テニス | ナノ


▼ 悲しくて最高の笑顔






「白石くん」



どのくらいぶりに彼のことを呼んだのだろう。いつからだろう。彼を、彼らを名字で呼ぶようになったのは。
彼はゆっくりとこちらを振り向いた。嫌悪に満ちた表情に何とも思わない自分ってすごいなぁと呑気に実感する。三年生のみ集まるこの機会、私は絶対に逃すまいと視線を下げなかった。

みんなが私を不快そうに見つめる。でも、小春ちゃんと銀さんだけは心配そうに見つめていた。ごめんね。そんな顔してほしくないの。いつもみたいに笑顔でいてほしいの。全部全部私のせいなの。


「…何やねん。お前と話すことなんか、」
「部活、辞めるから」


何かを言われる前に私は言葉を投げ捨てた。
ずっとずっと考えてきたこと。マネージャーとしてこのテニス部を支え続け、もうすぐて三年が経とうとしている。全国大会まで支えると約束した。最後まで彼らを、四天宝寺テニス部をマネージャーとして支えると約束した。


だけど、もう耐えられない。


私の視線の先には手で隠している口元をニヤリと緩める彼女がいる。苦しめた元凶、私から何もかもを奪った彼女。二年生なのに何故ここにいるのかは分からないけど、丁度いい。


「私を辞めさせたかったんでしょう。なら丁度いいじゃない。私は辞める。もう決めたの」
「何勝手なことっ!ええ加減にせい!」
「勝手なのはどっちなの!」


大きな声を出すとみんなの動きは止まる。腹が立った。今までどれだけ苦しかったのか、辛かったのか何も分かってもらえなかった。みんなと過ごした時間は一体何だったのか。1人の人物のせいで、全てが狂う。


「せんぱぁい…、私は何も気にしてませんよ?また一緒に仕事したいって思ってます」
「アカンよ。美咲は優しすぎるねん」


仕事なんてしたことないくせに。爪を伸ばして、いつもいつもコートに出て応援ばかりしてるくせに。自分が嫌いになるくらい私の心はドロドロしていた。どうして私がこんなに嫌な感情を持たなければいけないの。唇を強く強く噛む。



「美咲ちゃん。良かったね。これであなたの思った通りになった。私は出ていく。これまで通り、1人で仕事頑張ってね」



最高の笑みでそう言えば、彼女は少し悔しそうに私を睨む。私、こんな女じゃなかったのに。体にいろいろな怪我を負って、精神的にもボロボロなった私にとってもう何でも良くなったんだ。




「さよなら」




後ろでうるさいくらい怒鳴り声を上げられたけど、止まることはない。もう決別する。本当に本当にさよならだ。



一緒に笑い合って、遅くまで練習して、帰りにみんなで寄り道して、悔しくて涙を流した日々は私にとってはキラキラした思い出。もうみんなと笑い合うことは出来ない。1人の人物と出会ってから狂い始めたテニス部。それでも楽しかった。私はテニス部が大好きだった。だからテニスだけは続けてね。

美咲ちゃんは仕事出来るのかな。でも、もう知らない。あなたが来てから私の生活は嫌なことばかりだよ。「先輩の居場所、私に下さい」と言ったあの日から全ては可笑しくなった。
毎日毎日、暴言、暴力。仕事を私に押し付けるのに部活を辞めろ辞めろと言われる。

だから、今日言った。
みんなの顔を見た。滑稽なくらい驚いていた。





ただ、気がかりなのは…








(今日あの場にいなかった)
(優しい彼らにメールを打った)

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