■ 切原赤也とお姉ちゃん

俺には姉ちゃんがいる。


すっげぇ我が儘で横暴で女と言う生き物を怖いと俺に認識させるくらいの姉ちゃん。
確かに美人ではあるが、男は騙されている。ポンポンと変わる彼氏に俺は同情すらしたことがある。ガサツだし女らしいとこと言えば服がめっちゃあるくらいだ。姉ちゃんとしては嫌いではないが、女としてなら確実に嫌いかもしれない。と言ったらぶん殴られた。小さい頃から俺のおもちゃやおやつを迷うことなく横取りをする、まさに女王みたいな姉ちゃんがいる。



だけど、俺にはもう1人の姉ちゃんがいた。

一番上とは正反対で、優しくて、いつもニコニコと笑ってる姉ちゃん。美人だし、共働きの母ちゃんと父ちゃんのかわりに家事をよくやってくれていた。小さい頃に一番上の姉ちゃんがおやつやおもちゃを奪って俺がわんわん泣いていると、必ず俺に自分のものをくれる。


「泣かないで、赤也くん。私のあげるから…ね?」
「うぅ、ひっく…」
「私は笑っている赤也くんが大好きだよ」
「で、でも…そしたら、ねえちゃんのが…」
「いいのいいの。お姉ちゃんも人のはとっちゃダメだよ?」
「うぅ、ごめんね」


頭を撫でてくれる姉ちゃん。大好きな大好きな姉ちゃん。いつの間にかシスコンになっちまった。





*





「ん…?眩しっ、」


朝、日の光で目が覚めた。でもまだ眠いから布団に潜る。まだ寝れるじゃんかよ。うわ、何か損した気分。

だけど、久しぶりに小さい頃の夢を見た。昔、俺ってあんなに泣き虫だったっけな。いや、姉ちゃんによく泣かされてた気もしてきた。こっわ。

もふもふの布団に顔を埋め、二度寝しようとしたところ、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。眠くて返事する気が起きなくて黙っていると、ドアが開いた。


「赤也くん?」


控えめな声が俺の耳に届く。あ、何か気持ちいい。


「ほら、起きて。今日朝練あるんでしょう?」
「ん〜…」
「赤也くーん」


寝たふりをしていると姉ちゃんは俺の体をゆさゆさと揺すり、頬を軽く数回だけ叩く。姉ちゃんは起こし方まで優しい。布団を剥ぎ取ったりするもう1人とは大違いだ。


「姉ちゃ〜ん…」
「わっ…、赤也くんってば朝からどうしたの?起きなきゃ朝ご飯なくなるよ〜」
「んん〜、起きるぅ…」


ベッドに寄ってきた姉ちゃんの腰にぎゅうっと抱きつくと、いい匂いがする。姉ちゃんは柔らかくて、いい匂いがして大好き。だから、こうやって抱きつくのも大好き。俺がこうするのを家族は慣れたから何も言わないけど、学校とかで言ったら変だって言われる。それでも俺は姉ちゃんが大好きだから、また抱きつく。


「早く支度しなきゃ遅刻しちゃうよ?」
「姉ちゃんも一緒に行く?」
「そうだね。途中までだけど一緒に行こっか」


姉ちゃんと俺は学校が違う。姉ちゃんは高校生だ。学校が一緒だったらどれほど良いかと何度も思った。電車通いの姉ちゃんだけど、どこの学校かは分からない。意外と遠くないんだよとしか言わなかった。


「姉ちゃんネクタイ上手く出来ない!」
「はいはい」


器用にネクタイを結ぶ姉ちゃんは何だかお嫁さんみたい。つかもう1人の狂暴な姉ちゃんはまだ寝てんのか?

結び終えると姉ちゃんと俺は行ってきますと家を出る。一緒にいられる道はちょっとしかないけど、2人で登校するのは好きだ。姉ちゃんは多分もう少し遅くていいはずなのに、一緒に行ってくれる。優しい。


「部活頑張ってね」
「おう!今日こそ絶対あの化け物たち倒す!」
「うんうん!あっ、あと勉強もね〜」
「うっ…」


苦い顔をしていると、姉ちゃんはわしゃわしゃと頭を撫でる。頭触られるのは好きじゃないけど、姉ちゃんは特別。むしろやってくれなきゃ嫌だ。

あーあ、駅のホームが近づいてくる。姉ちゃんと別れなきゃいけねぇ場所だ。嫌だけど、駄々こねると姉ちゃん困らせるし、俺は我慢する!


「じゃあね赤也くん。ここまでありがとう」
「もし遅くなるなら言えよ!俺、迎えに行くから!」


手をぶんぶん握って言うと姉ちゃんはふわりと笑ってまたありがとうと言う。電車に乗るところまで見送ると、俺は学校へ行くというのが日常。姉ちゃん姉ちゃんと俺が姉ちゃん大好きなのは可笑しいかもしれないし、シスコンって言われると思うけど俺はいい。



ただ絶対に先輩たちには姉ちゃんのこと内緒。




(だって、)
(誰にもとられたくないもん)

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