カーマインの包み袋はまさしく財前の好きな色。黄色のリボンも大きく主張していない程度に添えられた小花も何もかもが良かった。
あまりにもラッピングを凝視するもので、日向は何か不満だったかと心配そうに見つめていた。
「今日、バレンタインだから…あの、財前くんに何かお礼がしたくて…、」
もしかしたら迷惑だったのかもしれないと不安な彼女は頬を染め少し涙目となる。「可愛すぎてツライ」と財前は頭を抱えて悶えていた。
「迷惑、だったかな…?」
そっと上目遣いで覗き込む彼女に財前のライフは0になりそうになる。不安そうな瞳はガラス細工のように透き通っていたのだ。
「迷惑なんてありえません。寧ろ嬉しくて泣きそうッスわ」
嬉しさを伝えると日向は眉を垂らし、へなりと笑った。その表情にまた財前はやられてしまう。
「あのね、財前くんはカーマインが好きな色って聞いたから、包みもそれっぽいのにしてみたんだぁ」
自分の好みまで把握してくれているという事実に財前は感動した。確かに日向がカーマインの袋を出した時に少なからずドキッと期待していたかもしれない。
「えぇぇぇぇ…もう、日向さんかわええ…」
抱き締めていいですかと聞きながら、既に彼女をぎゅうと包み込んでいた。日向はあわあわと慌てながら、でも突き放すことなど出来ないので、されるがまま。
「そういえば、何か日向さん雰囲気ちゃいますね。何か服とか色々…。可愛さ倍増ッスわ。いつも可愛いんスけどね」
「そ、そんなことっ…!もう、冗談は止めて…」
ピンクの頬をした彼女は財前をぐいぐい押して、離れてしまう。えーっと財前は残念がっていた。
バレンタインということで日向は安定の洒落た格好だ。シフォンのスカートから見える足がこうも魅力的に見えるのは何故だろう。
「…照れた日向さん最高。というわけで開けてもいいッスか?」
「あ、ぅ…ど、どうぞ…」
ううーと両頬を押さえる彼女に優しい瞳を向ける財前はカサカサと丁寧に丁寧にカーマインを開け放っていく。最後にリボンを解くと、箱をぱかりと開けた。
「何個か作ってみたんだけど、財前くんは生チョコかなぁって」
種類を様々作ったらしい日向はその人のイメージなどで何をあげるか決めているらしい。(多々被ることがある)
「…うわぁ、めっちゃ嬉しいッスわ。日向さん、料理上手いんスね」
「良かったぁ。ありがとう」
安心したように日向が微笑むと、財前も同じように笑った。財前のこのような笑みはとてもレアだ。彼女しか見れないかもしれない。
「じゃあ早速いただきます」
生チョコを1つ手に取る。ずっと手の中にあったからか、少しくにゃりと柔らかかった。ぱくりと口に入れるとチョコレートの甘みがふんわり広がる。感想は率直に美味しい。彼女から貰ったこともあり、何倍も美味しい。
「ちょっと溶けちゃってたかな…?ごめんね、手に付いちゃったよね」
確かに財前の手には溶けたチョコレートが付いていた。申し訳なさそうに謝る日向。財前は大丈夫だと告げ、指をペロリと舐める。すると彼は何かひらめいたかのように指をじっと見つめた。
「なら、日向さん。食べさせてもらっても良いですか?」
財前に手首を掴まれ、日向は「えっ」と声を漏らす。掴まれた手首がじわじわ熱くなり、何だか顔まで熱くなった。
でも手が汚れてしまうのも事実。折角、お礼としてあげたのだから汚してしまうわけにもいかないので、日向は決心し、生チョコを1つ摘まむ。やはりそれは柔らかく、ペタッと手に付く感触がした。
財前を口に近付けると、彼は口を開いて、彼女の手からそれを受け取る。モグモグと口を動かしていることを確認すると、日向は手を彼から離し、鞄の中にあるハンカチで拭こうとした。
しかし、財前は日向の手を掴んで離してはくれない。日向は不思議そうに財前を見つめ、手を拭きたいのだと伝えると、財前の口角が上がり、ニヤリと不適に笑うのだ。
「財前く、!」
財前の舌が日向の手に取り巻くチョコレートを器用に舐め、拭き取っていた。ねっとりした熱い舌はぬるりぬるり彼女の手を侵食する。
「ぁ…、財前、くん…、ダメ、だって、」
くすぐったい感覚に襲われ、自然と声が微かに溢れ出る。完全にチョコレートが取れても尚続けるこの男。頬を赤く染め、涙ぐんで、やだやだ言う日向を見て、財前は興奮を抑えきれなくなりそうだった。
「……ごちそうさん」
ペロリと自らの唇をひと舐めすると、財前は立ち上がる。
「チョコありがとうございます。後はゆっくり食べますわ。指、舐めてすんません」
日向の頭を撫でると、そのまま早足で帰って行く。何故だか焦っているようにも見えた。
因みに日向はと言うと、恥ずかしさでどうにかなってしまうくらい真っ赤になってしばらくそこにいたらしい。(そこに白石が迎えに来たとか)
「…やば」
(あのまま続けてたら、)
(確実に襲ってたわ、俺)
「ほんまあかんわ」
いつもと変わらないかと思いきや、興奮してた財前