譲れないもの

私には小さな頃から仲の良い、謂わば幼馴染みのような男の子が2人いた。2人は兄弟で、私は兄の方と同じ年。でも年など関係なく、私は2人が大好きであった。

でも段々と年齢が上がっていく内に、兄弟はピリピリと雰囲気が変わった。私がいると2人は少し口喧嘩をするようになった。私は邪魔なのかな、いちゃダメなのかな、そう思い始めてしまう。
高校生となった今は、兄の方は箱根学園という寮に入ってしまったため、なかなか会えない生活を送る。最後に話したのは随分と前のこと。寂しそうな顔で私を抱き締めたことを覚えている。


そして、今日はそんな彼が久しぶりの帰省だ。私は家に呼んでもらった。ちょっと嬉しかった。微妙な関係だったから、また仲良くできるのかって思った。一足先に私は家にお邪魔する。そこには両親はいなくて、弟くんが1人。聞けば両親は旅行でいないから、私に料理をしてほしいとのこと。それでも呼んでくれたのは嬉しかったので、2人の大好物をいっぱい作ってやろう。私は気合いを入れる。


「日向ちゃん、何作ってるの?」
「今はケーキだよ。あ、これ並べてくれる?悠人くん」


悠人くんはフラフラと立ち上がると、お皿をテーブルに並べていく。垂れた瞳が可愛くて、思わず笑ってしまう。彼ら兄弟は本当に顔立ちが似ている。違うのは髪の色や体つきくらいだろうか。


「日向ちゃんのケーキ好き。前持ってきてくれたのも美味しかったなぁ」
「悠人くん1人で食べちゃったって聞いたよ?分けてねって言ったのに〜」
「俺のだもん」


年下だからか、やっぱり悠人くんは可愛くて仕方がない。だもんって唇を尖らせるのも可愛いなぁ、全く。


「こうしてると日向ちゃん奥さんみたいだね」
「じゃあ悠人くんが旦那さん?」
「当たり前じゃん。俺しかいないでしょ?」


悠人くんはテーブルにお皿を並べ終わると、私の背後に回って腰をぎゅむりと抱き締める。ああ、何かこうしてると悠人くん成長して、男の子になったんだなって実感する。


「悠人くん身長伸びたなぁ」
「日向ちゃんが小さいんじゃない?あ、生クリームついてる」
「ひゃっ…!も、もう、舐めないでよ」
「ここにもついてる」
「んっ…、ゆ、悠人くん!くすぐったいっ、ぁ」


悠人くんが頬を舐めたり、唇を舐めたりするもので変な声が出る。それと同時に彼の行動はどんどんエスカレート。悠人くんはスキンシップが激しい子だから悪ふざけだよね、と思っていても今日はちょっと酷い。誰か止めてと助けを求めているとリビングの扉が開いた。


「ただいま…って何やってるの悠人」
「隼人くんお帰り。今は日向ちゃん食べてる途中だから部屋にでもいてよ」
「は、隼人くん助けて…」


帰ってきたのは隼人くんだ。私達を見るなり、ものすごい形相で睨んでいたけど、助けを求めるとズルズルと引き剥がしてくれた。流石です。


「ふざけるのも大概にしろよ悠人。日向、大丈夫?」
「えっ、あっ、うん…」
「もう家に来てたんだな」
「えっと、隼人くんのご両親が旅行でいないみたいで、私がご飯を作りにですね…」


隼人くん怒ってる。悠人くんをギラリと睨み付けるんだもん。悠人くんも同じように睨むから私はここにいにくくなった。どうして喧嘩するんだろう。


「は、隼人くん疲れてるでしょう?あの、お風呂も沸いてるし、着替えもしないと!」
「ん?ああ、悪いな。奥さんみたいだな、おめさん」
「もう、2人して同じこと言わないの」
「そうそう。日向ちゃんは俺の奥さんだから」
「…悠人、あんまりふざけるなよ」


やだ、また喧嘩かな。私を挟んで喧嘩なんて何回目だろう。私がいると、どうして喧嘩するの。仲良かったじゃない。


「あっ…、じゃあ私帰るね」
「えっ、せっかく帰って来たのに日向がいなきゃ意味ないだろ?」
「で、でも私がいると雰囲気悪くしちゃうから…」


帰ろう。それがいい。兄弟だけでいる方がきっといい。前みたいに仲良く出来ないんだ。
でも隼人くんが私の腕を掴み、離してくれない。離してよ。私がいたらもっともっと喧嘩するんでしょう。前みたいに仲良くしたいだけなのに、年が上がるとダメなの?男と女じゃ無理なの?あっ、涙出てきた。


「泣いてるの?日向ちゃん…」
「…どうして喧嘩ばっかするの…、私は前みたいに仲良くしたいだけなの…、やっぱり無理なの…?」


いつ以来だろう。こんなに大粒の涙を流したのは。小さな頃、泣き虫だったのは隼人くんと悠人くんだったのに。いつの間にか大きくなって格好良くなって、男の子になって。私を置いてきぼりにする。私は追い付きたくて努力した。勉強も運動もお洒落だってした。けど、離れてしまう一方だった。一緒にいたいのに、2人共大好きな私は贅沢なのでしょうか。


「私を、置いてきぼりにしないで…、一緒にいたいよっ、私、隼人くんと悠人くん、大好きなんだよぉ…!」


わんわん泣く私を見て、彼らは今何を思っているのだろう。面倒くさい、鬱陶しい、そんな風に思っているのかな。

優しくて、私が困っていると必ず助けてくれるお兄ちゃんみたいで頼れる隼人くん。ちょっとだけ我が儘で飄々としてるけど、甘えん坊な悠人くん。
私はそんな2人と幼馴染みという特別な立場で生まれてきたことに感謝している。幸せだと感じる。だから、傍にいたい。


突然、温もりに包まれた。温かくて大好きな匂いがする。ゴツゴツした男らしい手。これは隼人くんだ。


「ごめんな…、大切な子にそんな辛い思いさせてたなんて最低だ…」
「隼人、くん…」
「今日な、おめさんに会えるの楽しみにしてたんだ。やっと会える、大好きな日向に。俺の大好きな、」


言葉を遮るかのように、今度は別の温もりが私を包む。隼人くんとは違って少し細身の体。悠人くんだ。


「俺だってずっと一緒にいたい。こんなに近くにいても、足りない。毎日会っても足りないんだ」
「悠人くん、」
「ごめん、日向ちゃん。大好きな日向ちゃん泣かせるなんて本当に最低だ」


前と後ろからぎゅっと込められる力にこんなにも安心する。私、一緒にいていいんだ。隼人くん、悠人くん、私もね大好きだよ。同じ顔してて、性格とか全然違うけど、そんな2人が大好きなのです。


2人の大好きがこの時は分からなかったけど、意味が分かるにはもう少し先になります。

今はまだ何も知らない私。





(悠人には、)
(隼人くんには、)

(絶対あげない)


何これ意味分からん。
一気に書いたから意味分からん。


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