しばらく話していたためか、2人はだいぶ親しくなっていた。日向も堅苦しい話し方ではなくなり、大切な弟とでも会話をしているような気分になる。


「…ワイ、姉ちゃんに何かお礼したい」
「えっ?」


何かを考え始めた遠山は思い付いたことをポツリと呟いた。ぐぬぬ…と唸る彼は、助けてくれた日向に何かをしたいと考えていたらしい。しかし、金もなければ物もなく、礼としてあげられるものは何もない。


「そんなっ、何もいらないよ。そう思ってくれるだけで、充分嬉しい」


遠山のその思いだけで、日向の心は満たさせる。にこりと笑う日向だが、遠山はあまり納得のいっていない様子で、じとりと彼女を見る。そんなに見られても可愛いだけであり、思わず、くすりと声を漏らしそうであったが、それでは拗ねてしまいそうなので我慢。


「ん〜……あ!!そうや!」


突然の大きな声に日向は少しびくっとする。一方、遠山は何か思い付いたようで嬉しそうに笑っていた。


「今日、部活で流しそうめんすんねん!姉ちゃん連れてったらええやん!」
「え…ちょ、遠山くん!?」


ワイ天才や〜!と言いながら、遠山はどこに行くのかなど全く検討のつかない彼女の手を掴み、猛スピードで走り出した。遠山の速さになどついていけるはずもなく、途中でゆっくり歩いてもらったのは言うまでもない。





四天宝寺中、テニス部前





「ほ、本当にいいから…!私、部外者だし、入っちゃダメだよ…」
「大丈夫やって!みんなめっちゃおもろいで!!」


頑なに拒む日向であるが、遠山にそんなこと関係ないし、気付くわけもない。ぐいっと手を引き、寺みたいな大きな門をバンッと開けた。中は普通のテニスコートであった。



「も〜!やっと来たん?」
「あ、小春!白石は?」
「蔵リンなら光きゅんと銀さんと部室にいるわよ〜」
「よっしゃー!」



全く知らない声にびくりとする日向に構わず(というか気付かず)、彼女を置いてきぼりに遠山は部室がある方へと走っていってしまった。残された日向はわらわら集まる人々に固まるしかない。



「ったく金ちゃんは…待ちくたびれたっちゅー話や!」
「謙也、小春の隣立つな死なすど」
「ちょっとおっただけやん!ユウジひどない…?」


個性的な面々。
この中で日向は完全に浮いている。悪い意味ではないが、大阪の彼らは彼女にとって眩しいだ。いにくくなった彼女は、この場から逃げたくなった。遠山のいなくなった今、身を縮めるしか出来ない。



「あら〜!こちらのお嬢さんはどなたかしら?」


柔らかい女性口調で金色小春は日向に目を向ける。自分へ向けられた目に日向には一気に緊張が走る。


「あっ、あの…わ、たしっ…!」


上手く言葉が出ない。理由はおろか名前すら言えない。こうも社交的になれない自分に嫌気がさす。



「オイ!何やその態度!小春がせっかく話しかけてやってるんやから返事くらいしたらどうやねん!!」
「ぁ、!」


怒号が飛び散ると、日向の体は大きく揺れた。
緑のバンダナをした一氏ユウジはギロリと日向を睨むのだ。まるで敵意剥き出しのような彼に、彼女は無意識にだが目に雫を溜めた。
じんわりと零れ落ちてしまいそうな涙を見て、一氏だけでなく近くにいた忍足謙也もぎょっとする。


「な、何やねん!お前の態度が悪いんや、」
「ちょお黙れや一氏!!」
「こ、小春ぅ…」


それでも尚指を指し、怒りをぶつけようとする一氏へ、金色はさらに大きな怒りをぶつける。一氏はピタリと止まり、すがる声で名前を呼んだ。



「このアホが急に驚かせてしもて堪忍ね?無理して話さんでも、落ち着いた時にゆっくり話したらええんよ」


優しい声色、肩に触れる温かい手に日向は大きく安心を得る。それらの行動は彼女を理解してくれているみたいであった。金色の人柄に助けられ、日向はちゃんとしないとと決心をする。



「あ、の!わ、私っ…、人見知りでっ…上手くお話出来なくてっ…!も、もし…気分を害されてしまわれたのなら、ごめんなさいっ…、でも、皆さんと、お話、したい、です…」


スラスラと上手い言葉は出てこないが、彼女なりに精一杯のことだった。ぎゅうっと手のひらを握り締め、キョロキョロ目を泳がせる。


「んも〜可愛すぎやわ!それより、こちらこそ謝らんとあかん!ほら、ユウくん!」
「……す、すまん」


瞳を潤ませ、恥ずかしそうに頬を赤く染め上げる彼女はとても可憐である。金色はむぎゅっと日向に抱きつくと、すかさず一氏に謝罪をしろと求めた。


「い、いえっ!あのっ、私も失礼な態度を取ってしまいましたので、貴方は何も謝る必要はないです」


一氏は渋々と謝罪をしていたが、彼女の優しい言葉に眉を下げた、へなりとした笑顔に一瞬だけ目を見開く。しばらくじっと顔を食いつくように見ていた。ぶつぶつと「あの衣装とかイケるんちゃう…?」などと言いながら。


「あっ、アタシは金色小春って言うの!好きに呼んでね〜!この緑のバンダナは一氏ユウジでそこで固まってるのは忍足謙也。その他は部室にいるからまた後でね」
「わわ、私は陰野日向です!」


金色は日向を愛でるように微笑んでいる。彼女を見ていると、小さくても懸命に咲く一輪の花のように思えたのだ。


「お前、金ちゃんに無理矢理連れてこられたんやろ?」
「む、無理矢理というわけでは、あのっ…、」
「ええねんええねん。分かっとるから」


一氏はニシッと笑い、得意気に彼女が来た理由を言い当てる。当然、当たっているのだが、無理矢理連れてこられたなど日向の性格から言えるわけない。彼女は少し困ったように笑ってみるだけ。一氏もそれに分かったようにまた笑う。(仲良くなるの早すぎる一氏)


「金太郎さん、日向ちゃんのことがとっても好きみたいね。きっと何か喜んでほしくて連れてきたのよ。ほら、今日アタシ達、流しそうめんするやん」
「流石小春!!その通りや!!」


うふふと金色は嬉しそう。
遠山の思いは日向も分かっていた。改めて、そう言われると何だか照れてしまうものがある。でも、嬉しさの方が上回っているであろう。


「あ、俺と小春で千歳探さなあかんくない?」
「あら、そう言えば蔵リンに言われてたん忘れとったわ!」


行くかと一氏と金色。
2人が仲良く腕を組み、歩きだしてしまうと、残されてしまう忍足謙也は焦りだした。


「ちょ!おおっ俺1人残るんか!?」
「その内部室からみんな帰ってくるわよ〜」
「ほんまヘタレやな。行くで!小春!」


嘆く謙也を残し、一氏金色ペアはそれはラブラブという様子でこの場を去っていってしまった。





「…………」
「………?」





残された2人は、ヘタレな彼と人見知りの彼女。


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