もしもの話 | ナノ




「楽しみだね〜!」
「…はしゃぎすぎッスわ」


ツンと答えるわりには少しだけワクワクした表情をしている光くん。思わずクスリと笑うと凄く睨まれちゃいました。

1つ年下の光こと財前光くんは私の自慢の彼氏です。格好いいし、何でもそつなくこなしちゃうし、人気者の彼ですが、告白してくれたことをきっかけに付き合いを始めてもう1年。今日はあの夢の国に来ています。
光くんが内緒でチケットやホテルまで予約してくれて、知ったときは大泣きしたなぁ。本当に嬉しかったから。



「私ね、これ絶対に乗りたい!」
「え〜…それめっちゃ混んどるやつやないですか」
「光くんと一緒なら並んでも楽しいから大丈夫だよ!」
「っ、…うっさい」


でも何だかんだ並んでくれるのが光くん。今日も私服格好いいなぁ。私大丈夫かな。隣にいることが不安だ。いろいろぐるぐる考えていたら入園時間になった。ダーッと走る人もいればゆっくり歩いてる人もいる。光くんは恐らく後者である。ゆっくり歩いて、ゆっくり巡るのかと思っていた矢先、光くんが小さく小走りをし出した。


「えっ、光くん?」
「…乗りたいんやろ混んどるやつ。なら走るで」
「!うん!」


スタスタ歩いていく光くんの背中が急に愛しい。やっぱり優しいなぁ。ちょっとだけ耳が赤かったことは私の中での秘密にしておこう。

…光くん走るの速い!




そんなに並ばすに入れたもので、数十分でアトラクションを乗り終えた。楽しかったぁ。光くんは無表情であるものの、少しだけ顔が緩んでいた。楽しかったみたいで良かった。
今はショップでお買い物中。外で待ってても大丈夫だと伝えたけど、ついてきてくれる彼はやっぱり優しい。何か買おうかなぁと考えていると、定番のカチューシャ類が目に入った。


「カチューシャ欲しいん?」
「雰囲気味わいたいなぁって思って。どれが可愛い?」
「…これがええ」


光くんの手に取ったものはヒロインちゃんのカチューシャ。一番定番で可愛いものだ。リボンも光くんが好きな色っぽいし、これ買っちゃおう。つけてみて鏡でチェックしているとパシャリとカメラ音がした。


「うぇ!?光くん撮ったの!?」
「まあ、一応」
「や、止めてよ!今変な顔してたもん!」
「大丈夫ですよ。いつも変な顔ですから」
「うぅ…」


彼女に向かって変な顔って光くん安定の毒舌すぎる。でも彼なりの愛情表情って分かってるから平気平気平常心。…いつも変な顔してるのかな。


「光くんはこれがいいよ」
「はぁ?俺は嫌です」
「で、でも、この2人が恋人同士なら私も光くんと恋人同士だもん。ダメ?」
「!…はぁ、全くこの天然タラシは…」


最後、彼が何て言っていたのかは分からなかったけど観念したみたいでつけてくれた。お揃いって嬉しいし、しかも光くんが似合いすぎる!相変わらず何をしても格好いいんだからズルいよなぁ本当に。


でもこれで恋人同士ってちゃんと見えるんじゃないかな。だってね、さっきから周りの女の子達が光くんを見てヒソヒソと話してるの。
「あの人格好いい!」
「彼女いるのかなぁ?」
「1人じゃない?」
「隣の子は?」
「えぇ、違うでしょ〜」
キャアキャアと黄色い声が聞こえるたびに、耳を塞ぎたくなる。学校でも王子様みたいな存在のテニス部の中のレギュラーである光くんは人気だ。告白してくれたけど、釣り合わないって陰でいわれてる。そんなこと知ってるよ。


「…具合でも悪いん?」
「えっ!あ、大丈夫…」


表情に表れていたみたいで、光くんはぶっきらぼうにそう言った。心配させてしまったみたいで、ごめんねと謝ると無言で頭を数回ポンポン撫でられる。


「話しかけてみようかなぁ」


そんな会話が聞こえた時には私の体は勝手に動き、いつの間にか光くんの服を控えめに握りしめる。光くんは目を見開き「日向さん?」と不思議そうにこちらを見ると、しばらくして私の手を退けた。

やだ。鬱陶しいって思われたのかもしれない。

どうしようもない不安で光くんに再度伸びた手は彼の大きな手に包まれ、体ごと私の重力に逆らい、ゆっくりと傾いていく。その瞬間にふんわりと香るのは彼の匂い。私の大好きな。



「光、くん…?」
「…今こっち見んといて下さい」



ぎゅっと抱き締められ、彼の胸にすっぽりと埋まってしまう。優しく髪を撫でる手も、意外と男らしい胸板も全部全部好きで、大好きで震える手で光くんの背中に手を回した。

女の子達は残念そうに声をあげ、その場を去っていったのだが光くんはそのまま動かなかった。周りから見たら何してるんだろうあのカップルはなんて呆れられてしまっているのかもしれないけど、私はとっても幸せだし温かい気持ち。



「光くん冷たい」
「しゃあないやろ。低体温なんスから」
「そんなとこも大好き」
「…知っとるわ」
「私だけの光くんだもん」
「それも知っとる」
「誰にもあげないもん、」


私なんか釣り合わないかもしれないけど、それでも彼と一緒にいたいと思うし、彼の隣を誰にも渡したくない。ここは私の場所。ツンツンなとこや、毒舌を吐くこともあるけど、優しくて照れ屋で誰よりも私のことを大切にしてくれてることを知ってるよ。大好きなんだよ。



「…日向さん」



顔に添えられた手によって涙が出そうになり、潤んでしまった可笑しな顔を見られてしまう。うわぁ、恥ずかしい。光くんの綺麗な顔が目の前だ。

ピアスがキラリと光った。



「…それ全部、俺の台詞ッスわ」



柔らかい彼の唇が私の唇を思い切り塞ぐ。短い時間だったけど、それが凄く長く感じたのは私だけなのだろうか。


「ほら、はよう行きましょう」
「ふふ、うん。行こっか」


キュッと手を繋ぐ。いつの間にか点灯していたイルミネーションが辺り一面を色鮮やかに照らし始め、光くんの5色に輝くピアスが眩しい。綺麗に弧を描いて笑う彼の笑顔の方がもっと眩しかったのは、言うまでもないのとだ。








(心配しているのは、)
(君だけじゃないこと気付いてる?)




(光くん?)
(はぁ、何もないッス)


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