ペダル | ナノ
合宿とは突如行われるものである



○月△日、曇りのち晴れ

合宿1日目(レギュラー陣のみ)


それだけ書き上げると、パタンと日誌を閉じた。ジリジリの太陽の中、バスの手前で彼女は心配そうに遠くを見つめる。


「真波くん、まだかな…」
「まァた遅刻かヨ」
「合宿は遅刻するなとあれほど言ったのだがな」
「残る2年生が見に行ってくれるみたいですが」
「黒田と葦木場も来れたら良かったのにな」
「…こればかりは決まりだからな。俺の力不足でもある」
「福富くんのせいじゃないよ!レギュラーだけの合宿も必要なことだし、」
「2人にはせめてもの償いとして良いもの(日向ちゃんの写真)を渡そう」
「隼人、俺も協力する。だから俺にもくれ」
「お前らなァ…!」
「あ、真波くん!」


ギャイギャイと話をしているところ、真波を連れて、黒田と葦木場がこちらへと向かっていた。


「すみませ〜ん。ちょっと坂を登ってたら遅れちゃいましたー!」
「ナァニがちょっとだボケナス!!日向チャン心配して外で待ってたンだぞ!」
「黒田くん、葦木場くん。わざわざありがとう。朝早くからごめんね」
「い、いえ。ちょうど起きてましたし、暇だったので」
「えっ?ユキちゃん日向さんからの電話で起きたって言ってたじゃん」
「ばっ…!それは言うなって言っただろ!?」
「ふふ、ありがとう。合宿の間、他の部員をよろしくね。このノートに練習メニューをまとめておいたから」
「ありがとうございます!」
「あ、待って。2人のメニューはこっち」
「俺とユキちゃんのメニュー?」
「そう。2人はもっともっと強くなれる。合宿の間、レギュラーのみんなを抜かす勢いでやってね!」
「日向行くぞ。黒田、葦木場、後は任せた」
「はい!」
「ありがとうございます!」


レギュラー陣はバスへと乗り込んだ。バスは2人に見送りながら、発車をするのだ。




「わっはっは!やっと俺の時代が来たのだ!」
「るっせ!時代って日向チャンと隣になっただけだろ!」
「わはは!羨ましいと顔に書いてあるぞ荒北!隣になりたかったのであろう!」
「黙れェ!!」
「日向ちゃん、今の内に俺の隣においで」
「新開さんズルーい!俺の隣に来てくださいよ〜」
「ちょっと皆さん、バス揺れてますよ!」
「お前達、落ち着け」


バスの席はくじ引きとなったのだが、何と東堂が彼女の隣を見事当ててしまった。それを東堂が自慢しまくるもので、皆も五月蝿くなる。

福富の一言で何とか落ち着き、彼女は東堂の隣に腰を落とした。


「隣よろしくね。東堂くん」
「よろしく日向ちゃん!この東堂尽八と楽しい時間を過ごそうではないか!」
「ふふ、そうだね」
「時に日向ちゃん。今日の合宿は総北もいると聞いたのだが本当かね?」
「そうなの!日が被るなんて初めてだよね。びっくりしちゃったぁ」
「おお!と言うことは巻ちゃんもいるわけだな!会うのが楽しみだ!」
「私も総北の皆さんに会うの久しぶりだからすごく楽しみ」
「…!う、うむ…、少し複雑な気持ちになってきた…」
「複雑な?」
「巻ちゃんに会いたいが、日向ちゃんには会ってほしいような会ってほしくないような…、」
「んん?」
「よく分からなくなってきてしまった!」
「なら違うお話しよっか」
「それがいい!」


東堂の声がでかいので他の面々にも会話が筒抜けだったらしく皆は東堂アホだなと思ったのである。それぞれ席に座っているが、やはり彼女との会話が気になるらしく、耳をちょいと傾ける。東堂が8割ほど話しているので、彼女の声は明るい笑い声しか聞こえなかった。

楽しげに話していた2人だが、しばらくすると、ふわぁと彼女が欠伸をするのが聞こえる。


「眠いのかね?」
「えっ、や、やだ…、ごめんね。話の途中に欠伸なんてしちゃって…」
「いや構わないぞ!朝一番早かったのは日向ちゃんだ。無理せず寝るといい!」
「えっ…、でも、」
「いいのだよ!着く頃に起こすぞ!」
「あっ…、じゃあ、お言葉に甘えて…」


虚ろ虚ろな瞳をしていた彼女はどうやら眠いらしい。無理もない。部員の誰よりも早く起きて、合宿のための準備をしたりしていてくれた。彼女は東堂の優しい言葉に甘えることにした。合宿中に倒れたりでもしたら意味がない。

ほんの数分後、彼女からはすやすや寝息をたて眠ってしまった。その寝顔を東堂は無意識に携帯に納める。新開と真波から後でくれと言われていた。


「天使の寝顔だな」
「可愛いなぁ。ほっぺたにキスしたい。今すぐ尽八の場所に行きたい」
「てめーはそういうことしか言えねェのかヨ」
「日向さんの寝顔、あどけなくて良いですね〜」


静かなのは福富と泉田だけなのか。その他は彼女の寝顔を見るため騒がしかったり、席を立ち上がろうとしたりと大変であった。


「!?」


静かになりかけた時、東堂がカチンと硬直してしまう。肩に重みがかかったので、恐る恐るそちらを向く。

肩に彼女が寄りかかる。自分の首元には彼女の髪の毛、柔らかい頬。シャンプーのいい匂いに己の欲がくすぐられた。時折、吹きかかる息や色っぽい声にに奮えた。ドキドキ。


「(ぬわああああ!この状況どうしたらいいのだ!?幸せだが近すぎやしないか!?幸せ過ぎて死ぬのではないか!?)」


勿論、東堂には刺激が強すぎた。新開や真波とかならまだしも(この2人は危険か)、東堂は案外ヘタレなのだ、荒北と同じで。こんな近い距離で彼女の柔らかい体を押し付けられて、どうすることも出来ない。真っ赤になり、固まるしかない。


「尽八いいな…、」
「あのアホ、デレデレしやがってヨ」
「でも羨ましいです」
「日向、疲れているのだな。寝かせてやろう」
「福富さん、観点が皆さんと違いますね」


ちなみに東堂と彼女はと言うと合宿の場所に到着するまで、ずっとこの体制だったらしい。


合宿スタートです。




(…日向ちゃん。もう着いたぞ)
(ん、あ…、ごめんね。私寄りかかってたみたい)
(か、構わないぞ!!)
(東堂くん、とってもいい匂いがしてつい…、)
((日向ちゃんの方がいい匂いだとは言えない!))

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