バレンタインデー。
跡部景吾はトラック何台分あるか分からないチョコレートに見向きもせず、インターホンを鳴らす人物の元へと駆け出す。


バレンタインらしい、ピンク色のコートや淡い桜色のリップクリームが目に写る。いつもとは少し違う雰囲気にくらくらした。ほんのり化粧した彼女。何倍も可愛く見える。



「家までどうしたんだ?日向」


可愛らしくにこりと笑う日向が持つのは金色のリボンと小さな薔薇の花でラッピングされた箱。それを跡部の前に差し出された。


「今日はバレンタインでしょう?だからこれ、景吾くんに」
「俺に?」


とりあえず冷える外に彼女をいさせるわけにはいかないので、室内に入ってもらう。少しひんやりした日向の手を跡部はぎゅっと握り、温めた。


「あんまり大した物じゃないんだけど…」


控えめに笑う日向。
手作りのそれを跡部は開けていいかと尋ねる。日向はコクンと頷き、跡部の反応を見た。


袋を綺麗に開けると、トリュフがコロコロ並べられていた。金粉が降り注げられており、跡部にピッタリだ。


「俺が貰っていいのか?」
「ふふ、景吾くんに持ってきたんだよ?貰ってくれないと困るなぁ」


感動で跡部は日向を抱き締めた。この男、やたら日向を抱き締める。彼女も慣れてしまったのかニコニコそれを受け入れていた。

パクリと跡部は口に入れる。
広がるチョコレートの甘さとほろ苦さ。彼女から貰ったこともあり、より美味しく感じることだろう。


「美味しく出来てるかな?味見はしたんだけど、あんまり分かんなくて、」


不安そうな瞳でさえ、愛しい。跡部をじっと見つめる日向の瞳を彼はもう一度腕の中に閉じ込めた。

抱き締めるたびに香る日向の匂いは誘惑する香りである。



「不安そうだな、あーん?」
「だって、景吾くんの好きな食べ物って高級な物ばかりだもん。私のじゃ足りないかなって…」


跡部の舌など日向でなくとも分かるまい。それを示すように跡部が貰ったチョコレートは高級な物ばかりだ。


しかし、彼はそんな物て満たされる男ではない。



「ばーか。日向のが俺様にとってどんな物より上手いんだよ」



頬を撫で、彼女の愛らしい顔を上から堪能する。

本当に?と日向が聞くと、跡部はニヤリと口角を吊り上げた。



「なら味見してみるか?」



一口、入れると日向の桜色に吸い付くようなキスを落とした。いや、落とそうとしたが失敗した。






(だ、だめだよ!そういうことは!)
(ちっ…相変わらずガードが堅いな。ならここは許せよ)
(!?だからここは外国じゃないってば!)
(…鈍すぎて俺様は泣くぞ)



彼女のが何より一番な跡部

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