ペダル | ナノ
不良少年荒北くん

※ねつ造
荒北side



「くそっ…!!」


ふらつく車体に何度もこけた。何で前へ進まねーんだ。自転車なんてどうでもいいのに、この乗りもん乗れねーと気が済まねぇんだ。

事の始まりは俺が鉄仮面に絡んだことから始まる。原付と自転車で勝負して俺は負けるハズはないと確信してた。だが、負けた。あんな乗りもんが、人力のが原付に勝った。意味わかんねーヨ。まぁ、八つ当たりみてぇだが、鉄仮面に何で勝ってんだと当たった。そしたらアイツは言った。

乗らなければ分からないと。

だけど全然乗れねぇし、転ぶしムカつく。何で鉄仮面に乗れて俺には乗れない!何で進まねェ!!

鉄仮面はそんな俺に言った。

「自転車は下を向いていては進まない」
「前を見ろ、遠くを」
「全てを忘れろ。過去もしがらみも」

ドクンと何かが動いた。

「自転車にはエンジンはついていない。進むも止まるもお前次第だ。進まないのはお前が進もうとしてないからだ」
「前だけ見ろ。全てをつかって進もうとしなければ」

自転車は速くならない


俺は回し続けた。全然乗れねぇし、速くならねぇし、何度も止めてやろうとも思った。でも、そんな時に現れたのがマネージャーだった。

鉄仮面が人の3倍練習しろ。毎日だ。それとお前は1人でだと言った次の日に「1人でだと言ったが、特別に頼もしい奴を呼んだ。今度からソイツと練習しろ」と急に言った。

誰だヨもう1人って。あの腹立つ3年だったらぶっ飛ばしてやる。自転車を回しても回しても、なかなか現れない。未だにふらつく自転車にそろそろイライラしてきた。


「前を見て。下を向いていてはダメです」


突然の声に少しだけビクリとする。想像よりずっと高い声へと振り向くと、女が立っていた。ノートとペンを片手に俺をじっと見る。


「だ、誰だてめェ!!」
「自転車競技部マネージャーの陰野日向と言います。福富くんから話は聞きました。今日から練習にご一緒させていただきます」


丁寧な言葉と下げた頭に何故かその時はイラついた。馬鹿にしてんのか、女なんか寄越しやがって何考えてんだヨ。と。

女は俺が乗っているフォーム姿を見て、上半身のバランスが悪いや足だけで回してはいけないなど的確でムカつくアドバイスをしやがる。それが異様にムカついて、自転車を降り、壁にドンッと女を打ち付けてやる。


「鉄仮面に言われて仕方なく来てるンだろォ?馬鹿にすんなヨ!!無様な姿見に来たならさっさと帰れこのクソアマァ!!」


クスクス笑う女共の顔がふと頭に浮かんだもので、コイツがそうとは限らねぇのに怒鳴り散らしてしまった。でもきっとコイツもそうだ。優秀な箱学と違って何も出来ねぇ俺を見て、笑いに来たンだろ。

しかし、女は泣きも逃げもせず、俺の両腕に挟まれた顔を上げた。


「私は…、貴方に何かを感じました。才能を根性を。貴方は必ず箱学に必要な存在となります。お願いです、どうか、どうか私にマネジメントをさせて下さい…!」


大きな瞳が俺を射ぬく。本気の目だ。この強い目は鉄仮面と同じ目だった。俺の腕はだらりと力を無くし、足は自転車の方へと向かっていた。

ったく、めんどくせぇ女。


「チンタラしてんじゃねェぞ!!早く練習すっぞ!!」
「は、はい!!!」


女はそれからも毎日毎日付き合ってくれた。女の指示は本当に的確で、俺は自身が速くなっていくことを感じた。女とは練習だけでなく、普段の日常でも会話をちょこちょこすることがあった。控えめに笑う顔が俺の脳内に残り、いつの日か自転車で優勝し、コイツに満面の笑みを咲かせてやりたいとも思った。コイツはとにかく俺をやる気にさせるのが上手かった。


「荒北くんはどうして箱学に入ったの?」
「…ンなことどうでもいいだろォ!」
「私は自転車競技部に入りたかったから。本当は選手として走りたかったんだけど、」
「ハァ?なら何でマネージャーになったのォ?」
「…走れないから」


体が弱くて運動が出来ないと言ったコイツが過去の俺と重なった。ビジを壊して野球出来なくなった俺と。でも、だからこそ優勝したい気持ちが強くなった。コイツは夢を俺達に託してる。

「…野球部がなかったからだヨ」
「あっ、変なこと聞いてごめんね」
「ア?ンな顔してんじゃねェ!!イイか?俺は優勝する!自転車で!お前のためじゃねーから!!」
「うん、分かってる」


俺は練習して練習して練習した。笑顔を見るために、俺のために回した。



そんなある日のことだか、女が練習に来ないことがあった。待っても待っても来ない。アイツは何も言わず、練習に来ない日などなかった。俺は考えるより体が先に動いた。女のために何でこんな探し回らなきゃいけねぇンだヨ!全部アイツのせいだからな!!

至るところを探したが、どこにもいない。あと探してねェのは部室くらいだけど、そんな近くにいたらマジで骨折り損のくたびれ儲けだ。俺は部室の前まで来て、ピタリと止まった。


「前にお荷物はいらないって言ったよな?なのにまだ続けてんの?」
「福富に気に入られてるからって調子に乗るなよ。お前の指示が的確?何で女の言うことを名門の箱学が聞かなきゃいけねーの?」
「しかも最近あの荒北って奴と練習してんだって?マネージャーのくせに何であんな不良相手にしてんの?」
「あ、分かった。付き合ってんだろ?福富とも荒北とも。うわ、とんだ性悪だなぁ!」
「ち、違います…!福富くんは本当に強いし、荒北くんは絶対に必要な存在になります!箱学にとっても私にとっても…、お願いですから…そんなこと言わないで下さい…」
「うるせぇ!!口答えするな!!」


振り上げた手に俺は知らぬ間に部室に入っていた。バチンと鈍い音が響く。3年の奴らは驚いたような情けない顔をしていた。


「3年の先輩が女1人囲んで苛めでもしてるわけェ?」
「あ、荒北…!やっぱりお前達できてんだろ!?だから庇って…!」
「アァ!?ピーピーるっせェ!!1人じゃ行動出来ねぇような弱虫共に何も言われる筋合いはねーンだヨ!!」
「なっ…!?お前こそ自転車遅いくせに部活入りやがって!弱い奴は走れねーんだよ!」
「ハァ?てめェ…!」


かっとなって振りかざした手は細く小さな手によって止められる。女は俺を見て、ふわりと笑った。


「勝負は道の上で」


コイツは本気で俺を信じてる。3年の奴らは舌打ちをし、きたねぇ足で外に出てった。

残された俺は女をちらりと見た。少し震えた手で俺の手をずっと握っている。怖かったんだ。知らない時にいつもこんな風に言われんだ。そう思うと、何とも言えない気持ちになる。


「ありがとう、荒北くん。荒北くんが助けに来てくれなかったら私が先輩達を殴っちゃったかも」
「お前みてーな自転車馬鹿のいい子チャンにンなことできっかヨ」


えへへと笑うコイツの目にはじんわり涙の跡。そういえば鉄仮面がコイツが2年3年に一部だがあまり良く思われていないと言っていた。なるべく気を付けているが、助けられないこともあるらしい。


「荒北くん」
「アァ?」
「勝ってね」
「…ったりめーだろォ!」


優勝するしかなくなったじゃねぇかヨ。本当にズルい女だねェ、日向チャンは。

その要望、答えてやんヨ!



『新人、箱根学園荒北選手初勝利!!』


拳を上げて突き刺した先に涙を流しながら笑う日向チャンの顔。俺に向かって、花が咲いたみてーな可愛い笑顔を見せ、駆け寄ってきてくれた。


「あ、荒北くん…!!スゴいよスゴいよ!!優勝だよ!!」
「だ、抱きつくンじゃねーヨ!!ったく…泣きすぎ」
「だって、嬉しくて…、荒北くんのスゴさをみんなに分かってもらえたんだよ!」
「るっせ!なら笑え!!」


その時の、へにゃんとした気の抜けた笑顔を俺は忘れることはない。






「や、やだ荒北くん!何でその時の写真なんて見てるの!?」
「可愛い顔してンじゃナァイ?」
「からかわないでよ…!」
「む!でもその写真、少しくっつきすぎではないか!」
「それ靖友が初勝利した時に寿一が撮ったやつだよね」
「ああ、そうだ」
「くっつきすぎだ!日向ちゃん!俺にもこうやってくれ!!」
「あ、あの時はすごく興奮してて…」
「いいなぁ。靖友、裏から抱きつかれてるし」
「満更でもない顔してたな」
「るっせ!!」
「日向ちゃん!やってくれ!巻ちゃんに自慢する!」
「えっと、」
「俺にも俺にも」
「新開くんまで…」
「止めろお前らァ!!」
「写真は撮りたいな」
「福ちゃん!?」




写真は大切だよね。
結局写真は撮りました。みんなでね。



ぐだぐだ

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