四天宝寺テニス部と書かれた部室に日向は小さく縮こまるかのように座っていた。可愛らしいワンピースの裾をキュウッと握りしめ、どこか緊張したような様子でおろおろ目を泳がせる。



「あの、一氏くん。ええと…、私に何か用かなぁ…?」
「せやせや。俺の許可なく日向ちゃん呼び出すとかどういうことやねん」
「部長の許可はどうでもええとして、日向さん呼び出すとか許しませんわ」
「何でお前らまでおんねん」


彼女を呼んだのは一氏らしい。あまり話をしたことがない彼からの呼び出しで、彼女は緊張していたらしい。白石と財前はどこで情報を仕入れたのかは分からないが、彼女のいるところに彼らがいることは当然ということらしい。

しかし、金色がいないことは驚きだ。日向のイメージでは2人はいつも一緒にいる。一氏と話をするときは必ずと言っていいほど金色がいる。だから今日部室に入って来た時、一氏だけだったのは少し意外であった。結果的に白石と財前が着いて来たのだが。ちなみに謙也は遠山の相手をさせられていた。可哀想に。


「ちょっと頼みたいことあってな。つっても俺がやりたいだけやねんけど」
「頼みたいこと、?」
「まあそんな緊張すんなや。お前は小春が気に入っとるし、ええ奴って分かっとるから!」
「頼みたいことって…やらしいことやったら殴るで」
「いくら先輩かてそれは殴りますわ」
「うっさいわお前ら!」


ちょこちょこと白石と財前が会話を邪魔するもので、なかなか話が進まない。日向は騒がしい2人を何とか宥め、再び一氏へと向く。



「採寸させてくれへん?」
「えっ」



そんな頼み事をされて、断れるはずもなく日向はされるがまま何故か身体のサイズを測られている。白石と財前は面白くなさそうにその様子をじぃっと見ていた。


「ほな次は腕広げ」
「は、はい…!」
「うわぁ、ほっそい腕やな」
「えっ、すみません!」
「え、何で謝るん」
「ユウジ最低やな」
「何日向さん謝らせてるんすか」
「頼むから黙れ」


採寸のためなのだが、一氏との距離が近くてドキドキする。いつも小春小春と追い掛け回しているところや漫才しているところしか見ていないもので、こうも真面目な彼を初めて見たような気がした。よく見れば、一氏だって整った顔立ち。調子が狂いそうだ。


「じゃあバストとウエスト測るで」
「!?」


いくら採寸のためとは言え、バストとウエストを測られるのは女として流石に恥ずかしい。顔を真っ赤にして、後退りする彼女に一氏は頭に?を浮かべていたが、やがて何に恥ずかしがっているのか分かり、気まずそうに口を開く。


「や…別にやましいことするわけちゃうねん。そないな反応されると俺まで困るやん…」
「ご、ごめんなさい」
「先輩は引っ込んでて下さい。俺が測ったりますわ」
「えっ…、きゃっ!」


グイッと彼女を引っ張った財前は自分の腕の中に閉じ込める。そして後ろから日向を抱き締めると、彼女の胸の下に自らの腕を持っていく。形の良い彼女の胸はたゆんと財前の腕に乗る。


「…アカン。日向さん、堪らないんスけど。やらかいし、興奮してきた…」
「ざ、財前くんっ…!」
「日向さん可愛い…」
「ひっ…!ざ、財前くんっ!胸、触っちゃだめ…!」
「…襲ってええかな」


暴走している財前を止めたのは鬼の形相をした白石である。ビリビリと引き離し、自分の方へぐぐっと彼女を寄せる。財前はと言うと感覚でバストを測ったらしい。信用出来ないが一氏は一応書き込んでおく。

次はウエストだが、一氏がメジャーを持ってこようと近付くと無意識であるが彼女はさっと後ろに下がる。やはりウエストは知られるのが恥ずかしいらしい。涙目でごめんなさいと謝る彼女に一氏も何も言えない。


「恥ずかしいんか?大丈夫やで、俺が測ったるからな」
「蔵ノ介くん…?」
「照れた顔もエクスタシーやなぁ…、ほな測るで〜」


白石は彼女の腰にシュルリと腕を通す。日向はいきなり巻き付いてきた白石に驚き「ひっ」と声を上げる。首元や髪の毛に口つけながら、腰にある腕を器用に動かす。


「んっ…、蔵ノ介くんっ、くすぐったい…」
「日向ちゃんが可愛いからついなぁ…」
「自分で測るからっ、いいよぉ…」
「ん?それはお断りやなぁ」
「んんっ、!耳は止めてってば…」
「日向ちゃんかわええ…」


今度は白石が暴走したため、財前は冷たい顔で白石に飛び蹴りを喰らわせた。白石は結構飛んだが、一氏にウエストのサイズを報告。目測は得意らしく、自信満々。

残りは細かいところを測り、終わりというところまで来た。煩い白石と財前はと言うと結局のところ遠山に連れて行かれなくなく部室を離れることに。
つまり今は一氏と2人きりというわけだ。始めこそ緊張はしていたものの、現在はリラックスしている。少しは緊張しているが、居心地が悪いわけではない。


「一氏くん。どうして採寸しようと思ったの…?」
「ん?あぁ、えっとな、俺服とか作るん得意なんやけど、作った服をお前に着てほしいな〜思ってな」
「えっ…私に?」
「せやで。何かお前見て、あれ似合うなぁとかこれ着てほしいなぁとかいろいろ浮かんだんや」
「あっ、ありがとう。何だか、嬉しいなぁ…」
「…そない素直やと調子狂うわ」


ポツポツとだが会話は続いていた。鋭いイメージであった一氏だが、やはり見た目で判断するべきではない。優しい人だ。そう彼女は感じていた。


「よし、終いやで」
「お、お疲れ様です」


テキパキとメジャーやら何やら片付けていく一氏に日向は手伝うことはないかと探していた。とりあえず彼に何かないか聞こうとした矢先、足元が揺らぐ。下に置いてあったトレーニングの器具に躓いてしまったらしい。

後ろに揺れる彼女に気が付いた一氏は「危ない」と日向の手を引き、持ち上げようとしたが既に床と近かったためか、それは出来ず、そのまま倒れてしまう。

頭に衝撃が走ると思った彼女はギュッと目を閉じ、その痛みを待ったが、いつまでたってもそれがやってこない。不思議に感じた彼女はゆっくり目を開けた。



「ひ、一氏くん…?」
「アホ!大怪我したらどないすんねん!!」



後頭部には彼の手添えられており、支えてくれたおかげで痛みはなかった。自分の目の前にいる彼は焦ったように怒っていた。その迫力に思わずごめんなさいと呟く。ふぅと息を吐いた一氏には「気ぃつけなアカンで」と何度も注意された。


「あの…、一氏くん…」
「何や?怪我したか?」
「う、ううん。その…あの…、退いてもらっても大丈夫かな…?」
「…っ!!!!!?」


今の今までどのような状況か理解していなかったが、今の彼らはどう見ても押し倒している男子と押し倒されている女子にしか見えなかった。いつもより近い顔、女の子特有の香り、そして柔かさ。何もかも初めてであろう一氏は真っ赤になり、己の状態を理解した。

そしてすぐさま退こうとした時にタイミング良く(悪く)、帰ってきた彼ら達。



「金ちゃんほんまにゴンタクレやわー。おーい採寸終わったかユウ…ジ…」
「!!白石!?ちゃうねん、これは」
「ユウジィィィィィ!!何を思って俺の日向ちゃん押し倒してるねん!!許さへんで!」
「せやから誤解やって!」
「先輩、死ぬ覚悟出来てるんすか?てか殺しますけど」
「財前もか…!話聞け言うとるやろ!!」
「問答無用や」
「問答無用ッスわ」





このあと日向の懸命な説明により、一氏は何とか命を守ったらしい。





(日向ちゃんに着せたい服作ってくれたら許すで)
(…しゃあないな)
(メイド、ナース、制服、コスプレ…)
(ウェディングドレスも見たいッスわ)
(コイツら死なへんかな…)




今回は一氏くんでした。

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