続 それは恋だよ

箱根学園の門を潜る男は筋肉のついた体に似合わず、可愛らしい女の子のお面を身に付けていた。パーカーとズボン、斜めがけの鞄と言うラフな格好にはそのお面はあまりに浮いていて、チラホラいる生徒は奇妙そうに彼を見る。



「(自転車部どこかなー)」



手に持つのはキャラクターの飴。隙間からうかがえる厚い唇はペロリと飴を舐めた。

新開隼人の弟、新開悠人は周りの目など気にすることなくマイペースに自転車部の部室を目指す。見つけることはそう難しくなく、案外簡単に部室を発見することが出来た。

練習の最中なのであろう、人は誰1人としていなかった。無人の部室。だが、1人、新開悠人が探し求めている人物が確かにそこにいた。



「悠人くん…?」



家に遊びに来た時からずっと会いたいと願っていた彼女。大きな瞳に写った自分に満足そうに笑うと悠人は彼女へと近付いて行く。彼女もまた嬉しそうに笑っていた。


「わあ、久しぶりだね。悠人くん元気にしてた?少し背が伸びたんじゃない?」
「はい。日向さんも元気そうで何よりです」


こちらに来るなり彼女は悠人の手を握り、久しぶりに会ったからか、少し興奮気味に話し出す。悠人は彼女の手の温もりを感じながら、背の低い彼女に目線を合わせた。

少し大きな箱学ジャージも2つに括られた髪も悠人にとっては何もかも可愛いのだ。香る甘い匂いに正直クラッとする。


「わざわざ箱学まで今日はどうしたの?」
「日向さんなかなか会いに来てくれないから会いに来ちゃった。寂しかったです」
「うふふ、ごめんね。隼人くんが家に来ちゃダメだって厳しくて」


やはりか、と悠人は飴をガリッと噛んだ。彼女に想いを寄せているのは自分だけではなく、兄である隼人の他に自転車部の何人かはそうであろう。薄々感ずいてはいたが、今まさに確信に変わった。


「まあ、こうして会えたからいいですけどね〜」
「ふふ、悠人くんは甘えたさんだなぁ」


悠人はするりと忍び寄るかのように彼女の腕の中へと自らの体を近付ける。ぎゅうと抱き締めると柔らかい感触がした。撫でてくれる手が気持ちくて思わず目を閉じる。


このまま、キスしてしまおうか


悠人はそっと彼女の唇に顔を寄せる。1p1p、彼の厚い唇が日向の綺麗な色をしたソレに近付いてくる。

「(あと少し…)」



重なろうとしたものはやはり第三者によって阻まれる。





「何してるのかな?悠人」
「…兄貴」


日向の肩を持ち、悠人から離すのは似たような顔立ちをした兄、新開隼人である。後ろには荒北や東堂もいる。厄介なことだ。


「ったく!おめェもフラフラついてくンじゃねーヨ!」
「えっ、でも靖友くん、悠人くんは知ってる子だよ?」
「何はともあれ日向ちゃんが無事であってくれて良かったぞ!」
「無事なんて…、尽八くん大袈裟だよー」


あっという間に自分の元から兄や荒北、東堂に囲まれてしまう彼女。一緒にいられない彼女への道のりは長い長いものだった。

邪魔をする彼らは悪い悪い魔女達。囚われるのは可愛い可愛いお姫様。それを助けるのが王子様の役目。



「俺は俺なりに頑張るから、さ」
「!?」



悠人は自分の面の唇を日向の唇に押し当てる。自分の代わりにキスをさせるかのようにお気に入りの面を彼女へ。

これは宣戦布告。




「覚悟してよね、お姫様」




こればっかりは負けられない。









(悠人てめェ!!?)
(弟くん!!ならん!それはならんよ!!?)
(…いくら悠人でもこればっかりは許せないなぁ)
(俺だって、いくら兄貴達でも譲る気ないから)
(何が何だか…?)
(む?)←今来たので状況が分からない福ちゃん


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