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箱根学園と球技大会3




やはりと言うか流石と言うか、自転車部3年は順調に勝ち進んでいた。荒北や福富はバスケが上手く、新開もなかなかサッカーが出来ていた。東堂は下手くそではあったが、いざという時に決めてしまう人であった。

彼女は一旦彼らと別れ、ふらりふらりと誰かを探していた。


「あっ!」


見つけた途端にそちらへと駆け寄る。少しなら彼女だって走れる。だが、皆心配しすぎなのだ。


「泉田くん見つけた〜!」
「ああ、もう。僕が行くから走らなくても良かったのに…」
「ふふ、ごめんね。泉田くんサッカーだよね!さっき見たよ。シュートするところ」
「でも負けちゃいました。やっぱり自転車以外の運動はあまり得意ではないですね…」
「そうかな?」
「えっ、」
「泉田くんが一番シュートするバランスが良かった。自転車の時もだけど他のスポーツでバランス感覚や軸のぶれない。泉田くんの長所だね」
「日向さん…」


こうやって彼女は他人の良いところを見つけるのが上手かった。勿論、悪い部分も見つけ、改善策を思案してくれる。だが、勇気をくれる言葉を必ず見つけてくれる。


「やはり、貴方には叶いません」
「?」
「いえ、何でも。あ、今ここのコートでユキがバスケしてるんですよ」
「本当だ!黒田くん、やっぱりバスケ上手だね」
「ユキはスポーツ万能ですから」
「何か最初に荒北くんに絡まれてた頃を思い出すなぁ」
「はは、ありましたね。そんなことも」
「変わったね、黒田くん」
「はい。葦木場もいますよ。ゴールの近くに」
「リバウンドに適任だしね。でもあんまり動いてないみたい…」
「自分には何も出来ないって思ってしまってるんですよ、葦木場は…」


ピーっと笛の音が鳴った。
試合を終えた黒田と葦木場は泉田を探しているように見える。泉田は彼女と一緒に2人を呼び掛ける。黒田は彼女を見た瞬間、慌ててこちらへ、葦木場はしょんぼりしたように駆ける。


「黒田くん、葦木場くん、お疲れ様」
「えっ!?あ、ありがとうございます!!」
「ありがとうございます、」
「な、何で日向さんがここに…?てか塔一郎!またお前だけ…!」
「たまたま会ったんだよ」
「試合、見ててくれたんですか!?」
「うん。黒田くんバスケ上手だね。格好良かったよ〜」
「か、格好っ…!ありがとうございます!!」
「それに、1人のプレーじゃない。周りを見て、頼ってた。変わったよ、黒田くん。いい意味でね」
「…日向さんのおかげです。やっぱりみんなとプレーすんの楽しいッス」
「私じゃないよ。自転車部のみんな、主に荒北くんでしょう?」
「うっ…あの人のおかげって素直に言いたくない…」


黒田はブスッと唇を尖らせ少し拗ねる。彼女はそんな表情を見て、クスクス笑う。それはもう花のように。黒田は頬を可愛らしくピンクに染め、笑わないで下さいよと顔を隠した。

しかし、葦木場の元気があまりないようだ。


「どうしたの?葦木場くん」
「えっ…?」
「元気ないみたい」
「…俺、何にも出来なくて。お前は身長だけかよって言われちゃって、確かにそうかもって…」
「…葦木場くん。人には長所と短所がある。君の長所はその身長なの。出来なくてって思って、何も行動しなかったんじゃない?」
「…しなかった、です」
「長所と短所は紙一重なの。だから短所も身長になる。けどね、そんなのみんな同じ」
「…?」
「うーん…、2年生集合!」
「は、はい!」


反射的に泉田が返事をし、彼女を囲むように2年生が集まった。彼女はふわりと笑い、1人1人の手を握る。


「弱点を見つけるより、まず利点を見つけなさい!」
「利点、ですか?」
「そう。弱点を見つけるのは後でいい。まずは自分の良いところを見つける。葦木場くん、君の良いところは身長。だったらそれをどう生かすか考えなきゃ」
「生かす…?」
「それが弱点でもあるなら、私はいくらでも改善策を作る」
「日向さん…、ありがとうございます!何か元気出てきました」
「いいえ。私には言葉でしか言うことが出来ないから、」


彼女の言葉は魔法のようだ。不安も焦りも消し去ってくれる。彼女の言葉が正しいこともあるが、何より信頼し、好いているからこそ、自然と元気が出てくる。


「午後からも試合あるんだって?考え込まないで気楽にね。球技大会なんだから、楽しまないと」
「はい!先輩達と試合ですけど負けません!」
「ユキちゃん燃えてるね」
「日向さんがいるからね。(ユキを応援するとは限らないのに)」


午後からは黒田は荒北や福富のいるチームと試合するらしい。とても燃えているが、確かに彼女がどちらかを応援するとは考えずらい。恐らく両方だろう。




「あ、そう言えば真波くん見てないなぁ」
「また遅刻じゃないですか?」
「さっき校庭にいましたよ。サッカーみたいですから」
「新開さんや東堂さんと一緒にいましたよー」
「そっかあ。じゃあ行ってみようかな」


残る後輩は遅刻魔の真波だけ。やはり彼は一番心配だ。黒田は試合に来てくれとあまりに熱心に言っていたので、それまでに真波を探さなければと彼女は考える。

球技大会もいよいよクライマックスだ。

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