誰にもあげない

ガチャリ。
玄関の扉が開くと、そこに、




「おねえちゃん、だぁれ?」




目の前に天使がいました。





「こら太陽、勝手に出るな言うとるやろ」
「ひ、光くん」


小さな子供の後ろからは不機嫌そうに顔を歪める光くんがいた。何だか二人とも似てるような気がする。


「すいません先輩。こいつ太陽って言って、俺の甥っ子なんスけど、今日急に預かれって言われて」


今日は光くんとお出かけの予定だったけど、メールで行けないかもと言われのはこういうことだったのかぁ…。


「今日、映画の予定だったのに、ほんますみません、」
「ううん。こっちこそ、家まで来ちゃってごめんね…?」


一目だけでも会いたくて、緊張しつつ家まで来てしまった私。何て面倒くさい彼女なのだろうと思いながらも、作ったお菓子を渡すということを口実に光くん宅まで来ました。


「わざわざ来てくれたんスよね?めっちゃ嬉しいッスわ…」


さらりと私の髪を撫で、光くんは微笑んでくれる。玄関から刺激が強い…!



そして光くんが何か言いかけた時、小さな彼が私の服の裾をくいっと引っ張る。


「ねえねえ!それおかし?ぼくほしいー!」

「……」

「あっ、じゃ、じゃあ食べようか!」


太陽くんに手を引かれ、光くんの家に入る。心の準備出来てなかったのに…嗚呼、お邪魔します。


箱を開けると太陽くんはキラキラ目を輝かせていた。可愛いなぁ。


「じゃあ、太陽くんはシュークリームで、光くんは善哉」
「え、善哉作ってくれたんスか?」


光くんは善財が好きらしい。
だから驚いてほしくて、内緒で作ってきた。


「…日向先輩、本当最高ッスわ。あーもうほんま好き」
「きゃう、」


光くんは相当嬉しかったみたいで、私の頬に軽くキスをする。恥ずかしかったけど、ちょっと嬉しい。白石くんにこっそり聞いてみて良かった。


太陽くんはほっぺたにクリームを付けてパクパクと食べており、光くんも無言だったけどもぐもぐ食べてくれる。

するとふいに光くんは私の方を向いた。


「先輩…もしかして二つしかないんじゃ…」
「えっ!あ、わ、私はもう食べちゃったからっ…」


私は光くんと私の分しか作っていなかった。でも太陽くんにバレたらいけないと思い、しーっと指を口に当て、それを伝える。


「…先輩、ん。」
「えっ?あの、光くん…」


光くんはスプーンを私の前に差し出して、止まる。えっと、これは…?


「何ぼさっとしてるんスか?あーんして下さい」
「えっ、あっ、いや、!」
「ほら、早く」


何だか開けないといけない雰囲気になっていたので、恥ずかしいけど口を開けた。


パクリと入れると善財の独特の甘さが口いっぱいに広がるのだ。良かった、上手く出来たみたい。


「あ、ありがとう。ごめんね、光くん、善哉大好きなのに…」

「アホですか。大事な彼女が何も食ってへんのに一人だけ食っとるわけないッスよ」


大事な彼女だって。やだ、すごく嬉しい。



「おねえちゃん、たーのもあげるー!」


太陽くんがクリームでいっぱいの顔のまま、フォークを私に差し出してくれた。 でもフォークには何も乗っていない。えっと、気持ちだけでもってことかな。


「ありがと…」


何となくお礼を言いかけた時、太陽くんの幼い顔が私に近づけられ、次の瞬間、ちゅぱっと唇に太陽くんの小さな唇が当たった。


「た、太陽くんっ…!」
「太陽っ!何してんねん!」


光くんが声を上げるのが珍しくて圧倒。太陽くんはへへへと可愛らしく笑って、私の腰にぎゅっと抱きつく。


「ぼく、おねえちゃんをおよめさんにする!」
「太陽っ、!離れや!」


その後、言い合いが(と言っても光くんが一方的に)続き、太陽くんは私の元に逃げてきた余計光くんが怒っての繰り返し。
そして太陽くんは疲れて、寝てしまった。



「ふふ、光くんお疲れ?」
「当たり前ッスよ…あのガキ、ほんま嫌やわ、」


光くんは、はぁと息を吐き、ベッドで寝てしまった太陽くんを起こさないように床に腰下ろした。


「ちょっと充電」


光くんはそう言うと、ぎゅっと私を後ろから抱き締めてきた。ふわり、光くんの匂いが鼻を掠める。


「ひ、かるく…」
「俺、嫉妬深いんス」


ドキドキ心臓が五月蝿い。
光くんに聞こえてしまいそう。お願い、光くんの声が聞こえないから鳴りやんで。


「子供だって、甥っ子だって誰だって、女にも男にも嫉妬します。俺の先輩は俺しか触ったらアカンのです」


真っ赤になる顔で光くんをじっと盗み見た。眉を歪めた彼の顔が切なくて、きゅんと胸が高鳴る。どうしようもなく愛しいのだ。


「勿論、キスも俺だけ」


くいっと頬に手を添えられ、顔を向けられる。至近距離の光くんの顔に私の頬は熱が集まる。恥ずかしい。


優しく、深く、唇は重ね合わせれた。

光くんのキスはとろけるくらい私を虜にする。依存させられる。


「んぅ、は、ふ…」


熱い熱い舌が絡み合う。


「先輩可愛い…」


光くんは私をとっても甘やかしてくれる。優しくて、優しくて、私は罰が当たってしまうかもしれない。



「私も、嫉妬深いよ…?光くんは私のだもん。光くん、人気者だから不安になっちゃう、」


私から離れていかないかなって。正面から光くんに抱きつき、彼の肩に顔を埋めた。


「ちょっ、先輩…それ、反則ッス…」


光くんは手で顔を覆う。
耳が少し赤かった。


「俺は先輩だけしか、こんなことしませんし、優しくしません。日向先輩、好きや。一生離したりません」


ぎゅーとしてくれる光くん。照れたその顔はとっても好きな表情。


「だから、白石部長とも話したらあかん」
「えっ?知ってたの…?」
「当然。俺の好み聞いてたみたいッスけど、先輩の作った物なら全部好きですから」
「っ、ズルい…」



光くんは、やっぱりこの意地悪な顔が一番好きかも。







(おねえちゃん、ぼくとけっこんしようねー!)
(あかん。このお姉ちゃんは俺のお嫁さんになるんや)
(ひ、光くんっ!)
(えー!やだ!)
(やだって元々俺のやしふざけんな)
(言い過ぎだよ…!光くん!)
(ううーおねえちゃん!ひーくん怖い!)
(このガキ)


end


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