■ 切原赤也とお姉ちゃん2


「なぁ赤也。何でそんなニヤニヤしてんだよ」


お弁当袋を両手で大切そうに抱え、ニコニコニコニコと嬉しそうに笑う赤也に丸井は奇妙なものでも見るかのような視線を向ける。その言葉に他のメンバーも赤也へと目を移した。当の本人は自覚がないようで、ポケッと訳が分からないとでも言いたげの顔をする。


「確かににやついとるのぅ」
「えっ。俺そんな顔してました?」
「えぇ。とても嬉しそうな顔をしてますよ」
「そう言えば、今日は購買じゃないんだね。赤也にしては珍しいんじゃないかな?」


幸村の言う通り、赤也はいつも購買でお昼を買う派の生徒である。お弁当を持ってくるなど見たことがない。余計に視線が集まった赤也はどこか居心地の悪そうに目をキョロキョロと泳がせる。それを弄らずにはいられないのがニヤリと悪そうに笑う先輩たちである。


「もしかして彼女から貰ったとか〜?赤也のくせに生意気だろぃ!」
「ち、違いますよ!」
「ほぉ…、じゃあ何でそんなにニヤニヤしとるんかのぅ」
「ちょっ…!何なんスか!丸井先輩!仁王先輩!」


2人に絡まれてうわーと助けを求める赤也だが、周りは可笑しそうにその様子をただ眺めているだけであった。結局のところ柳生とジャッカルに助けてもらったのだが。

ともかく今テニス部一同は赤也が何故お弁当でしかも何故そんなに大切そうに持っているかが気になって仕方がないのだ。何でもペラペラ話す赤也が今回ばかりは口を開こうとせず、頑なに何かを拒んでいるようにも見えた。

流石に全員気になる。


「赤也が何かを拒んでいる確率99%だが…、どうだ?」
「し、知らないッス!」
「うーん。流石の俺でも今回は気になっちゃうなぁ」


気になるが昼休みの時間を考えて皆は食べながらその動向を探ることにした。なので赤也のお弁当に注目が行く。包みをしゅるりと解き、蓋を開ける。中身を覗くと「おぉ…」と誰かの声が漏れたような気がした。


「む。しっかりバランスの取れた中身だな。たるんでないぞ赤也!」


真田の言う通り、中身は色とりどりでバランスも取れており一言で言えば綺麗だった。手作り感のある繊細なおかずは赤也らしくなくて、やっぱり変だなと感じてしまう。赤也はと言えばキラキラとその瞳を輝かせ、ウキウキと箸を握った。野菜なんて食べなかった赤也が嬉しそうに口に入れている。それだけでも驚く以外に何もない。


「それ赤也のお母さんが作ったのかい?」
「馬鹿言いなさんな幸村。赤也の家に限ってそれはないナリ!」
「確かに見た目とか気にする母ちゃんじゃなかったもんな〜!」
「…皆さん失礼ですよ」


口々に好き勝手言うが確かに赤也の母親は料理が決して得意と言うわけではない。出来ないわけではないが、お弁当を作るタイプでもない。大ざっぱでいい母親であることは間違いないが、このお弁当は絶対にあの母親が作ったものではないことが分かる。


「こ、これは…!その、」
「やっぱり彼女?俺らに秘密はなしだろぃ?」
「そんなの初耳ですよ!」


作った者を言えばいいことなのに赤也は一向にそれを言おうとしない。それどころか口をぎゅっと塞いで、プルプルと何か我慢しているかのように思えた。丸井が楽しそうに赤也をつつく。幸村と仁王も面白いとそれに参戦し始め、柳生やジャッカルが止めるの繰り返し。真田は静かに食べんかと怒ったりしていろいろと大変であった。
ただやはり冷静である柳はノートを構え、優しく諭すように赤也に声をかける。


「赤也。ただ俺たちはそんなに綺麗に飾ることが出来る人物が気になっただけだ」
「うぅ、柳先輩…」
「別に深い意味はない。聞きたいだけだ。教えてはくれないか?」


かと言う柳も本当は赤也が頑なに拒む人物を知りたい興味本位である。ちゃっかりノートまで構えているところを見ると、悪い男だと思うがそれでも憎めないくらい綺麗な笑みを浮かべるもので、純粋な赤也には疑うことなど知らないだろう。やがて赤也は閉じていた口をゆっくりゆっくりと開き始めた。


「……姉ちゃん、ッス」


小さく呟かれた言葉は皆にハッキリ届いたであろう。すぐさまノートに書く柳であるが、ある疑問が頭に浮かんだ。


「姉と言ったが、それを作ったのはあの姉か?失礼だが、料理を作るようには見えなかったか、」
「あの怖い姉ちゃんが!?マジかよ!料理上手だったのかよ!」
「違います!そっちの姉ちゃんじゃないッス!」


言い終わってから赤也はしまったと言う顔をした。それを見逃すはずもなく、赤也は一気に質問攻めに合う。


「へぇ。赤也にはお姉さんがもう1人いたんだね。いくつだい?」
「お前この間は姉ちゃん1人しかいないって言ってたじゃねぇかよ!」
「ほほう。赤也が隠してたのはもう1人の姉というわけじゃな」
「データとして是非見たいものだ」
「ちょっと皆さん…、あまり責めてはいけませんよ」
「落ち着けよお前ら…」
「静かに食べんか!たるんどる!!」


赤也は後悔した。何故言ってしまったのかと数分前の自分を殴る勢いで顔をしかめる。弁当をぎゅっと握ると、優しく笑う姉の姿を思い浮かべる。



「〜っ!絶ッ対に嫌ですから!!」






(あっ、赤也くんからメールだ。ええと…『お弁当美味しかった!立海テニス部には注意!』ってどういうこと…?)


お姉ちゃんを知られる日も近いかもしれない赤也でした。

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