ポチポチと慣れた手つきでボタン操作。イヤホンから聞こえる美声に思わず口が緩みそうになってしまう。乙女ゲームプレイ中の私はいくつかある選択肢の中から素早く1つ選ぶ。へへん、得意なんだよ。
今はお気に入りキャラを攻略中でこれからがいいところなのに、何故かイヤホンをポーンと奪われる。何事!?
「俺が隣にいるのに何故イヤホンなど付けておるのだ!」
隣に彼がいることを忘れてた。綺麗な顔を歪ませ、ツルツルのほっぺたをぷくりと膨らませているのは自称美形クライマー東堂尽八くんである。そんな顔も美形だなあとしみじみ思う。クソオタクな私の彼氏さんでもあります。
「だって尽八くん、さっきまでいなかったもん」
「む、俺のファンが呼んでいてな!さては嫉妬か?嫉妬だな!何だ可愛い奴め!」
否定するのもなんか面倒くさくなったので、うんと言っておいた。見ての通り女子ファンがいて、モテるのに何故私と付き合っているのか不思議だ。私は取り柄が何もない。いや、私だって告白くらいされたことあるよ。そう言えばこの話したら彼は結構拗ねたなあ。
「またゲームか!この前は漫画だった!たまには俺の相手をしてくれ!」
「(…いつもしてるような)」
こうなると止まらない尽八くんの構って攻撃。私もねお話したくないわけじゃないんだよ。でもね、あとちょっとで攻略なんだよ!!結構、時間かかったんだよ!?
「それでな!巻ちゃんが俺に電話をかけてきてくれたのだよ!初めてのことだ!」
「あー…うん」
「…聞いてるか?」
ごめんね。あんまり聞いてない。8割が巻ちゃんって人の話なんだけど、巻ちゃんって誰。女の子?えぇ、彼女前にして女の子の話とか。私も他の男の子の話(2次元)してるけど…
「巻ちゃんって女の子?」
「なっ…!違う!断じて違う!男だ!ライバルだ!」
「な〜んだ、そっか。てっきり浮気でもされたのかと」
「するわけないだろう!」
そりゃあ彼がするわけないと信じてるけど、こんなに話されたら浮気かなって心配しちゃうよ。巻ちゃんか。見たみたい。
「あっ、告白された」
「何!?俺の日向に告白とはどこのどいつだ!?」
「尽八くん、ゲームの話だよ〜」
本気で尽八くんが焦り出したので、びっくりした。ゲームだよってさっきから言ってるのに、尽八くんは唇を尖らせてブスッとしている。可愛い。
「…日向は俺とそのゲームの男のどちらが好きなのだ!」
「え、えぇ…!」
「答えられないのか!」
「そ、そういうわけじゃ、」
2次元と3次元を天秤にかける日が来るとは思わなかった。そもそも目に見える形が違うのにどう比べたらいいのかな。
私がなかなか答えないから尽八くんの瞳がうるうるし始める。え、ちょっ、萌えるけど、泣かないでよ〜…
「あのね、ゲームと尽八くんはやっぱり違うの。どっちが好きとか、そういうんじゃないと思う」
「うぅ、では日向は比べられないのか…?」
「このキャラは好きだけど、尽八くんの好きはもっともっと特別なの。全然違う」
尽八くんのふにふにほっぺたをぎゅむりと挟み、「比べなきゃダメかなあ」と問う。尽八くんは頬を可愛らしく赤く染めると、ふるふる首を横に振る。
「よし、じゃあ何か話そっか」
「!もうゲームはいいのか?」
「うん。今は尽八くんといるからね」
「日向…!」
涙がら尽八くんはガバッと抱きついてきたもので、よろけながら受け止める。私の方が小さいのに危ないな。
「好きだぞ日向!!」
「私もだよ」
乙女ゲームも好きだけど、やっぱり尽八くんが一番だよ。比べるもなにも、尽八くんのが好きに決まってるのに。
彼のおでこにチュッと1つキスをすると、真っ赤になる彼が面白くて、今度は唇にしてやったり。
オタクにキャラと自分どちらが好きかなんて聞くもんじゃない!
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