも荒北は手を出しそうだった。彼がそんなことしないと分かっているが、相手は1年生だ。何とか穏便にと彼女は荒北の前に立ち、ぎゅっと手を握る。荒北は何か言いたげだったが、彼女が瞳を不安そうに揺らすもので、ぐっと抑えた。


「チッ…、行くぞ」


握られている手を引っ張り、荒北は体を反転させ、部屋へと戻る道を歩む。彼女は早足で荒北が歩くもので、ヨタヨタとよろつく足で着いていった。

彼女はくるりと後ろを振り向き、残されていた今泉の方を見た。困ったように、ニコリと笑うと、今泉は驚いたようにハッと目を開き、やがて後悔したかのように悲しい顔をした。








(1人で合宿場チョロチョロすんなよバァカ!!俺があそこ通ってなかったらどうするつもりだったンだヨ!?)
(ご、ごめんね。だけど今泉くん悪い子じゃないよ。総北の1年生はみんないい子だもん)
(あのねェ、日向チャンは自転車以外だと危機感がまるでない!もっと周りを…!)
(でも荒北くんが来てくれた)
(っ!あー、そういうとこズルいよネ…)


相手迷ったけど、エースアシストとして荒北さんにしました。

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