ストーカー被害 1
「や、やだ…、また…?」
下駄箱を開けると、1枚の紙切れと1輪の花が置いてある。宛先の記されてしない手紙。ここ数週間、毎日続いていた。
手紙の内容は『貴方を見ている。愛している』というそれだけ。ぞわりと鳥肌がたつほど怖かった。
私には彼がいる。付き合って随分と経つ彼がいて、周りも公認するくらい知れ渡っているくらいなのに、この手紙の主は止めようともしなかった。
「おはヨ。日向チャン」
「!あっ…、おはよう靖友くん」
背後から声がして、驚いて一緒だけ肩を跳ねらせてしまった。何せこの手紙のせいで物事に敏感になってしまったのだ。
でも声をかけてくれたのは、他でもない私の大好きな彼の荒北靖友くんである。私がビクッとしてしまったせいか、彼は不思議そうに眉を歪めていた。
「…どうしたのォ?」
「な、何でもない…、ごめんね、ちょっとびっくりしちゃって…」
「ふーん。で、それナァニ?」
「こ、これは…!あっ、」
手の中にある手紙を簡単に奪われてしまう。隠してたのに、こうも見つかってしまうものなのか。
靖友くんは手紙の内容を一通り読むと、手紙をグシャリと握り締めた。あれ…これ、怒ってるよね。
「…これ、いつからァ?」
「えっと…1ヶ月前くらい、から…」
「ハァ!?何で言わねェンだヨ!!」
「ご、ごめん…!靖友くん、忙しそうだったし…迷惑かなって…」
「バァカ!ンなわけねェだろ!!」
ごめんとまた謝ると靖友くんはちっと舌打ちをした。手紙をビリビリに破り、私の方へ目を向けると、手を握ってくれる。いつもは嫌がるのに…。
「…彼女がこんな目に合ってンのに怒らねェ男がいるかヨ。くそっ、どこの男だァ…」
彼の優しい温もりに思わず涙が溢れ出る。靖友くんはそんな私を見て、ぎょっとしていたけど「俺を頼れヨ」と抱き締めてくれた。ああ、安心する。
それからというもの、靖友くんは毎時間と言っていいほど私の元へと来てくれた。自転車部の人達にからかわれていたけど、それでも来てくれた。学校だけでなく、行きも帰りも家まで来てくれた。私って幸せなんだって実感したよ、靖友くん。
「いつもありがとう。靖友くん」
「うっせ!」
今日も家まで送ってくれた。毎日疲れてるのに、靖友くんは何の文句も言わず、私の手を握る。
「最初はすごく怖かったけど、今は靖友くんが傍にいてくれるから怖くないの。だからありがとう」
「…バァカ、傍になんていくらでもいてやるっての」
不安になる帰り道も彼がいれば何も怖くない。大きな手を感じながら、私は家に着いた。
「靖友くん、いつもありがとう」
離れたくないけど、彼も帰らなくちゃいけない。ありがとうと何度も言うと、またうるさいと言われてしまった。でも耳が赤いの見たからね。
「靖友くん」
「あァ?何だ…!!?」
身を乗りだし、男の子なのに綺麗な肌をした彼の頬に短いキスをした。やだ、恥ずかしい。赤くなる顔を隠そうと、じゃあねの玄関に入ろうとしたが、それは彼によって阻止された。
「ちょっとズルいンじゃナァイ?するならココでしょ?」
「え、靖友く、ん…!」
今度は唇に甘いキスをされた。長い長い口づけは苦しかったけど幸せだった。結局私達はその日、離れることはなかった。
翌日、朝一緒に登校し、また下駄箱を開けた。ドキドキしたけど、隣に靖友くんがいるから大丈夫。中を覗いて見ると、何もなかった。終わったんだ、私はそう思った。
「靖友くん…!何も入ってなかった!」
「良かったンじゃナァイ?まぁ、相手もやっと分かったってことだな」
「靖友くん、本当にありがとう!大好き!」
「なっ…!てめェ!いきなりくっつくンじゃねェヨ!」
抱きついたら怒られたけど、照れてるんだよ。知ってるからね。でも靖友くんがいてくれて良かった。
しかし、まだ終わってはいなかった。
それは放課後。
私は靖友くんの部活が終わるまで彼を待っていようと、自転車部の近くまで来ていた。
お礼に何か奢ってあげようかなとか、それで照れた彼の顔が見たいな、とかそんなことばかり考えていた。
だから気が付かなかった。
後ろに人がいたことを。
「っ!」
「どうした?」
「あ、ああ福ちゃん。いや、何か胸騒ぎっつゥか…」
「彼女のことか。でも事件は片付いたはずでは、」
「靖友、スッゴい怒ってたもんね」
「新開うっせ!」
「大事な彼女だからな」
「福ちゃんまで…、片付いたはずなンだけどよォ、何かなァ…」
「おお、荒北!ここにおったか!」
「あァ?何だよ東堂」
「いや、お前の彼女が先ほど知らない男といたのを見てな。一応報告をと思って」
「男!?誰だヨ!?」
「彼女と同じクラスの人間だろうが、俺もよく知らんのだ」
「それってヤバいんじゃあ…って靖友もう行っちゃったか」
(少しでも手出してみろ…)
(ぶっ殺してやるヨ)
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