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箱学3年とお姫様大作戦2



「こんなにたくさん…、どうしたのこんなに…?」


彼女の前に並べられた数々の服やアクセサリー、化粧品の山。明日に決行とは聞いていたが、ここまでの量の物をどうやって用意したのか気になる。お金を使わせてしまったのではないかととても焦った。


「心配無用だ日向ちゃん。これは姉のお下がりだ」
「それにしてもすごい量だな、尽八」
「はっはっは!だろう?それに未使用な服ばかりだ。姉はやたら買うが着ないことが多い」
「勿体ねーなァ」
「では早速始めるぞ!服選びは俺に任せろ!この美形である東堂尽八、センスに自信がある!」
「化粧は俺ね。案外上手いんだぜ。おめさんをもっと可愛くするからな」
「俺は髪の毛ちょっと弄らせてもらうヨ。上手いどうかは保証しねーけど」
「俺はそういうことに関しては得意ではない。今回はサポートをする」
「よ、よろしくお願いします…」


そうして始まる彼女のプロデュース。

東堂は案外テキパキと選んでおり、彼女に似合う最良の服を見極めていた。真剣な顔はやはり美形である。
新開は化粧が上手かった。目元、口元と彼女をどんどん美しくする。途中、セクハラじみたことをして皆に怒られていた。
荒北は意外と言うかやはりと言うか器用だった。髪の毛を触るのにいちいち赤くなっていたが、何とか終える。
福富はサポートをしたりしていたが、何かをいそいそと準備していた。



そして、完成。


「ヒュウ…、こりゃ予測以上の破壊力だ」
「う、美しい!とても美しいぞ日向ちゃん!!」
「ま、まァ…、いいンじゃナァイ?」
「とても似合っているぞ」


ふんわりしたワンピースには小花が散りばめられており、フリルのソックスと黒いストラップの付いた靴と良く似合う。ナチュラルに化粧された顔はまた雰囲気を変えてくれる。髪は巻かれていて、頭にある花の冠がとても女の子らしい。

とにかく可愛かった。


「わ、私…、その、こんな可愛い服初めてで…」
「記念に写真を撮ろう!巻ちゃんに自慢する!」
「本当可愛いなぁ。化粧するとまたグッと変わるね」
「そ、それは新開くんが上手だからだよ。荒北くんもこんなに綺麗に髪の毛アレンジしてくれて、」
「日向チャン元がイイからやりやすかっただけだヨ」
「すごいなぁ。女の子だ。すごく嬉しい」
「喜んでくれて俺達も嬉しいぞ日向ちゃん!」
「東堂うるせェ!」
「まあまあ。なぁ、寿一も可愛いと思うだろ?」
「…ああ、とても」
「フクも色々手伝ってくれたのだ。なかなか上手かったぞ」
「ありがとう、福富くん」
「いや、」
「福ちゃんさっきから黙ってるケドどうしたのォ?」
「寿一?」


福富ははしゃぐ3人に対して、とても静かだった。似合わないなどと思っているわけではない。少し悲しげで何か言いたそうであったので、皆は彼の言葉を待つ。


「日向は…、そういった格好がしたいと思うか?これからも」
「えっ…?」
「箱学の練習量は並のものではない。それはお前も知ってることだ。恐らく今のような格好はなかなか出来ない」
「なるほど。寿一の言う通り、これからが一番厳しい時期だからね」
「お前はマネージャーである以前に女子だ。俺達はお前に無理をさせてはいないだろうか…?」
「福富くん、」


福富だけでなく、他の皆も不安そうに彼女を見つめた。彼女は必要だ。大切だ。だが、彼女の意思を一番に尊重したい気持ちがある。


「お前はこれからもボロボロのジャージを着て、俺達をサポートしてくれるか?」
「オシャレはなかなか出来ないかもしれない。おめさんはそれでもいいか?」
「無論、俺達にとって日向ちゃんは必要だが、君の意思を一番に尊重したいのだ」
「まァ…、日向チャンの自由なンじゃナァイ?」


彼女は心の中で可笑しいなと笑う。初めから答えなど決まっているのに何を不安がるのだろう。


「…確かに可愛い格好して、楽しく買い物したり会話したりしたいと思う」
「日向、」
「だけど、」


福富の言葉を遮り、彼女は美しく化粧されて顔を上げた。


「だけどね、こっちの方が好き」


そうして彼女が手に取ったのはいつも着ているジャージだった。上から羽織り、ふわりと微笑む彼女。彼女は化粧しなくたって、着飾らなくたって、そのままが綺麗なのだ。


「それ以上に私は自転車が大好きなの。みんなのことが大好きなの」


その言葉を聞いてある者は嬉しそうに笑い、ある者は照れたようにそっぽを向いたり様々な反応を見せてくれた。


「…そうか、感謝するぞ。それで日向、これは俺からのプレゼントだ」
「プレゼント?福ちゃんそんなの用意してたっけェ?」
「おお!それは気になるな!俺も見たいぞ!」
「これは…、やるね寿一」


中を開けると、いつもレギュラーが着ているジャージが入っていた。箱根学園と刻まれたジャージが。


「福富くん…、これ、」
「本当はもっと早くに渡したかったのだが、時間がかかってしまった。日向も俺の作る最強チームの一員だから、着てほしい」
「それはいいなフク!!日向ちゃんとお揃いだ!」
「いいね。何か仲間って感じがするぜ」
「…それ着るからにはちゃんとマネージャーしろヨ」
「ありがとう…、すっごくすっごく嬉しい!」
「あ、泣いちゃダメだよ。化粧落ちちゃうし、俺まだ写真撮ってない」
「あー!隼人!それは近すぎるではないか!!」
「そうかな?」
「そうかなじゃねー!!お前はいっつもいっつも…」
「荒北、東堂、そんなに怒ることではない」
「いや怒ることであろう!」
「じゃあみんなで写真撮ろうか。はい、並んでー」
「福富くんと荒北くんの隣に入れてもらってもいい?」
「構わんぞ」
「べ、別にいいケドォ…」
「靖友照れるなよ」
「るっせ!!」
「それでは撮るぞ!!」



パシャリ

また1つ、思い出増えたね。




因みに、後輩達に写真を見せたところ、何故呼ばなかったかと責められた3年の先輩達であった。



(ちょっ…!これ何だよ!先輩達だけズリーよ!!)
(確かに、ユキちゃんの言う通りちょっとズルいよね〜…)
(何で俺呼んでくれなかったんですか〜!日向さんの可愛い格好見たかったのに!)
(ちょっと、みんな落ち着こうよ…、確かに羨ましいけど仕方ないだろ?)
(つかこれ日向さん可愛すぎんだろ!)
(本当ズルいですよ〜!!!)
(葦木場はまだしもユキと真波、本当にうるさいから)

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