ペダル | ナノ
箱学3年と合コン


「「カンパーイ!!」」


カランとグラスの当たる音が聞こえる。それに伴って男女の明るい声がカラカラ響く。きらびやかなその雰囲気に嫌でも何をしているか悟る。ズズッとストローを啜り、彼女はその場に合わない沈んだ顔をしていた。

今、行われているのはまさしく合コン。彼女は来る気などさらさらなかったのだが、友人にどうしても人数が足りないのと頼み込まれ、部活が休みの日だったこともあり、仕方なく参加することに。相手は大学生4人と高校生4人。先輩、後輩と言う付き合いの中、彼女が誘われた。男の先輩には元自転車部がいて、少し気まずい。

彼女は友人に服、化粧などしてもらい、とても可愛らしく仕上がっている。だが、この場はどうも場違い。


「(早くお開きにならないかなぁ…)」
「ねえ、君可愛いね。高校生?」
「えっ…、はい」
「可愛いなぁ。箱学にこんな後輩いたんだね」
「(…嘘。自転車部の先輩の癖に)」


話しかけてきた男は元自転車部の人間で、彼女を煙たがってた者だ。自分を過信するあまり、レギュラーになる努力をしなかった。嫌でも覚えているというのに何故相手が覚えていないんだ。少しムッとした。
それなのにベタベタ触ってきて、ああ、もう帰りたい。泣きそうにもなった。自転車部のみんなに会いたい。

そう思った矢先、部屋のドアが開く。キャアと女の黄色の悲鳴が耳に届く。何だと思い、彼女はそちらを向いた。向いて、驚く。驚きのあまり、思わず下を向いたしまった。


だって、箱学の会いたいと思っていた彼らがいたから。


「先輩、遅くなりました」
「ンな謝んなくていいヨ、福ちゃん」
「いやぁ、色々忙しいくてすみません」
「待たせたな!美形クライマー東堂が来たぞ!わはは!」


箱根学園3年自転車競技部が勢揃いだ。私服な分、一段と華やかに見える。そんな彼らはバッチリ彼女を目に入れた。下を向いたまま、彼女はちらりと彼らを視線に入れる。そして、彼らは隣の男をさらりと退かした。


「ヒュウ!可愛いね、彼女」
「えっ、新開く、」
「うむ!だが、この場所にいてはならんよ」
「東堂くっ、」


あっという間に挟まれてしまう彼女が名前を言おうとしても、何故か阻まれる。シーっと口に人差し指を立てるもので、それ以上は何も言えない。黙っていた方が色々と面倒ではないと考えたんだろう。


「…連絡つかないと思ったら、こんな可愛い格好して他の男といたの?妬けるねぇ」
「わ、私…知らなくて、」
「分かっているとも。日向ちゃんが好んで来たわけではないことを」
「ごめんなさい…、」
「怒ってないよ。ただ心配してね。この合コンに自転車部の人が何人もいるって聞いたからもしかしてって思って」
「来て正解だったな」


小声でひそひそ新開と東堂は耳打ちをする。彼女に連絡がつかないと心配になった彼らは自転車部の先輩に誘われたこの合コンにもしかしたらと思い、やって来た。


「東堂くーん!新開くーん!こっち来て!」
「いやぁ、参ったな…」
「荒北!フク!任せたぞ!」


やはりと言うか何と言うか、新開と東堂は女の子にモテる。そんなわけで、2人は何人もの女子に連れてかれ、彼女から離されてしまっ。

空席になるはずの席には任された荒北と福富がドスッと腰を落とした。福富も彼女と同じようにこの場に慣れていないため、特に何も声を発しない。だが、流石と言うべきか、臆することなく構えている。一方の荒北はチッと盛大に舌打ちをする。イライラしているのか、不機嫌気味だ。荒北は合コンが嫌いであった。


「クソつまんねー。日向チャンも帰っちゃえば良かったンじゃナァイ?」
「でも…、私が帰っちゃったら、友達が悪く言われちゃうかもしれないし、雰囲気壊しちゃうから、」
「…バァカ。ンなこと思わねーヨ。日向チャンに限って」
「ありがとう。帰る勇気がなかったこともあるけど、みんなが来てくれて良かったぁ…」
「俺達が来てなかったら、あの男に何されてたか。あいつ自転車部の奴だろォ?」
「あっ…、うん」


ピシリと指を指す方向には先ほど彼女に絡んでいた元自転車部の男。福富も荒北の指を辿り、男を目に映す。こちらを見たいたのか、目が合った。すぐ逸らされてしまったが、確実に福富と荒北を見ていた。彼女に気が付いたかは分からない。


「私のこと、覚えてないみたいで…、」
「アァ?だからあんなに絡んでやがったのかヨ。散々、俺と日向チャン煙たがってたくせしてヨ」
「荒北だけではない。俺や新開、東堂も嫌っていた」
「ハッ!ウッゼ!オイ、新開、東堂!さっさと帰るぞォ!」


荒北は彼女の腕をぐんと引いたかと思えば、立ち上がり2人の名前をデカイ声で呼ぶ。新開と東堂はその声にニヤリと笑い、女子達からやんわり離れると、彼女を囲むよう近付く。


「オ、オイ!お前らどこ行くんだよ!」


元自転車部の男が慌てたように4人を止めに入るが、そんなものお構い無しだ。彼女だけでもと触れようとする手からスルリ彼女をかわさせる。


「汚ねェ手で触らないでもらえますゥ?センパァイ」
「俺達はこの辺で失礼します。あ、可愛い彼女は貰ってきますね」
「悪いな女子達よ!もしまた俺に会いたいならば、レースを見に来るがいい!」
「では、失礼します」


待てよ、と言いかけたと同時に外へと出るドアの音が響いた。まるで、王子が姫を拐っていくかのように一瞬の出来事だったと思う。女子達はキャーと盛り上がっていたが、男は悔しそうにギリと唇を噛んでいた。






「あのなァ!誘われても嫌なら断れ!行きたくねェのに行くこたァねーンだヨ!」
「ご、ごめんなさい…!」
「荒北言い過ぎだぞ!日向ちゃんが悪いわけではないのだよ!」
「まあ、日向ちゃん見付かったから解決ってことで」
「解決じゃねーヨ!」
「明日の練習メニューとか考えようとしてたのに、私…、ごめんなさい。断れなくて、」
「良いのだ良いのだ!何も気にすることはない!これから気を付ければ良い!」
「日向ちゃんが無事ならそれで良いんだよ。ちょっと大袈裟だけど、それくらい大切だからね」
「練習メニューは俺も一緒に考える。日向にはいつも1人で任せてしまっていたからな」
「…言い過ぎて悪かったヨ。でもなァ!これからはちゃんと断れ!俺達に言え!」



涙が出た。嬉しいハズなのに可笑しいなと彼女は笑って頷いた。



ああ、私も彼らが大好き。

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