もしもの話 | ナノ




「来週の土日開けとけ!!」


突然やって来て、私の返答を聞かずに去って行ってしまうのが私の彼です。口が悪くて乱暴ですが、あれは彼なりのデートのお誘いです。いつもそうです。それでも私は嬉しいのです。だって大好きな彼からのお誘いなんてなかなかないこと。勿論、予定は開けておきます。


そして、ついにその日が。
彼は着替えと最低限の荷物は持ってこいと言った。ちょっと期待しちゃってます。女の子らしい格好して、なるべく彼に可愛いと言ってもらいたくて、お洒落をした。似合わない大きな荷物は気にしない。

しばらくして、彼が来た。
すると彼は乱暴に私にチケットを渡してくれた。私が行きたいと言っていたテーマパークだ。夢みたいだった。


「靖友くん…、ありがとう。私、すごく嬉しい!」
「るっせ!早く行くぞ!これぶら下げてろ!!」


彼、荒北靖友くんは私の首に可愛らしいパスポート入れをぶら下げて、すたすた前を歩いていった。嬉しい、嬉しいな。


「靖友くん」
「ア?何だヨ」
「…う、ううん何でも」


周りはカップルが多くて、仲良く手を繋いだり、腕を組んだりしていたのが目に入った。私もしてみたい、と思ったけど靖友くんがそんなことしてくれるとは思わない。靖友くんは人前で触れたあったりするのが嫌いなのだ。言いかけたけど、やっぱり止めた。


「ちっ!」
「えっ…」


靖友くんの手が私の手を握る。普段は絶対こんなことしないのに。やだ、ドキドキする。


「はぐれたら迷惑だからなァ。勘違いすンなヨ!!」
「えへへ、分かってる」


耳が赤かったのは見なかったことにしておくね。繋がれた手はポカポカ温かかった。靖友くん可愛い。

手を繋ぎながら、いろんなことをした。乗り物を乗ったり食べたりした。靖友くんは何だかんだ買ってくれた。いいよと断ると黙ってろと怒られちゃったよ。
それで、今は何故かカチューシャ売り場にいます。えっ、靖友くん買うのかな。ならすごく見たいけど。


「あっ、これ可愛い」


私が手に取ったのは帽子タイプの物だった。被って鏡を見ていると、靖友くんがそれを奪い、私に別の物を渡した。


「お前はこれ付けとけ!」
「えっ、あ、うん…?」


これはここのテーマパークのヒロインちゃんじゃないか。リボンが可愛くて、私には勿体ない気もするけど、靖友くんがこれって言ったから、何も変える必要はない。


「靖友くんはこれね」
「ハァ!?俺もつけるわけェ?」
「でもでもこのキャラクター同士カップルじゃない?私、靖友くんとこれつけたいの」
「…しょうがねーな。おい、笑うなよ」


あわわ!靖友くんが耳つけてくれた!可愛い!写真撮りたい!心の中で叫び続けていると、靖友くんと小さな目と目が合った。頬を真っ赤にして、あわあわと口をパクパク。


「何見てンだヨブス!!バァカ!こっち見ンな!!」


ふいっと向こうを向いてしまった靖友くんに手を引かれ、お会計を済ませ、外に出る。耳つけて、手を繋いで歩けるなんて本当に幸せ。周りの人達は「彼女にブスって…」と驚いていたけど、これが通常運転です。

みんなは靖友くんの優しさを知らないんだ。緊張してるのか汗ばんでても、手を繋いでいてくれる。人とぶつからないように危なくない方を歩かさせてくれる。荷物を持ってくれる。私が疲れてないか不器用にだけど気遣ってくれる。でも、これは私だけの秘密。私しか知っちゃダメ。理不尽だけど、ダメなんだもん。

ちらりと目が合うと逸らし、腕にきゅっと抱きつくと、真っ赤になって焦っていた。暴言は勿論言われたけど。でもこれは照れ隠し。優しいんです靖友くんは。

現に今も買い物に付き合ってくれてます。「外で待っててくれて大丈夫だ」と言うと「お前みたいなブス1人にしちゃ可哀想だろォ!?」とついてきてくれた。優しさです。


「ごめんね、長くて…」
「ア!?ゆっくり選べ!堪能しろバァカ!!」
「うん、ありがとう」


靖友くんはどんな長い買い物でも付き合ってくれる。ただ隣でじっと傍にいてくれる。選んでる物を見られてるみたいで、ちょっと恥ずかしいけど、私は嬉しいに越したことはない。


「あ…、」


ふと私の目にネックレスが映った。シルバーでシンプルなネックレス。可愛いなぁって純粋に思ったけど、値札を見たら、ちょっと高くて買えない。私は静かに元に戻して、今持っている物をレジに持っていく。

靖友くんはその様子をただじーっと眺めていた。



「楽しかったね、今日」


すっかり暗くなった空。夢みたいな時間はあっという間で、キラキラ光るイルミネーションが綺麗だけど、寂しくも見えた。座っているベンチからはシンボルのお城が見える。ロマンチックだなぁ。


「靖友くんがこんなサプライズしてるなんて本当にびっくりだよ」
「前に日向チャンが行きたいって言ってたから誘ったわけじゃねーから!!」
「はいはい。あ、そろそろ閉園時間だね。行こっか」


時計を見ると閉園時間だった。寂しいけど、電車の時間もあるし、帰らないとと立とうとするが立てない。靖友くんが私の腕を掴んでいたからだ。


「靖友くん…?」


靖友くんはもごもご何かを言い、顔を赤くし、こちらを見ている。何だろう。私が緊張してきちゃった。


「…これやるよ」
「えっ、これ…」


袋の中にも入れず、ラッピングもせず、彼がずいっと渡してきた物は私が気になっていたネックレスだった。ちゃんと私のこと見てたんだと思って、涙が出てきた。


「な、何泣いてンだヨ!?泣くなって、」
「ごめっ…嬉しくて、」
「ったく…、ほら泣くな」


靖友くんは服の袖で涙を拭ってくれる。本当にズルい。普段は暴言ばっかりなのに私が泣いたりすると何も言わないで、今みたいに涙を拭ってくれる。


「靖友くん、ネックレスつけて」
「…今日だけだヨ」


靖友くんの手が私の首に触れる。カチカチ音が聞こえるのがとてつもなくドキドキ。息が首にかかり、ぶるりと震えた。後ろからじゃなくて、前から顔を見たい。今、私…、靖友くんにキスして抱き締めたい。


「ほら、出来た…!?」


我慢出来なくて、靖友くんの薄い唇にキスをして、ぎゅっと細い体に抱きついた。彼は口では止めろとか離れろとか言っていたけど、腕は私の背中にしっかり回っていた。不器用だなぁ、本当に。


「靖友くん大好き」
「…知ってる」


この中のカップルで私達が一番幸せだよね。私は本当に幸せ。こんなに幸せでいいのかな。


「ふふ、帰ろっか」
「…こっちだヨ」
「えぇ、でも電車はあっちだよ?」
「バァカ!ホテル、予約してあるンだヨ!!!」



神様、これは夢ですか?




彼女が大好きなのに素直になれない不器用な彼氏


続きは後程


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