■ 東堂尽八と兄弟2


「きゃあ!!東堂様ぁ!」
「指さすやつやって〜!」
「やだ今こっち見た〜!」


あちこちで聞こえてくる黄色い声援に小さく縮こまった少女は腕の中の可愛らしい袋をぎゅうと握り、東堂ファンクラブの後ろをこそこそ抜ける。



「お兄ちゃんってあんなに人気あるの…?」



すごいなぁと声を漏らすのは東堂尽八の1つ年下の妹である日向である。東堂と同じような綺麗な顔立ちで彼より大きな瞳をパチパチさせる。サラリ揺れる髪に周りの男子生徒から熱い視線を送られていることを彼女は知らない。東堂尽八とは違って、何事も控えめな彼女は本当に兄弟かと思うほど。

とりあえず部室の近くで待っていようと、足を運ばせる。


「(ただお弁当届けるだけなのに何でドキドキしなきゃいけないんだろう…)」


そう。彼女は兄にお弁当を届けに来たのだ。お弁当を作ってほしいと頼まれた彼女は寮の食堂を借りて、朝からせっせと作ることに。取りに来ると約束したのに、兄ときたら忘れていたらしい。

早く来てよと彼女は願う。部室の近くと言っても緊張する。どうも遠慮がちな彼女は部外者な自分なんかが立ち入りしては怒られると思っている。

そわそわとしていると、ザッと足音が聞こえた。彼女は兄だと思い、後ろを振り向いた。何故その時、兄だと思ったのか分からない。



「お兄ちゃ、!」



「誰だァ?てめェ」


(誰ー!?)と彼女も心の中で叫ぶ。ギラリ光る小さい瞳。ぐあっと開く、大きい口。まるで狼に睨まれたみたいに体が硬直した。


「ア?何かお前の顔見覚えあンな…」
「わたっ、私は、!?」


細い腕が伸びてきたかと思えば、顔が近付いてきて、クンクンと首元辺りの匂いを嗅がれてしまい、彼女はカチンと固まってしまう。


「匂いも嗅いだことあるような…」
「ダメだろ靖友。その子怖がってるよ」
「(1人増えた!?)」


ぬるっと現れたのは赤髪。垂れ目とぽってりした唇が特徴の兄と同じようなイケメンだった。だが彼女は男との関わりなんてクラスの数人しかない。だらだら嫌な汗が出る。


「ん?何だか君、誰かに似てるような…」
「荒北、隼人。2人して何をしているのだ?」
「!」


聞き覚えがある声に彼女は壁となる2人の間から声の人物を見ようと精一杯の背伸びをする。隙間から見えた顔はやはり見たことがあった。整った美形の顔。



「お兄ちゃんっ!」
「なっ…!?」
「ハ?」
「えっ?」



日向はいつも小さい声を久しぶりに張り上げた。透き通るような声に東堂はビクッと大袈裟に反応する。残った2人は彼女が放った言葉に目が点となっていた。


「ハ?ちょっと待てヨ。え、何?お兄ちゃん?」
「え、尽八ってお姉さんだけじゃなかったの?」


確実に混乱している。東堂と日向を交互に見る。確かに雰囲気は似ている。整った顔立ちやサラサラの髪の毛。でも瞳が違う。彼女の瞳は柔らかく優しい瞳。

じとりと荒北と新開は日向を見る。東堂と彼女の間に2人が立っているもので、東堂は2人と彼女の距離にムッとした。


「2人共!近すぎるぞ!」


彼女をグイグイ引っ張り、東堂は自らの裏に彼女を隠してしまう。


「日向も何故ここに来たのだ!あれほど来てはならんと言ったではないか!」
「だ、だって…、お兄ちゃんがお弁当忘れたから届けに来たのに、」
「何!?日向が作ってくれた弁当を忘れるなんて俺はなんてことを…!だがお兄ちゃん以外の男と話すのはいただけないな!」
「ごめんなさい…、でも、そんなに言わなくても…、ぐす」
「!!?す、すまない!俺が悪かった!だから泣かないでくれ日向!好きだ!」


東堂はうるうると可愛らしい瞳を潤ませてしまう彼女を東堂はガバッと抱き締める。スリスリ頬擦りまでしてしまう東堂に2人は驚いていた。


「いやぁ、尽八はシスコンだったんだなぁ」
「ありゃいきすぎだろ。妹チャン大変そうだねェ」
「確かにな。あ、妹ちゃん。俺、新開隼人。よろしくね」
「アー、荒北靖友。よろしくネ」


ズイッと新開は日向の顔の前に自分の顔を持っていく。荒北も何となく近くに寄る。だが、彼女が挨拶をしようとそちらを向けば東堂は「よろしくする必要はないのだ!」と駄々っ子みたいに横から抱きつく始末。


「お兄ちゃん。東堂家では挨拶が基本だって教わったじゃない」
「むぅ…」
「挨拶が遅れて申し訳ありません。東堂尽八の妹、東堂日向です。先ほどは兄が大変失礼いたしました…、新開先輩、荒北先輩」


流れるような美しい仕草に2人はほぅと感心する。それ以前にこの妹が東堂尽八の妹であることに驚きだ。謙虚で控えめな笑顔がとてつもなく愛しい。


「…ヒュウ。尽八がこうも可愛がる理由が何となく分かった気がするよ。なあ、靖友」
「なっ!?お、俺に聞くンじゃねーヨ!まあ、いい子なんじゃナァイ?…可愛いし」
「うわあああああん!!日向はずっとお兄ちゃんのだからな!!誰にもあげたりしないからな!!」





東堂尽八が妹を会わせたくない理由は何となく分かる気がしてしまう新開と荒北。福ちゃんは妹のこと知ってそう。



(む?日向か)
(あっ、福富先輩!お久しぶりです)
(え、何故フクが日向のことを…!)
(委員会が同じだからだ)
(あのね、福富先輩すごく優しくしてくれたの)
(う、うわあああああん!)

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