指先は甘い角砂糖


「東堂くんどこ〜?」
「新開くん見たぁ?」
「あっちいるって!」
「嘘!?早く行かなきゃ!」


今日はやけに女子達がうるせェと思ったら、さっきの授業は調理実習だったらしい。あっまい匂いの袋を持って、チョロチョロうっぜ!東堂と新開探すのは自由だケド、俺にいちいち聞くなっての。あいつらの居場所とか知るかヨ。
他の男子は可哀想だネ。多分、女子の手作りはほとんどあいつらの手に渡るだろう。新開とか貰うだけ食うから女子はほっとかねー。

近くにいた男子は俺に「東堂と新開ばっかズルいよな」と言う。「別にどうでもいい」と返すと、「本当はお前も欲しいんだろ?」と哀れんだ目で見られる。ハ?何だこいつ、ぶっ飛ばしてェ。



「あっ…!や、靖友くん!」


悪いケド、俺にはちゃんとくれる可愛い彼女がいるンだわ。

小さな袋を両手でぎゅうと握り締め、教室で大声を出すのさえ恥ずかしく頬を赤くする可愛い彼女。ふわふわな髪を揺らし、俺を見つけるとパァと顔を輝かせる。


「どうしたのォ?日向チャン」
「あの、あのっ…、調理実習でクッキー作ったの。靖友くんに食べてほしくて、その、」


何で来たかは分かってたのについつい聞いてしまう。恥ずかしそうに躊躇いながら言う姿が見たいからわざとしてるなんて言えば怒る?いや、ぷくりと柔らかい頬を膨らませるだろう。ヤッベ可愛い。

まだ近くにいた男が「可愛い」と俺の彼女に向かって呟いたものだから、イラついて日向チャンの腕を掴む。別の場所に行くと言えば黙って頷く彼女。「何で荒北なんかにあんな可愛い彼女が…!」と恨めしそうに見ていた。オイ、なんかってどういうことだ。俺に彼女いちゃいけねーのかヨ。

まあ、何でこんな可愛い奴が俺の彼女になってくれたかなんて、俺だって未だに分かンねェっての。

適当に人が少ないところに到着すると、日向チャンは袋を広げて俺に中身を見せる。綺麗に仕上がっていて、嫁に欲しくなった。実際欲しいが。


「結構綺麗に出来てンじゃナァイ?」
「うん。だからね、早く靖友くんに食べてほしくて…」


何この子天使?
東堂や新開なんて目もくれず一目散に俺のところに走って来たのかと想像すると、嬉しくて優越感が溢れる。


「ン」
「ん?」
「食べさせてヨ」


たちまち日向チャンは真っ赤になって口をパクパクさせる。ウン、いい反応。この前、イチャイチャするクソカップル見て、バカじゃねーの?と思ったケド、自分は別。つか、気持ち分かったかも。

早く、と目で訴えると彼女は諦めたのか決心したのか白い細い指でクッキーを摘まむ。そして、俺の口元に運んだ。パクリとそれを入れると甘い味が広がる。あ、上手い。


「や、靖友くん…、手、離してくれないの…?」


そわそわさせながらこちらを見る彼女の手を俺は離さない。不思議に思ったのか、尋ねるが離す気など更々ない。


「離さないヨ」


指に付いていたクッキーの残りカスをペロリと舐めると、日向チャンは肩をビクリ揺らす。離れようと手を引いたが、そんなこと許すわけねーヨ。さらに力を強くし、指を舐める。たまに、噛みつくと小さく吐息を漏らした。マジ可愛いし、堪んねー。腰を抱き締め、引き寄せる。ちっせーなァ。首筋を舐めたり、噛みついたりするたび体をモゾモゾさせる。抵抗しないケド、何かなァ…

時々、何で俺と付き合ったのか疑問に思うことがある。コクったのは俺だし、OKしてくれて嬉しかった。でも日向チャンは可愛いし、モテると思う。恋愛に敏感なタイプじゃないケド、よりによって元不良で口の悪い俺。大好きだし、別れる気は絶対ない。でも何でだ?

そんな考えの中、俺の腕にいる日向チャンが顔を上げた。上目遣いにドキッとする。俺より随分と大きな瞳が俺を射る。

そして頬を朱にし、ピンクの唇は遠慮がちに開かれた。


「…指だけじゃ、いや」


恥じらう姿にゴクリ、唾を飲み込んだ。指だけじゃ嫌とはどういうことか。そう思った。考えろ俺の小せェ脳ミソ。何かをねだってるっぽい。そんなこと普段絶対しない日向チャンがだぜ!?分かれヨ俺のバカ!

日向チャンは言葉を続ける。今度は俺に分かるように、はっきり言った。



「指ばっかじゃなくて、口にちゅうしてくれなきゃ、いや…、」



俺の思考はショートする。めっちゃ焦ったし、爆発しそうだった。だけど、俺だけが好きってわけじゃねーって分かって、ホッとしたし、ものすげェキスしたいと思った。可愛い。本当に可愛すぎて困る。



「…そんな言葉、どこで覚えて来たンだヨ」



新開とかだったら殴る。

日向チャンの顔に手を滑らせ、グイッと近付ける。真っ直ぐな瞳は俺を可笑しくする。



「キスだけじゃ済ませねェから」



唇も指先も体も全部マジあっめェ。

でも甘いのは嫌いじゃない。
寧ろ、もっと喰いたくなる。


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