本日、雲1つない快晴。

大阪四天宝寺中学テニス部は今日も今日とて練習に励んでいた。まさにテニス日和と言った天候の中、部長である白石は難しい顔をして、門を見つめていた。



「全くあのゴンタクレは…、一体どこにおんねん」



はぁとため息を吐くと、他のメンバーも心配だったらしく、テニスラケットを振る手を止めた。やはり皆同じ考えである。

ゴンタクレこと1年である遠山金太郎は言う通り、手のかかるまさにゴンタクレである。そんな遠山が何故だか部活の時間になっても来ないとのこと。確かに手はかかるが、テニスが大好きである遠山が部活に来ないなんてなかった。だから余計に心配になり、段々不安も募ってくる。


だがそんな中、門が開き、赤い髪が見えたことによって不安は一気になくなり、息をふぅと吐く音が聞こえた。門の先には遠山がいて、後ろにはまたもう1人いたことに後から気が付いた。


「姉ちゃん!こっちこっち!はよ来てやー!」
「で、でも…」
「大丈夫やって!みんな姉ちゃんに会いたい〜って言うとったし、ワイも姉ちゃんにテニス見ててほしい!」


遠山がグイグイと引っ張る女性はやはりと言うか日向であった。パーカータイプのワンピースを着た彼女は足元だけはしっかりしたスニーカー。コートに入っても大丈夫なものを選んだらしい。



「日向ちゃん…!ごめんな、うちのゴンタクレが、」
「そんなっ!私こそ勝手に入っちゃってごめんね…」
「それは全然ええねん!俺も日向ちゃんにテニス見てほしいしなぁ」
「日向さん俺に会いに来てくれたんですか?俺も会いたかったです好きです」
「財前は黙ってなさい。日向ちゃんは俺のやで?」
「は?妄想乙ですね」
「えっと、ひ、久しぶりやね。日向ちゃん」
「あっ、謙也くん!うん、お久しぶりです」
「謙也さん黙れ」


理不尽な怒りをぶつけられる謙也は置いておいて、下らない言い争いは続く。その間、金色や一氏と他愛な会話をしていた彼女はある意味最強かと思った。しばらく続いた言い争いを止めたのは連れてきた本人、遠山である。


「アカンでみんな!姉ちゃんはワイのテニス見るんや!」


遠山に言われてしまうと何となく弱い皆は渋々と引き下がる。遠山は嬉しそうに日向の手を引き、ベンチに座らせた。見ててとせがまれると日向とて断れない。可愛い遠山のお願いには弱いのが彼女。


「見ててなー!姉ちゃん!」


はーいと返事をすると元気良くテニスラケットを振り回した。ハチャメチャにテニスをする遠山だが、楽しそうにプレイするところを見て、微笑ましい気持ちになる。遠山とテニスをするとレギュラー以外は長く続かないらしく、すぐに終わってしまい、遠山はつまらなそうにベンチに座る。


「今日は白石が試合はこんだけ〜言うて、全然姉ちゃんに良いとこ見せられへんかったし、みんな弱いやっちゃ!」
「こら、ダメだよ。そんなこと言うものじゃないでしょう。頑張っているのは同じなんだから」


遠山は彼女に注意されるとプクッと頬を膨らませる。可愛くて笑ってしまいそうだったが、それではまた拗ねてしまいそうだったので、我慢。


「白石ー!試合したい!ワイと試合しようや!」
「アカン。金ちゃん、今日はこれで終いや。日向ちゃん困らせたら怒るで〜」
「うぅ…白石のアホ!」
「遠山くん、今日は我慢しよ?私は我慢出来ない子は嫌だなぁ、」
「!?姉ちゃんワイのこと嫌いになってまうの!?イヤやー!ワイ試合せん!我慢する!」


ぎゅっと抱きつく遠山を、よしよしと撫で受け止める。白石はポカンとしていたが、母のような表情をする彼女が愛しくて何も言えなかった。それより遠山が言うことを聞いたことに驚く。やはりただ者ではない。


「姉ちゃんワイのこと嫌いにならん…?」
「勿論ならないよ」
「ほんまにぃ…?」
「本当に。遠山くんのこと大好きだもん」
「ワイも!ワイも大好き!」


きゅるんとした大きな瞳が可愛くて、寂しそうな顔や嬉しそうに笑う顔も可愛くて、やっぱり彼には弱いなぁと思う日向であった。弟のようで、そして自分を何より慕っていてくれて嬉しいのだが、大阪にずっと居られるわけではない。

そろそろ神奈川に戻らなきゃいけない。

遠山だけにはまだ話せていなかった。話したらどんな反応をするのか分からなくて怖くて、話せなかった。



「あのね、遠山くん…」
「どないしたん?」
「私、そろそろ大阪から離れなきゃいけないんだ」



その時の遠山の顔はとても見ていられるものではなかった。えっ?と気の抜けた声が聞こえたと同時に眩しい彼の笑顔がゆっくりと歪んでいく。


「嘘やろ…?なぁ、姉ちゃん…?」
「嘘じゃないよ。お家に帰らないといけないの」
「何で…?ワイといたくないんか?嫌や、ワイ…」
「遠山くん、あのね、」


「嫌や!!!!!」



荒い声に日向の肩は大きく揺れる。一方遠山は瞳をユラユラ揺らし、眉を下げ、今にも泣き出してしまいそう。そんな表情にこちらまで同じ気持ちになってしまった。また遠山の声にテニス部の皆は日向たちの方へ集まってくる。



「嫌や!嫌や!!何でなん?ワイのことやっぱり嫌いになったん?」
「違うの!遠山くん、話を聞いて、」
「ここにいてくれへんの?何で…?ワイ…」
「金ちゃん、ちょっ、落ち着き?」


遠山の様子が可笑しいことに白石は声をかける。言葉を聞き、何に怒っているのか悲しんでいるのかは何となく察する。そりゃあ白石や財前たちだって離れるのは嫌だに決まっている。だが、彼女の帰るべき場所は勿論のこと家があり、学校がある場所。しかし遠山がそれを理解しないこともまた察していた。



「もうっ…知らん!」



遠山はぐるんと反対側を向き、背を向け走り出した。無我夢中で走る遠山を皆で追い掛けるが、何せ足が速いものでなかなか追い付けない。謙也は追い付きそうであったが、何も考えていない遠山の動きは予測不能で捕まえることは出来なかった。


「(姉ちゃんはワイのこと嫌いやから離れていってまうんや!白石たちも白石たちや!何で止めへんのや!!わけわからん!!)」


目尻に涙を溜め走る遠山は恐らく周りを見ていなかったのだろう。辺りはざわざわと騒がしい場所へと変わっていた。いろいろな部活が活動している。その中を猛スピードで駆け抜ける彼はかなり目立つ。


そんな遠山に物凄いスピードでボールが近付いていっていることを彼自信は気が付かなかった。気付いた時には既に遅し。遠山はくりくりした目を更に広げる。



ゴツッと鈍い音が響く。





「っ…」
「え…?ね、姉ちゃん…?」



遠山に痛みはない。代わりに日向が遠山を覆い被すように抱き締めていた。歪む彼女の笑顔にいくら遠山と言えど、流石に理解した。

自分を庇ったんだ。

ぶつかったボールは野球部のもので痛みに耐えかねた日向は地面に膝をつく。白石たちが追い付くと、彼女を見てすぐ状況を把握したのかテニス部の部室まで運ぶ。


そんなに大きな怪我ではないのだが、少しふらふらする彼女は謙也の父が経営する病院で見てもらうことに。ご好意もあり、わざわざ来てくれることになったのだがそれまで時間があるもので、座って待っていることに。



「姉ちゃん…」



泣き出しそうな遠山に日向はきょとんと目を向ける。どうしたの?と優しく声をかければ、遠山は我慢していたのか痺れを切らして彼女に抱きついた。


「…どうしたの?遠山くん」
「ごめんなさい…!ワイ、」
「遠山くんは怪我してない?」
「えっ…?う、うん、」


その答えに日向は満足したように、ふんわりと笑った。優しい優しい笑顔だった。



「良かった、」



その瞬間、遠山は我慢していた涙がぶわっと溢れだした。


「ホンマにごめんなさい!姉ちゃんに怪我させて…!ワイ、寂しかったんや!姉ちゃん大好きやから離れとうなかっただけで…!」
「…うん」
「いっぱい酷いこと言ってごめんなさい…!」


わんわん泣く遠山を日向も精一杯抱き締めた。安心させるように、優しく、愛しく、抱き締める。遠山は彼女にとってやはり可愛いのだ。どんなことを言われても可愛くて仕方ない。本当に弟のような存在で、そんな近い立場にいることが出来て幸せなのだ。


そんな兄弟のような親子のような2人をテニス部も温かい瞳で見つめていた。









(それにね遠山くん。同じ日本なんだから、また会えるよ)
(ホンマに?また会える?)
(遠山くんが会いたいって思ってくれるなら)
(会いたい!!)




可愛い子にも時には厳しく、でも優しく。ビターとミルクを上手く使って。でも可愛いことには変わりないから。




主人公の体は異常なしです。
可愛いからこそ言うときは言うべきで、正しくあるべきなのです。と言いながら可愛い金ちゃん大好きな話でした。

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