酒の力も悪くはない
「ねーねーどこ行くのォ?日向チャン大胆だねェ」
「もう、飲み過ぎだよ荒北くん。ベロベロじゃない…」
私の肩に背負われているのは荒北靖友くんと言う大学の友達である。今日はサークルの飲み会で一緒になったのだが、飲み過ぎた彼は泥酔状態だ。
そんな状態の彼を何故か私が任された。隣に座っていた金城くんに頼むと言われて今の状況に至る。
金城くん、どうして私に頼んだの!私が荒北くんのことどう想ってるのか知ってるはずなのに…、訳が分からない!
「荒北くん、家着いたよ」
「ンン〜…ベットまで連れてってヨ」
ドアの前まで運んだのだけれど、中まで入ってと言われた。本当に勘弁してほしい。こんなに密着したうえに、彼の家に入るなんて…、でもここで帰ったら荒北くん、絶対ドアの前で寝ちゃうよね。
仕方ないと思い、恐る恐る家の中に入る。男の子の家こそ初めてなのに、好きな人の家なんてもってのほかだ。
「お、お邪魔します…」
早くベットに置いて早く帰ってやる。急ぎ足でベットまで行く。乱暴でごめんねと思いながらもベットにえいっと投げちゃう。ごめんね荒北くん! よし、出てく!もう帰る!
じゃあねと言い、帰ろうとした時、私の腕はがっしりと捕まえられる。犯人なんて彼しかいない。
「荒北、くん…?」
「帰っちゃうのォ?」
その瞳は野獣。ギラリと光って私を捕らえる。ドクリと心臓が唸り始めた。
「ダメ。帰らせてあげない」
いつもの荒北くんではない。酔っているせいかな。色っぽくて妖艶で、吸い込まれる。掴まれている腕は引っ張られ、彼の上に倒れてしまったかと思えば、今度は彼の下に敷かれてしまう。
「荒北くん…?や、やだ、止めてよ…、こんな、」
強く腕を掴まれ、しまいにはキスの嵐。濃厚で熱いキス。分からない。分からないよ。荒北くん。どうしてこんな…、
「ん…、荒北、くん、や」
「…何で泣いてンのォ?」
私、泣いてるんだ。
自然に涙が流れた。いつの間にか脱がされた服が下に落ちている。何これ。私、荒北くん大好きなんだよ。何で、泣いてるんだろう。
「可愛い、可愛いヨ。泣いてても可愛い。寧ろそそる。こんな下着つけてさァ。誘ってるゥ?」
「あ、ん…!良くないよぉ…こんなの良くない…!」
「良くない?何で?」
「す、好きな人と…、するべきすだよ…」
酔った勢いでこんなことしたくない。私は荒北くんが好きなのに、こんなの嫌だ。悲しいよ。こんなの…、
「じゃあ問題ないネ」
「…えっ…?」
「大好きだヨ、日向チャンのこと。ずっと」
嘘…、酔ってるだけだよ。だからそんなこと言うんだよ。
でも、それでもいいと思ってしまう私はとんだ重症らしい。嫌だなぁ、こんな女じゃないのに。まずは手を繋いで、それからキスして、ゆっくりゆっくり歩くのが私の理想だったのに。
「あ、らきっ、た…くん…、あぅ、ひゃん…!」
「名前。名前呼んでヨ…」
「んん…、靖友、くん」
「っはぁ…、ヤッベ」
私は何回も何回も名前を呼んだ。ずっと呼びたくて仕方なかった名前を呼び続けた。まさか、こんな形で叶うなんてね。
靖友くん、大好き。
朝、眩しい光で目が覚めた。
俺、どうやって自分の家に来たんだ。どうやってベットまで来たんだ。何も覚えてねー。
「アァ…頭いてェ、」
頭いてェし、体もいてェ。
もう一眠りするかァ。
「…はっ!!!!??」
ベットの布団を捲ると見知った女がいた。すやすや眠るソイツは俺の好きな奴。しかも俺のカッターシャツ着てやがる!何でこんな格好してんだ!?エロすぎる。何でこいつが?そういえば家に送ってもらったような。でもそっからの記憶が…
『あっ…、ああん!靖友、くん!』
鮮明に頭に響く声。
俺、もしかしてこいつと。
「…マジかヨ」
好きな奴とこんな形でヤってしまったのか。俺はちゃんと告白してから事を徐々に進めると決めていた。告白を受けてくれるかは考えてなかったけど。
無理矢理だったのか…?
日向チャンの気持ちを無視してヤったとかじゃねーよなァ…?
『好き…、大好き、靖友くん…』
頭の中に残るこの言葉は俺の夢じゃねーよなァ?都合良く捉えても、まぁ悪くないンじゃナァイ。
起きたらちゃんと聞けばいい。とりあえず日向チャンが起きるまで、この幸せを味あわせて。
俺は柔らかい肌をぎゅっと抱き締めた。
(んっ、靖友くん…)
(…ン?)
(好き…だよ…)
(やべェ、勃った…)
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