「流しそうめん始めるでー」
ミルクティーの彼は無駄のない完璧な動きで汁の入った器を1人1人に配っていく。
最後、財前の元へ来るが財前は気にもとめず、日向を抱き締めているだけであった。財前の腕の中に埋まっている小さな彼女に彼は目を向ける。
「おぉ、その子が話とった子か〜!何や財前、知り合いやったん?」
「はい、嫁です」
バタバタと日向は財前の中で暴れると案外素直にパッと離してくれた。「照れ隠しやな…」と呟いていたことは聞こえなかったことに。
「(この声ってもしかして、というか絶対…)」
「なぁ、君、名前は…?」
ゆっくりと声の方へと振り向くと、シャンプーの香りが鼻を掠めた。まさかと思い、彼女はスローモーションであった動きを加速させる。
視界に写るミルクティーと端麗な顔立ち。
忘れるはずもない、聖書。
「く、蔵ノ介…くん…?」
「…えっ?う、嘘やろ…?」
互いに顔を合わせると、それは酷く動揺した。決して悪い意味ではないが驚きが隠せない。
何せ、彼、白石蔵ノ介と日向は親しい間柄(恋愛的なものではない)である。言わば遠い親戚であった。
「日向ちゃんや…本物の日向ちゃんや…」
ワナワナと白石の手は震えていた。感動を噛み締めるように唇を紡ぐ。
そしてバッと腕を広げ彼女目掛け走り出す。
「会いたかったで!日向ちゃん!」
ぎゅっと抱き締め、彼女の体を堪能しようとした矢先、ギリギリのところで避けられてしまう。いや、正しくは誰かによって避けさせられた。
「この人俺のなんで」
白骨化。
財前のその言葉に固まる白石はその表現がピッタリだ。
「ななな何言うとるん財前くん。そういう冗談は全くおもろないで?」
「は?別に笑かそうと言うとるわけちゃいますし」
タラリと一汗かく白石と表情を一切変えない財前は対照的だ。反応は違うものの2人はまるで大切なモノを横取りされるのを拒む子供のよう。
明らかに動揺している白石と唇を尖らせ拗ねている財前。間に挟まれる日向は白石に腕を掴まれ、財前に抱きつかれ、一番大変そうであった。
どうしようかと思っている時、ドンッと正面に衝撃が走る。
「なぁなぁ!はよう流しそうめん始めようや!」
それは遠山でいい加減痺れを切らせたらしく、2人を引き剥がす勢いで日向に飛び付いた。日向は今度はしっかり受け止めることな出来た。
「姉ちゃん一緒に行こー!」
「うん。行こっか」
皆が来い来いと手招きしている方へ遠山は彼女を引っ張り、無邪気に駆け走って行く。
「んんー!どこまでも追いかけてくで日向ちゃん!!!」
「ハッ、きも」
後に続いて、白石と財前も着いて行く。
さて、流しそうめん始めましょうか。