「謙也〜!先行っとるで!」
「すぐ追い付いたるっちゅー話や!」
「まだ女子残っとったりしてな〜。謙也、興奮すなよ」
「なっ…!誰がするか!」
「まぁ、謙也には可愛い日向ちゃんおるからな〜」


忍足謙也は顔を真っ赤にしながら、ジャージを片手に更衣室へ向かう。体育の授業をこのあとに控えているのだが、今は女子更衣室が壊れてしまっているため、共同に時間を分けて使うことになっている。女子の時間は終わったようで、既にグラウンドには姿が。謙也が遅くなったのは放送委員の仕事があったためらしい。



「ったくアイツら…、人のことバカにしおって。しかも日向のこと名前で呼ぶな言うたやろうが!」



ぶつぶつと文句を垂らしながら、更衣室の扉を開く。中にも入るとやはり人がいないからかシーンとしていた。いや、物音が1つ、部屋に響く。不思議に思った謙也は物音のした方へと足を進めた。



「誰がおるんか…?」



そっとそちらを覗くと、もう皆様はお察しの通りかもしれない。人影がチラリ。まだ男子残っとるやんと謙也はさらに近付いた。

その時、人影は声を出し、傍にやって来る。




「ごめんね、まゆちゃん。もう少しで…」



謙也は固まった。相手は女だった。女も固まった。友人だと思っていた人物は友人ではなくて、男だったから。互いに固まった理由はまだ他にもある。


「謙也くん…?」
「え、あっ、えっ、日向…!」


相手が恋人だった。
そしてまたもう1つ。彼女は更衣室にいた。つまり更衣中である。結果、彼女は上半身、下着姿であるということ。

謙也が口をパクパクさせ、真っ赤になっているため彼女も自分のおかれている状況に気が付いた。手で隠すものの全く隠れていない。


「お、俺っ…!外に、」


そう言いかけた瞬間に扉がまた開く音がして、ガヤガヤと男の声も聞こえた。こんな魅力的な彼女を見られるわけにはいかない謙也は咄嗟に彼女の腕を引き、小さなロッカーに身を隠した。


薄暗いロッカーは狭く、かなり密着した形になる。しかも彼女は上半身下着姿。目のやり場はどこにもない。生殺しだ。美味しい状況だが、キスすらままならないこの初なカップルにこれはキツイ。キツすぎる。


「謙也、くん…」
「す、すまん…つい、」


謝るが委員会で遅れて本当に良かったと思う。もし自分ではなかったら、この格好を見ていたのは他の奴だったかもしれない。そんなの死んでも耐えられない。謙也だってまだ見ていないのだ。いや、現在進行形で見てしまっているのだが。


「授業自習になってラッキーだな。それにしても謙也遅ない?」
「そう言えばなぁ。日向ちゃんもいないらしいし、2人でイチャイチャしとるんちゃうか〜」


アハハと笑い合う謙也の友人たち。会話からして、授業はなくなったらしいので、サボりの心配はない。早く行ってくれと願うが、なかなか動かず話を続ける彼ら。


「(アイツら好き勝手言いやがって〜…止めろや!)」
「ねぇ…、謙也くんっ、」
「(ああ!ヤバい俺、理性持たへん。俺らまだキキっ、キスすらしてへんのに…!)」
「んっ、謙也っ、くん…!」
「!?な、何や…!?」


謙也はハッと我にかえると日向の方を向く。なるべく小声で話しかけるが、彼女を見ると言葉をつまらせてしまった。

朱色の頬、潤んだ瞳、荒い呼吸。露になっている肌色に、淡い水色の下着。押し当てられる胸の感触。何もかも魅力的で、男として大切なモノが壊れてしまいそうなくらい妖艶。
謙也は唾をごくりと飲み込む。



「そこ、くすぐったい…」
「えっ!?す、すまん!」


もぞもぞと体を動かす彼女に対して、謙也は小さなロッカーの中で大袈裟に飛び跳ねる。どうやら彼女の腰辺りを触っていたため、そのたびに当たる指先にくすぐったさを感じてしまっていた。


「謙也くんっ!静かに…!」


初めて彼女が顔を上げた。謙也との距離はまさに目と鼻の先。互いに鼻の先端がちょんと触れる近い距離だ。言葉を詰まらせる。

そして、何の言葉も交わさずに、まるで異なった極を持つ磁石が引き合うかのよに唇が優しく重なりあった。柔らかくて、温かい唇は小さくリップ音を鳴らす。短いキスは段々と長くなり、角度を何度も変え、謙也は彼女の可愛らしい口に喰らえついた。


「んっ、は、んん…!」


あくまで小さな声で彼女の口からは甘い吐息がこぼれる。唇や頬、首筋にキスキスキス。キスの嵐が襲う。謙也は自分の理性をもう制御出来そうになどなかった。彼女のその包容な胸にやんわりと触れる。ビクリと跳ねる彼女だが、やわやわと揉む手を止めるつもりはない。


「あっ、ダメっ…、謙也く、んん!?」


声を出そうとする口を謙也は自分の口で塞いでしまう。自らな意志とは関係なく、勝手に手が動く。ああ、止めたげなアカンなんて思っていても、彼女の太股を撫でる体が言うことを聞かない。


「ん、はぁ…日向、」
「謙也くんっ…、バレちゃうよ…」


うるうるした瞳で抵抗されても余計に興奮してしまう。謙也は頬を染めながら、とろんとした瞳で彼女を眺める。
スカートもおろされてしまい、今の彼女下着だけだった。懸命に隠す姿がまた愛らしい。下着に黒いソックスがこれほどいいものかと感じてしまう。

そんな彼女のブラジャーの片方の紐がたらりとだらしなく落ちていた。そして今、謙也の手は彼女の背。この、ホックを外せば意図も簡単に白い胸がたゆんと現れるのだ。想像しただけで、堪らない。何となく気が付いた彼女は背中のホックを押さえた。



「やって…、そない格好されたら我慢でけへん、」
「きゃっ…!謙也くん…!」



あろうことか謙也はブラジャーを前から無理にずりあげる。その瞬間、ポロリと豊かな胸が揺れて現れた。それを手で包み、生の感触をうっとりと確かめる。普段はヘタレな謙也はスイッチが入ると恐ろしい。



「んぅ、やっ…!あっ、あん!謙也くんっ、やめっ…!」
「アカン…、ごめんな日向…、俺、無理や」
「ひゃあっ…!」


ピンク色の先端をちゅうと吸い上げ、しゃぶりつく。声をあげられない彼女は口を押さえ、我慢し続けるが、時折漏れる甘い甘い声に涙がじんわり出る。

お願いだから止めてくれ。


そんな願いが叶ったのか、いつの間にか外にいた彼らはいなくなっており、それに気が付いた彼女は胸を愛で続ける謙也を無理矢理引き剥がしにかかる。離れた時をチャンスに彼女はすぐさま下着を直し、ロッカーから出て、謙也へと向き直した。



「日向…?」
「謙也くんなんか…、」



制服を羽織り、プルプル震える彼女に謙也は相変わらずとろんとした目で見つめてくる。彼女の顔は真っ赤で、しかも今にも泣き出しそう。






「もう知らない…!」






彼女が口を聞いてくれたのは、それから1週間がたった頃であった。






(ホンマにごめん!)
(もう、分かったってば…、)
(でも…、また日向としたいって言ったら怒る…?)
(…謙也くんの部屋がいい)
(!!じゃ、じゃあ…!今度、俺の家に、)
(も、もう!謙也くんのえっち!変態!)




謙也可愛い。スイッチ入ると恐ろしい謙也。ロッカーという古典的だけど、意味の分からない話でした。反省。




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