「あかん!財前の隣はあかんで!財前だけはあかん!!」
「意味分かりません。死んで下さい」


ぎゃいぎゃい揉めていたが、結局のところ来て来て!と誘ってくれている遠山と地味に間を空けていてくれる謙也の隣に。離された財前はムスッとむくれていた。それを宥めるのは石田であった。


「じゃあ流すで!この想い日向ちゃんに届け〜!!」
「えっ」
「キモい」


白石は麺を一束握り締め、華麗(無駄)に竹の筒の中、流れている水と共に放つ。
日向のためにと放たれた麺は彼女に届くことはなく、見事に他の者の皿の中に。


「よっしゃああ!ワイもーらいっ!」
「金ちゃーん…」
「な、何で白石怒るん!?」


ズルズルと全て食べてしまった遠山に対し、白石が包帯を取ろうと左手を上げた。遠山は毒手は嫌やー!と日向の後ろにひょこりと隠れる。何ともあざとい。彼女を盾にされたら怒るにも怒れないのが白石蔵ノ介と言う男である。


「姉ちゃーん!白石が怒るぅ!」
「なっ…!?狡いで金ちゃん!日向ちゃんの裏に隠れるなんて…!」
「姉ちゃーん…」
「蔵ノ介くん。ダメだよ、怒っちゃ」
「ガーン!!!」
「ざまぁ」


騒がしかったが、彼女にとってはとても楽しかった。竹の筒を通る透明な水はキラキラしており、心が弾むようだ。ああ、何て明るくて素敵な場所なのだろうと彼女は感じた。

そんな中にいることが幸福に思えた日向はクスクスと微かな笑い声を漏らす。それに気が付いた皆は彼女の方をくるりと振り向いた。


「…楽しいね。すごく、楽しい」


ふんわり笑う日向を見て、先ほどまで言い合いをしていた白石や財前までもピタリとそれを止めた。心の底から楽しいと言う日向を見ているとこちらも幸せになる。


「…せやな。日向ちゃんが楽しいなら俺も楽しいで!もう、ほんまかわええなぁ…」


白石の彼女を見つめる瞳は愛しさを帯びた眼差しであった。白石にとって日向は本当に大切な存在である。


「んも〜!日向ちゃん天使すぎやわ!…何この子。こんな純粋なええ子初めて見たわ」
「小春もめっちゃ天使やで!ま、まぁお前も小春には負けるけどええ奴やと思うで!」
「お〜、始まっとる。すまんばいね。遅れた」


金色と一氏に挟まれ日向は嬉し恥ずかしとこそばゆい気持ちになっていた。そんなところ、ぬぼっとした口調の別の声が聞こえて、少し焦る。



「ち、千歳やないか!誰がお前連れてきたん!?」
「よく言った白石!俺が連れてきたんや!感謝せいお前ら!」
「オサムちゃんかいな!」


オサムちゃんと言うのはこれでも教師である。と財前が日向に説明をしてくれた。これでもって何やねんと怒っていたのは言うまでもない。


「それより何やこのかわええ子は〜!お嬢さん何ちゅう名前?」
「あっ…陰野日向です。すみません。勝手に入ってしてしまって、」
「ええよ!俺のことは気軽にオサムちゃんって呼んでな!かわええ日向ちゃんには1コケシやるわ!」


困りながらも日向は古風なコケシを受け取る。白石によりすぐコケシは取り上げられてしまった。

乾いた笑いをしていると、今度は千歳が日向の前に立つ。大きな千歳を首いっぱいに彼女は見上げた。大きいなぁ、としみじみ感じる。


「むぞらしかね〜」
「む、むぞ… ?」
「それと小さかね。ばってん丁度いいサイズばい」
「こ、こら千歳!抱きつくんやない!」


むぎゅりと抱きつかれてしまう日向はすっぽり埋まってしまう。逃げようとしても、どこか安心感のある千歳の胸の中にども力が抜けてしまい、抵抗する気力がなくなる。結局、白石によって離されたが。



「ゴホン。ほな、流しそうめん仕切り直しや!!」



部長の一声で再び流しそうめんは開始された。今度はみんなで。また楽しくなる予感がした。日向は嬉しそうに笑う。



「ワイが全部食うたるで!」
「小春ぅ!あーん!」
「あらユウくんありがとぉ」
「金ちゃん全部食うなや!」
「謙也さん、さっきから全く取れてませんね。ダサッ」
「そ、そういう財前こそ!」
「(シュパッ)何か?」
「くっ…!!な、何で俺だけ取れへんのや!」
「あ、あの…謙也くん。私ので良ければどうぞ」
「!!え、え、あ…!」
「ほら謙也、やるわ」
「謙也さん俺のも」
「こ、こんないらんし!何やねんお前ら!こんな時だけいらんし!!」



笑顔が絶えないこの場に自分がいれることが日向にとってこのうえなく信じられなくて、幸せであった。


楽しい。

とっても楽しい。


また、そう微笑むのだ。


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