何とか起き上がれたものの、遠山はむぎゅりと日向に抱きつき、へにゃりと笑って離れない。日向も嬉しそうに受け止めるが、力の強い遠山を支えきることは出来ないようで彼女の背中を謙也が支えるという形に。



「ったく…、千歳の奴、どこにもおらへんし。小春に手間かけさせるなんて邪道や!」
「あらら〜!3人で仲良く何しとるん?ラブラブやーん!」


一氏の言葉を面白くないくらいスルーした金色は可愛らしく3人に駆け寄り、一緒になってじゃれあう。
一方、謙也はラブラブと言われたことに対し、嬉しいのか恥ずかしいのか分からないほど顔を赤くした。その間、一氏は五月蝿かったが。


「んも〜、照れちゃって!お顔が真っ赤やで!」
「なっ…!て、照れてへんし!うっさいねん!」
「小春になんちゅう口の聞き方してんねん!」
「ユウジはもっとうっさい!」
「なんやとヘタレ!」


今度は一氏と謙也がぎゃいぎゃい口喧嘩をしだしてしまう。金色は溜め息を吐き、パンパン手を叩くと、2人を引き剥がした。


「2人共止めや!ごめんね日向ちゃん?もうすぐ用意出来るから待っとってなぁ」
「い、いえ。私こそ、本当に参加してしまって良いのでしょうか…?」
「何言ってるの〜?良いに決まってるわよ!あ、話してる内にそろそろ出来たみたい!」


ほら、と金色が指を示す方向には部室で1人誰かが出てきたようだ。

日向はそちらを見ようとしたが、後ろから再び遠山に飛び付かれ、謙也の胸に顔が埋まってしまった。彼女から抱きついているようで謙也はボンッと赤くなってしまう。「あ、う」などの単語しか発することしか出来ず、面白いくらいカチコチに固まっていた。



「はぁ…流しそうめんとかほんま面倒くさ…」


ぶつぶつ話す声に覚えがあった。そちらを向こうとしても遠山が強く抱きつくもので謙也の胸の中でむごむごしているしかない。声の主は持ってきた材料などを椅子の上に置くと、日向を見た。後ろ姿であるが、ちらりと。

そしてわざとらしく息を吐くと視線は謙也へと移る。


「女連れてくるとか勘弁して下さいよ、謙也さん」
「ななな何言うとんねん!!そ、そんなんちゃうし!」


彼は露骨に顔を歪め、嫌そうな顔をする。彼に限ることではないが整った顔立ちは華やかで非常にモテる。ここまで言えば分かるだろう。
日向はそんな言葉に怖くなる。この声は彼では…と思うが、何せ知り合ったばかりなのでどうも確信が持てない。



「なぁ、アンタ。ここ女とか基本あかんのやけどー…」



肩を掴まれ日向は無理にそちらへと向かされる。

ピタリ。
止まる時間。

目が合うと焦りを見せたのは彼の方だった。



「え、なっ…日向、さん…?」


強い力は優しいものへと変化する。驚きで目を開き、彼女に穴が空いてしまうくらい見つめた。しかし驚いたのは日向も同じである。


「ざ、財前くん…?」


日向は財前を見ると、不安そうに瞳を揺らす。それは財前にも伝わったようで、しまったという後悔の念がぐるぐる回った。自分が言ってしまった言葉を酷く悔やんだ。


「あのっ、ごめんね。ダメなんて知らなくて…」


にこりと笑うが彼女の笑顔は少し悲しげであった。財前は胸がきゅうっと痛くなる。痛い胸をどうにかしたくて、日向の頭をくしゃりと撫で、すぐさま否定を述べた。


「そんな悲しい顔せんといて下さい…、ちゃうんです。日向さんやと思ってへんくて、」
「そんなっ…謝ることなんか、」
「日向さんは大歓迎ッス。おって下さい。寧ろお願いします」


何という差別。日向も「う、うん…?」と曖昧な返事をしていた。
他の部員は財前では絶対見れない思っていたデレの部分と甘い雰囲気にただただ唖然。


「また会えるとか運命ですわ。流石、俺の嫁…。愛しとる」
「ひゃ、う…」


妖艶な手付きで日向の腰を抱き、耳元でポツンと囁く。頬を赤く染める彼女は恥ずかしくて死んでしまいそうだと目で誰かに助けを求めた。しかし、小春はニコニコ微笑んでおり、一氏は珍しいと口をあんぐりさせ、遠山は「ワイもぎゅーしたい!」と駄々をこねている。謙也は少し複雑そうに唇を尖らせていた。



なかなか離れない財前をよそに部室の扉は再び開かれた。



「何や、みんな集まってどうしたん?」



風に吹かれ響く声は爽やかなミルクティー色の色彩だった。


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