「な、何や…騒がしくてすまんなぁ!」
「い、いえ!そんなことないですよ」



しーん。
謙也と日向の間には会話が全く生まれない。周りの部活動の掛け声や、鳥の鳴き声までハッキリ聞こえるくらい静かであった。何か話をと考えれば考えるほど思い付かない。



「あー」とか「うー」とか謙也は訳の分からない唸り声をあげる。少し赤い謙也をチラリ、日向は覗いてみる。ばちり目が合うと2人共焦ったように目を反らした。そしてまた沈黙だ。日向は何か言わなければと思ったのだが、上手く言葉に出ない。何とか振り絞ろうと、喉元を必死にこじ開ける。



「「あの!」」



重なる2つの声。謙也と日向は同じタイミングで声を発してしまった。


「あっ…そ、そちらからどうぞ!」
「い、いや!大したことあらへんし、そっちから!」
「い、いえ!私も大したことではありませんので!!」
「いや、俺かて!!」


下らないやり取りは10回ほどループされた。このような譲り合いなどテレビの中のお笑い芸人達がするようなもの。まさか自分がこのようなことをするとは彼女も思っていなかった。

結局、男としての決心らしく謙也から話すことに。


「あ、あんな…俺、話すの下手やし、つまらんやろなぁって…」


耳が垂れた犬のようにシュンとする謙也。男なのに可愛らしい顔に日向は焦る。自分が悪い訳ではないのだが何故か罪悪感が生まれる。


「そんなっ…!私こそ上手く話せないし、あのっ、忍足さんを困らせてしまってごめんなさい…」


小さく縮こまる日向は先ほどの謙也と同じようにシュンとしてしまう。大きな瞳が痛々しく伏せられる。そんな表情はとても女の子らしく、守ってあげたくなるような、包み込んであげたくなるようなモノだった。

気付いたときには既に遅し。
謙也の手は自然と彼女のふわふわした髪の毛を撫でていた。あまりに急なことだったもので日向は「えっ…」と声を漏らす。ほんのり赤くなる彼女を見て、謙也は自分が何をしているのかに気付き、バッと手を彼女から退けた。


「すすすすまん!!つ、つい!せ、せやけど陰野さんは何も悪ない!!謝る必要はないっちゅー話や!そ、それと髪触ったこの手は叱っとくからな!ほんまあかんやろ、手!!あはは…はは!」


ワタワタと1人で話す謙也の内容は実につまらなかった。金色や一氏が見ていたら「それでも関西人かッ!」と罵られるだろう。(偏見です)
しかし、それでも懸命に話を続けようとする謙也の姿に日向はクスリ、笑い声を溢した。


「ふふっ……ご、ごめんなさい。あまりに一生懸命お話してくれるもので、」


可愛らしい無邪気な笑顔に謙也は思わず頬を染める。彼もまた照れたように「へへっ」と笑う。先ほどの気まずい雰囲気がまるでなかったように和やかになった。


「忍足さんって、とても面白い方ですね」
「そ、そうか?おおきに!あっ、名字やなくて名前で呼んでくれへん、かな…?」
「えっ…、あっ…なら私も良かったら名前で、」
「え、えっ!ほんま?!」


互いに名前を呼び合ってみるものの、性格上ぎこちない。「謙也、くん」と日向が言うと、謙也は真っ赤になって、乙女のような反応をする。周りから見ると、付き合いたてのカップルのようだった。



そんな時、ドドドッと近付く小柄な影。



「姉ちゃーん!!!」
「きゃっ…!?」
「ぐふぅ!?」


遠山がこちらに近付いてくるなぁと思っていたら、何とそのままピョンッと日向に飛び付いた。勢いが凄まじかったらしく、日向は後ろに倒れ、咄嗟に謙也は彼女を支える。


「あんな!流しそうめん一緒にやってもええって!」
「う、うん」


体制的に謙也が後ろから、遠山に前から抱きつかれ、地面に倒れているようだった。謙也は自然と腕を日向の腰に回す形に。ふわふわ、香る匂い。


「(何や何や何や…!めっちゃ柔らかいし、ええ匂いするし…何なんこれ!)」


早く退いてくれという謙也の願いは遠山には全く届いていない。「姉ちゃん柔らかいし、ええ匂いするー!」と彼女にすりすり抱き寄るばかりであった。謙也の脳内と同じことを遠山は口にする。遠山の頭を撫でながら、日向は腰に巻き付く謙也の手がじんわり熱くなるのを感じていた。


「謙也くん、ごめんなさい。重いですよね…?」
「へっ…?い、いや!全然余裕や!寧ろこのままで…いやいや!何でもあらへん!」



パッと顔を上げると、息がかかるほど近かった。それに2人は顔を赤くして、遠山が退くまでこの体制でいたらしい。



(あかん…感触、忘れられへん…)



ヘタレ謙也くんでした。


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