「日向さん今日の髪型いいッスね。似合ってます」
「あ、ありがとう。実は今日は上手く出来てね、気が付いてくれて嬉しいなぁ…」
「えぇぇ。何その反応。可愛いいいいいぃぃぃ」
「?」
「相変わらずキャラ崩壊しまくってるわねぇ、光は」


やってしゃあないやん。日向さんが可愛いんやもん。当然の反応っちゅー話ですわ。あ、謙也さんみたいになっもうた。こんな感じの日常に先輩が俺に言うた。



「せやけど光。ちょ〜っとグイグイいきすぎやなぁい?」
「は?グイグイいかんととられてまうでしょ」
「積極的なのはええことやけど、それじゃあ日向ちゃんは手に入らへんで〜」



な、何やて…?
先輩の言うこと真に受けるん嫌やけど、この先輩は恋愛に関しては誰よりも知識あると思う。IQ200やしな。自称乙女やし。聞いとくべきか。これも日向さんのためや。



「光の魅力はツンデレやし、押してダメなら引いてみろ作戦や〜!ギャップに日向ちゃんはメロメロになってまうかもしれへんで!」



メロメロ、やと…?

そんな下らん作戦、やるしかないですわ。









四天宝寺テニス部は今日、何故だか大掃除である。めんどいし、何でこないな微妙な時期にやるねんとも思ったし、サボろうかと思ったけど、日向さん来る言われたら行くしかあらへんやろ。

てか押してダメなら引いてみろ作戦ってどないすればええんや。とりあえず積極的にいかんかったらええんやろ。ホンマはめっちゃいきたいし、抱き締めたいんやけど、我慢。メロメロにさせるんや。


「みんな掃除場所決めるで。このくじ引いてな〜!」


白石部長がくじを持って1人1人に配る。部長は日向さんとなりたいなりたいと煩い。俺かてなりたいわ。ああ、遠くにおる日向さんがいとおしい。もどかしい。
乱暴にくじを引くと、部室と書いてあった。げぇ、部室とか一番めんどいんやけど。最悪や〜、謙也さん殴っとこ。

だが、天使の声が俺の機嫌をいとも簡単に良くしてしまう。



「あっ、財前くん。私と同じだね」



白石部長の顔が般若みたいになっとったから写メを撮っておいた。ブログにアップしたろ。
白石部長はどうでもええねん。俺は何と日向さんと同じになれた。気分は最高。


「日向さっ…!!」


せやけど俺は喜びを伝えようとする口をぐぐっと閉じる。これはまるで今までの俺や。今日は押すんやない、引くんや。本当はめちゃめちゃ話したいし、触れたい。…我慢や。我慢。


「……ッス」


短く、冷たく返答をする。意外にも一番驚いた顔をしたのは一氏先輩やった。この人は案外鋭いからな。謙也さんは鈍感やし、白石部長は今ショックで沈んどるから考える余裕はないっぽい。今までベタベタしとったからか、一氏先輩はキッツイ目をさらに細める。それは冷たくしたことに対して怒ってるみたいやった。何やねん、この人もそういう感じか。ライバル多すぎやろ。

日向さんは一瞬目を丸くさせたが、すぐにいつものように笑ってくれて、ああ、抱き締めたいと心から思った。



白石部長は最後まで渋っていたがなんとか持ち場に行ってくれた。他の先輩らも名残惜しそうに見とったが、バラバラと移動をする。ほんで今は日向さんと2人っきり。

真面目に働く彼女を見つめる。こんな美味しいシチュエーションなのに何もでけへん。


「財前くん…、その、掃除しないの?」


せっせと掃除する日向さんに対して俺はボケッと突っ立っているだけやった。疑問に思った彼女は優しい口調で俺にそう尋ねた。日向さんの手など煩わせたくないけど、我慢や。ほんまはめっちゃ手伝いたい。ああ、日向さんの綺麗な手を汚したくない。


「……めんどいッスわ」


こんな冷たい声で大丈夫なんか。俺は普段どんな感じやったっけ。分からんわ。日向さんは数回瞬きをすると困ったようにまた笑う。ええ、本当にこれでええんか。こんな顔させたないんやけど。


「ええと…、じゃあ財前くんは簡単なことだけしてくれれば大丈夫だよ」


私はこっちをやるからと言う彼女は明らかに重労働のもの。そんなものやらせるわけにはいかへん。俺がやります。そう言いたいけど言えない。クッソ、あのオカマ先輩のせいで何でこんな悩まなあかんのや。


「よいしょっ…」


重い机を小さな彼女が運ぶのを見て、いてもたってもいられなくなる。思うよりも先に体が先に動いた。思わず手が出たけど、どないしよう。何て言葉にしたらええんや。


「財前くん…?」
「ああ、ええと…」


キョトンとしている彼女の大きな瞳が俺の動揺している顔を映し出す。綺麗やなぁ、やっぱり。ああ!あかん。平常心や、平常心。いつもの俺。


「あ、あんまりタラタラやられても…、時間かかるだけッスから。えっと、」


あきまへんよ日向さん。そんな顔で見つめられると平常心とか保てへんのや。クール言われる自分を演じようとするが、口が言うこと聞かへん。カッコ悪…

嫌われたかの不安になったけど日向さんはいつもの優しくて眩しい笑顔を見せてくれた。



「ありがとう」



めんどいって言った俺を、何もせんで突っ立ってた俺を、冷たくした俺を温かい笑顔で迎えてくれる。何でこの人はこんなにいい女なんや。


「優しいね財前くん」
「…は?せやけど、俺…、冷たくしたり手伝わんかったり、めんどいとか言ったりしたやないですか…」
「ううん。今ちゃんと手伝ってくれてるよ?」


またふわりと微笑む先輩。何か今自分がしとることがアホらしくなってきた。
そうや。別に引く必要なんてないんや。引いたところでこの人の心がどうにかなるなんて思わへん。鈍い彼女のことだ。もしかしたら勘違いして、傷付けてしまうかもしれへん。泣かせるなんてもっての他や。部長にどやされてしまう。


「やっぱ止めますわ、俺」
「ん?」


ガタッと机を床に起き、抱き締めたくて溜まらんかった彼女をぎゅうっと包み込む。焦ったように腕の中でジタバタする日向さんは可愛かった。


「あー…やっぱ嫁に冷たくとか無理です。変な態度とってしもてすみません」
「えっ…?財前くん、あの、話がよく見えない…」
「これからもガンガンいくんで覚悟しといて下さい」


ちゅっと頬にキスすると日向さんは真っ赤になって固まってしまう。かわええ、かわええはほんまに。




愛しの嫁にツンデレ作戦は無理だった。





(まぁ、アタシはそんな気がしてたけどね!)
(何で言うてくれへんかったんや小春ぅ!)
(そうなんか?俺、全然気付かんかったっちゅー話や)
(財前…!あいつ日向ちゃんの頬に…!許さへん!)
(蔵リンだけ別世界ねぇ)
((先輩らうるさ…))


結果。無理だった。

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