ペダル | ナノ
箱根学園と合宿



合宿場所は大きく設備も万全だ。どれだけペダルを回しても、どんなに練習しても申し分ない広さであった。毎年、レギュラーが参加するこの合宿、彼女は先輩達に疎まれてしたため、初めての参加だった。


「(合宿に、私が…、)」


マネージャー自体を馬鹿にされ、苦痛や悲しみを味わった彼女の1年、2年時代。自分が選手と同じジャージを着て、こんな重大な合宿に参加出来るなんてあの頃は思っていなかっただろう。合宿は学校のある平日に行われるため、マネージャーが参加するなどありえなかった。だが、主将福富率いる現・箱学自転車競技部の皆はマネージャーの彼女が参加するのがこの合宿において絶対条件だと申し立てたと言う。


「日向。ボーッとしてどうした。体調が悪いか?」
「ううん。あのね、福富くん。私…、嬉しいの。合宿に参加出来て」
「お前が参加するのは当然だ。お前も同じ仲間であり、皆にとって必要な存在だからだ」
「…そんな風に言ってもらえる日が来るなんて思ってもなかった。去年までは考えられなかったよ」
「すまない。色々、辛い想いをさせてしまって、」
「あっ、違うの!責めてるとかそんなんじゃないの!」
「しかし、」
「本当に違うの!福富くん達が私のことを助けてくれたりしたから私は今ここにいるんだよ。いっぱい助けられたの」
「日向、」
「だから、合宿に参加出来て良かった。ありがとう」
「…礼などいらん。当然だと言っただろう」


実際、福富達には色々なことで助けられていた。彼女を悪く言う先輩に抗議をしたり、悲しくても耐える彼女を幾度なく励ましたりしていた。福富は彼女の頭をくしゃりと撫で、彼女はニコニコと笑う。


「フク、日向ちゃん!そろそろ行くぞ!」
「ンな昔のこと思い出してンじゃねーぞォ!!オラ、早く行くぞ!」
「おっと、日向ちゃんの荷物は俺が持つからね」
「あのっ!もっと自信を持っていいと思います!」
「俺は去年のこととか分からないですけど、日向さん大好きですよ〜」
「…だそうだ」
「ふふ、ありがとう」


箱根学園自転車競技部のレギュラージャージを羽織り、一歩を踏み出した。横に並ぶ仲間を見て、自分が同じ位置にいられる幸せをグッと噛み締めた。



「つか暑ィ…、日向チャン大丈夫?こっから距離結構あるケド」
「あっ…、うん。大丈夫だよ。ありがとう。新開くんも荷物持ってもらってごめんね…」
「ん?気にしないで。俺が好きでやってるわけだし、おめさんには無理させたくない」
「日向ちゃん!日傘だぞ!美しい肌が赤くなっては大変だからな!俺が持っていよう!」
「あわわ…、ありがとう。泉田くんも色々持たせちゃってごめんね、」
「いえ、力仕事は得意ですし、何より日向さんの体調が大切です」
「何か、悪いなぁ…」
「じゃあじゃあ、俺は日向さんと手を繋ぎますね」
「じゃあってオイ真波ィ!お前も何か持てェ!!」
「そうだぞ!荷物の1つでも持ったらどうだ!」
「わ〜!先輩2人が俺のこといじめる〜!」
「てめェ…!」
「日向ちゃん。あいつらは放っておいて俺の隣に来なよ」
「させんぞ隼人!!」
「お前達、そろそろ到着するぞ」
「福富くん。部屋に荷物を置いて、着替えてまた集合で良かったっけ?」
「ああ」
「おっ、見えてきた」
「総北はもういるのか!?」
「楽しみですね〜」





そろそろ到着。
総北に会える30分前。

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